協力関係?
「遥喜、起きろー」
朝7時半過ぎ、誰かの声が聞こえてくる。
もう朝か、眠い。あと5分だけ…。
「起きないといつもの食らわすよ」
あ、この声は姉だ。それよりいつものやつを朝から食らうのは嫌だ。
「ごめんごめん、起きてるから」
「もう、さっさと起きなさいよ」
「ごめん、 あゆ姉」
「朝ご飯できてるから下降りてきて」
「わかった」
俺の姉、市宮 明優奈は大学2年で俺の4つ上。容姿端麗で文武両道、さらに家事なども完璧にこなせる高スペックな人間だ。俺の家は両親が海外にいてあまり家に帰ることがなく姉との2人暮らし。その為、家事全般は姉がこなしてくれている。弟としてもこんな完璧な姉がいることは誇らしい。
「そういえば昨日、入学式だったわよね。友達はできた?」
朝ご飯を食べながらあゆ姉が聞いてくる。
「まぁ、一応ね」
「そっか。遥喜が行ってる学校って凄いわよね。普通希望した進学先なんて行けるとは限らないのに。卒業するだけで行けることが基本的に確定するなんてね。もしかして卒業するには単位を取る以外にも難しい条件があったりしてね」
流石に勘が鋭い。確かに俺は卒業までに彼女をつくらなければならないというふざけたノルマを達成しなければならない。しかも俺は今まで女の子と付き合ったことなんて一度もない。俺にとっては最悪なノルマだ。当然、リスクも高くなっている。でもあゆ姉に心配をかけるわけにはいけない。俺が自分で決めた高校だし。
「流石に考え過ぎでしょ。じゃー行ってくるね」
朝ご飯も食べ終わり鞄を持ち玄関に向かう。
「行ってらっしゃい」
「よお、遥喜」
学校に着き自分の席に着いた俺に翔真が声をかけてきた。
「おう、おはよう翔真」
「それでさ、遥喜はどんなノルマだったんだ?」
唐突に直球な質問。昨日、翔真は先に帰ったから俺のノルマの事はまだ言っていない。おそらく俺のノルマを知ったら驚くだろうな。俺もまだ実感がないし。
ノルマの内容的にもあまり多くの人に知られる訳にはいかないだろう。
「翔真、他の人に言わないって約束してくれるか?」
「え?あぁ、分かった」
「まずはパターンからだな、俺はパターンCだった」
「ん?嘘だろ?」
流石に信じられないようだ。まぁパターンCになる確率はほとんどないって言ってたからな。
「嘘じゃないんだよ、これが。俺もパターンCになるとは思ってなかったよ」
「マジか、運がいい…のか?この場合」
「別に狙っていた訳じゃないし。むしろ1番リスクが高い」
「なんとも言えないな」
「あぁ。問題はノルマの内容なんだ。正直、達成できる気がしない」
「そんなにパターンCは難しいのか?」
「俺のノルマの場合、簡単な人は簡単だろうな」
「そうなのか。で、遥喜のノルマは何だったんだ?」
「実は俺のノルマは…『彼女をつくれ』だったんだ」
俺は自分のノルマを翔真に打ち明けたが反応がない。
聞こえなかったのか?
「えー!!!」
しばらく間が空いてから翔真が叫んだ。周囲のクラスメイト達の視線が痛い。
「ちょっ、バカ。声でかいって」
「悪い。流石に驚いてさ。遥喜、お前のノルマは本当に『彼女をつくれ』で間違いないのか?」
「残念ながら間違いないだろうな。誰にも言うなよ」
「分かってる。こんなおかしいノルマを他の人に言ったら一瞬で広まるだろうな」
「あぁ。そういえば翔真はパターンBだったよな。今年のノルマは何だったんだ?」
「俺の今年のノルマは『試験で5教科合計400点をとれ』だった」
「そうか、普通のノルマだな」
まだ決めつけるのは早いがおそらく他の人も似たようなノルマだろう。ということは俺みたいな変なノルマになった人はあまりいないのかもしれない。
「それで、翔真は勉強できるのか?」
「そんなできる方じゃないな。まぁなんとかなるでしょ」
「そうか、気が楽そうでいいな。ほんと最悪なノルマになったな」
「ドンマイ、まぁ俺も出来ることがあれば手伝うからさ」
「ありがとう、助かる」
「はーい。皆さんおはよう」
翔真と話していると教室のドアが開いて友野先生が入ってきた。
「じゃー今日から授業が始まるからね〜。頑張って」
