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二冊目『偽りの信仰』 


信仰とは救いである。

救われぬものに救いを差し伸べて、それは偽りなのかもしれないけど、確かに救済していた。


朝は早くから教会に行ってお祈りをして、恵まれない孤児のためにご飯を用意して、学校に行く。

魔法を習っていつか恵まれない孤児たちを救ってみせる。


それが私の在り方だ。







『闘争しかあるまい』










しかしそれは唐突に終わりを告げて、絶望へと追い込まれる。


あぁ、神よ。どうか、どうか私の命で、この闘争に終わりを…。

















◆◆◆


そこだけ時間の感覚が違っているかのような、静かな部屋の中で、着物を着た白髪の老人が茶を飲んでいた。



「美味いな、良い茶葉を使っているのだろう。

畳と、襖と、時折響くししおどしの音がより一層引き立てているのだろう」


老人が満足そうに茶碗を置いた瞬間、閑寂とした部屋の雰囲気を荒々しくぶち壊す様に女中と思しき黒髪の女が入ってきた。


「おっすー、茶ー飲み終わったかよ、ボス」


「はぁー、アズネ、お前はもう少し女性らしく振る舞うべきだ」


「知るかよジジイ、ったくグチグチうるせ…お前それ飲んだのかよ」


眉間にしわを寄せて腕を組み不機嫌そうな顔をしていたアズネは空になった茶碗を見てニヤリと笑う。


「なんだその顔は。

流石はマユズミ君が入れた茶だ」


「……さっすが味覚音痴」


「何か言ったか?」


「いや、別に。

それより、洗濯した服取り込んでくるわー」


大股で歩いていく不良女中にほとほと呆れながら老人は茶碗を見つめる。


「あ、そのお茶私が入れたお茶だから!」


突然部屋の外から声が聞こえてきたと思ったら全力で廊下を駆けていく音が響く。


「……まさか」


老人は額に汗を流しながら茶碗を手に持つ。


「だ、団蔵」


「はっ」


老人がそう呼びかけると黒装束の男が老人の横にあられる。

音もなく、気配もなく、突然現れた男に老人が茶碗を見せる。


「団蔵、これには何が入っていた」


「茶、ですね」


「誰が入れた?」


「アズネですね」


「もう一度聞く。

この茶碗には茶と『何が』入っていた?」


「茶と下剤ですね」


「団蔵、何故教えなかった?」


「面白そうだと思ったからです」


あぁ、何故俺のワシの部下には忠誠心というものがないのだろうか。

心の中でほろりと涙を流しながら老人は厠に向かう。


「団蔵、会議の時間を指定された時間の二時間後に変更し、伝えておけ」


「はっ!」


それから1時間後、老人はようやく厠から解放され、会議が始まった。


「さて、会議を始めよう」


「ひゃは!!会議!?会議ですって?!ひゃはは?!

数分前まで厠で糞垂れ流していたご老体が!?ひひひ!!」


「煽るなベックマン。これでも我らシーレンスのボスだぞ」


「君たち?!ワシの心をどれだけへし折れば気が済むんだね?!ちょっと泣けてくるよ?!」


場違いなピエロ姿の男がパチパチと手を叩きながら笑い、それを金髪のハンチング帽子を被った青年が止める。


いつもの光景であるため皆特に気にしていない、むしろ興味が無いように別の作業をしているのが多数である。


会議に集められた幹部(カポ)は十二人。

それぞれに役割と構成員が与えられており、それぞれがそれぞれの役割のために動くため、幹部(カポ)同士で集まっても一部を除いてまったく協調性がない。


そんな現状に頭を抱えつつも、一応まとめ役的な立ち位置であるマユズミは重い腰を上げて立ち上がる。

長い黒髪を揺らし、瑞々しい肌を紫色の着物で隠した女性はまさしく撫子のような美しさである。


「さて、今回の会議内容は他でもありません。アステリオ教会についてです」


「マユズミ君、眉間にしわってるよ」


「黙れ」


「ワシ、ボスなんだが」


「現在アステリオ教会は我らシーレンスマフィアからの脱退を目論んでいる可能性が確認されています」


「無視……」


「ひゃは!つまり、裏切りですねぇ!」


「そういうことです。動機は恐らく金でしょぅね。最近ペイルズ神父は金にうるさいようでしたから」


「身寄りのない子供売りさばいて金儲けしてるくせに。どんだけ金欲しいんだか」


金髪ハンチング帽子の男は嫌悪感を隠さず、口を歪める。


「で、このアステリオ教会の処遇についてですが…」


マユズミはそう言いながら視線を老人に向けたため、ほかの全員も老人の方へと視線を向ける。


「え?ワシ?

そりゃあ、殺すだろう。女子供なんて関係なく。痛みを味あわせるとか考えなくていいからとにかく殺してこい。孤児に関しても気にしなくていい。変に洗脳されてて向かってこられても邪魔なだけだしな」


声音を変えることなく、いつも通り淡々と答えるその姿に幹部達は畏怖を感じる。冷徹なのではない、激情化でもない。命の価値などこの老人の前では石ころと大差ないのだ。

だからこそ、言葉に乗る感情は恐ろしく空虚で、空っぽだ。


「さぁ、ちゃっちゃと終わらせようじゃないか。

嫌な予感もするしなぁ」


しかし、最後の言葉だけ、薄気味悪い感情を乗せていた。






出る出る詐欺。でも一応少しだけ出てるのでセーフ。いや、アウトか。



ちょっと、設定公開。

この世界での魔法の位置づけ。

魔法は一対一の場合にだけ使えるものであって戦争などの乱戦では効果を発揮する事ができないため、魔法が使えなくても騎士団や軍隊に所属する事は可能である。


唯一、それらの枠組みから外れた力が『()ここに一つ我を得たり(リヒシハト)』である。

使える者は極小数であり、人の感情が空気中の魔力に強い影響を与えることによって一時的な魔力暴走状態にさせ、感情の形化、『在り方』を与えることによって魔法へと昇華させた魔法。


因みにこの魔法の特徴は空気中から体内に魔力を取り込まなくても使える点にある。つまり、感情が強く、自らの『在り方』を有しているのならば素人でも扱うことのできる力である。


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