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一冊目『物語に住む脇役A視点』


やったのか。


背中から地面に倒れ込んで空を見上げると雲一つ無く、澄んでいた。

心の中を満たす充実感は相当なもので痛む身体を無視して笑い声を上げようとする。


仕組まれていた。


少し考えれば簡単にわかる。

あそこで不良に絡まれた事、そして裏社会の人間と出くわした事、ベンチに座っていると側でマフィアが諍いを起こしていた事。

そしてなによりも、タイミング良く情報屋が現れた事。


全てが仕組まれていた。

用意された舞台だった。


倒れている側に一人の男が現れる。

無表情で、ネズミのような猫のような男。肌が白く病弱で、漂う雰囲気は魔人のよう。


「お前かよ。

勝手に人の心で遊びやがって」


「ふむ、それはすみませんでした。

それより、私の仲間になりませんか?」


「直球かよ。

なんで俺がテメェの仲間にならなきゃいけねぇんだ?」


その男は不気味な笑みを浮かべてコチラを見る。

離さないように、逃がさないように、蜘蛛の糸で縛っていく。


「イーツ。

私の仲間になりませんか?

『最強になりたいのでしょう?』」


あぁ、そういう事か。

だから、ここまでしたのか。

確かに、それを言われると俺は頷くことしかできない。


「わかったよ。俺はそれに応じなきゃな。

最強を目指す事。それが俺の『在り方』だ。

まぁ、けどよぉ。もしお前が俺の邪魔をしたらコロスぞ?」


「えぇ、勿論です。

さて、それではここを離れましょう。

貴方の魔法によってここ一帯は焦土と化しました。直に魔法局の人間が来ることでしょう」


「魔法局、マジか!

やべーじゃねぇか!!」


魔法局。それは神聖ヴァリエリトと並ぶ、国から独立した巨大組織である。

世界の安寧と秩序を守る人界の番人。

たとえ貧民街の一角と言えど、一帯を焦土化させる程の魔力を感じ取れば直ぐに現れるだろう。


「面倒な事になる前に早く帰れるぞ」


「その必要はありません」


冷たい声が耳を貫いた。

足が地面に縫い付けられ、身体もピクリとも動かない。首だけがギリギリと嫌な音を出しながら声がした方へと動く。


白い外套に白いネクタイ。丸い眼鏡から除く目は気ダルそう見えるものの冷酷な感情が混ざっている。

彼は両手を衣囊(ポケット)の中に入れ、コチラに鋭い眼を向けている。


「……まさか。貴方が来るとは驚きです」


エナレスは珍しく本当に驚いた様子で白衣の男を見る。


「なぁ、エナレス、だよな。

コイツ誰なんだ?」


「彼は安寧と秩序の番人して、人類を正す審判者。

魔法局実働部隊総局長、リヒテン・バルイツ・ホーキンス」


「魔法局実働部隊総局長……」


リヒテンは眼鏡を直してから服装を正して軽やかに一礼する。


「お初にお目にかかります。

そこの者から紹介されましたが今一度。

魔法局実働部隊総局長、リヒテン・バルイツ・ホーキンスです。

魔法局の剣を預かっている者です」


「なんで…そんな大物がここに…」


「えぇ、確かにそうですね。不思議に思うのは当然です。

本来ならば私でなく、ここ一帯の担当をしている者に向かわせる所でしたが、ある事情がありましてね。私がここに来る事になったのです」


「事情……」


「えぇ、貴方の隣にいるそこの男ですよ」


「は?」


俺はエナレスに目を向けると、彼はいつもの様に無表情で立っている。


「エナレス・オラトレア。

それともこう呼んだ方がわかりやすいでしょうか。アガレシア農村部で起きた百人消失事件の容疑者、『魔人(アルヴァート)』」


わからないことが多すぎる。

何となく俺が、この不気味野郎のシナリオに付き合わされていることだけは解ったが、その物語が一切見えてこない。

魔人?何の話だよ。


「まぁいいでしょう。きっと貴方は何も話さないようですしね」


「えぇ、話すつもりはありませんよ。そもそも話せませんしね。

私はたまたま農村部に寄り、事件に巻き込まれただけですから」


「えぇ、確かに。貴方は一度も我々に証拠を見せなかった。だからこれは私のカンでしかありません。

私の一存で無罪とされている人間を捕まえることはできません」


リヒテンはクルリと背を向けて去っていく。


いや、何しに来たんだよ。と、ツッコミを入れたくなったが我慢した。なんか雰囲気が重たすぎる。


「いや、何しに来たんですか?」


お前が言うのかよ!


「一つは貴方の存在を確認するためです。

もう一つは、そうですね言うのを忘れていました。

もうすぐスペリオ城で勇者召喚が行われます。

……それでは」


わざわざ戻ってくるのかよ。絶対いい人だな。この人。


「なぁ、お前の考えてる物語ってなんだ?」


リヒテンが見えなくなってから、俺は何と無くエナレスに聞いてみたくなった。


「そうですねぇ」


エナレスは目を閉じてコクリコクリと頷きながら、目を開けて笑う。


「内緒です」


「そっか」


俺はきっと脇役で、コイツの中で俺は何時でも捨てられる駒でしかないのだろうなと思った。

けれど、その笑顔を見た瞬間、それらがどうでもよくなった。

これは俺の勘だが、コイツの『在り方』は残酷で悲劇的なのではないだろうか。



一冊目終了

次回から二冊目に入ります。

次回、ようやくヒロイン登場!

まあエナレスの性格からして、ドキドキな青春展開などありはしない。

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