チャイムが鳴り1時間目が始まる。授業初日な為、当然といえば当然だがほとんどが授業の説明だった。特に変わったこともなく授業は進められていくようだ。各教科ごとの先生達の自己紹介などで簡単にではあるがこの学校の先生達のことを知った。特別なこの学校といえど先生達は厳しい訳でもなく、むしろ話やすそうな印象すら受ける。ちなみにこのクラスの担任である友野先生は数学の教師らしい。緩やかな空気の中、午前中の授業が終わり昼休みに入った。2日目ということもあり昨日よりもクラスは少し賑やかになっているような気がする。友達もできた人もいるだろう。
「遥喜、食堂行こうぜ」
「そうだな、行くか」
この学校には食堂があり3学年誰でも了解することができる。弁当を持ってきている人はそれでいいんだが俺は弁当を持ってきていない。
3学年利用できる為か人が多い。席の数は見た感じかなりあるから足りなくなることはまずないだろう。俺は並んでいる列の最後尾に翔真と並んだ。
「遥喜は何食べんの?」
「俺は…うーん…カレーライスかな。翔真は?」
「ほうほう。定番だね〜。俺はラーメンかな」
翔真と話していると注文すると場所まできた。
しばらく待つと俺が頼んだカレーライスがきた。
「じゃー翔真、先行って空いてる席に座ってるから」
「りょーかい」
混んでいるとはいえまだ半分くらい席は空いていたので適当な席に座る。
「市宮くん」
背後から俺を呼ぶ声がした。振り向くとそこには…。
「えっと…。城咲さん、どうしたの?」
振り向くと俺の隣の席の城咲さんが立っていた。俺の隣の席ではあるが一度もまだ話したことはない。
「少し話があるから放課後に屋上まで来てくれない?」
「え?話なら今…」
「じゃあ、よろしくね」
俺の話を無理やり切り城咲さんは行ってしまった。
一体話って何だろう。検討もつかない。
「お待たせー遥喜。じゃー食おうぜ」
翔真が俺の前に座り食べ始める。
俺も翔真に続き食べ始めた。
午後の授業も午前中の授業と特に変わらず先生方の自己紹介や授業の説明などで終わった。本格的に授業が始めるのは明日かららしい。帰りのホームルームも終わりついに放課後になった。屋上のドアの前まできた俺は恐る恐るドアを開ける。屋上は中々の広さだった。城咲さんは奥のフェンスに寄りかかるように立っていた。
「市宮くん、とりあえず来てくれてありがとう」
「まぁそれはいいけど。で話って何かな?」
「市宮くん。単刀直入に言うけどあなたのノルマは『彼女をつくれ』でしょ」
え?今何て言ったんだ?もしかして俺のノルマを知られたのか?いや、でもなんでだ。もし俺のノルマを知ったとして何故それを俺に言うんだ。分からない。
「えっと、何でそう思うのかな?」
「思っているんじゃなくて確信してる」
言い切ったな。問題は何故知られたのかだけど、素直に認めて聞いてみるか。それともとぼけて違うと言うか。どうするべきなんだ?
「ちなみにとぼけても無駄」
明らかに雰囲気が変わりまるで別人のようだ。これは下手にとぼけない方がいいな。それにしても城咲さん、優しそうな印象だったんだけど今はなんか少し怖い。
「そうだけど、何でそんなことを城咲さんが知ってるんだ?」
「秘密」
城咲さんは不気味に微笑みながら言った。
俺的には1番そこが気になるんだが…。
「で、俺のノルマを知ったことを何故俺に言うだ?」
「へぇ、頭は少しきれるみたいね。ここからが本題。市宮くん、私に協力してくれない?」
「協力?どういうことだ?」
「この学校では絶対にノルマを避けては通れない。だからノルマ達成に向けて協力するってこと。それに進学先が被ったときには流石にこの学校のシステムといえど何人も同じ大学に行けるわけじゃない。数には限界がある。もしそうなったら学力以外の学校生活での実績で決まる。その為には色々行動していかなきゃいけない。だから協力して欲しいの」
そんなルール言ってたっけ?俺が聞き逃しただけか?
「今言ったルール、昨日友野先生は説明していなかったけど」
こいつ、俺の心読んでるのか?まさかな。それより協力ってめんどくさいな。
「何で俺を誘う?」
「市宮くんはクラスの誰よりもノルマのことを深く考えていたように見えたから」
「それは見当違いだな。俺はなんも考えてないよ。だから協力はしない」
城咲さんには悪いが正直めんどくさい。自分のノルマで手一杯だって。
「私が市宮くんのノルマを他の人達に言いふらすと言ってもそれは変わらない?」
「おいおい。それは困る」
「じゃー協力してくれる?」
くっ、見かけによらず城咲さんはやる事がエグいな。
なるべくめんどくさいことはしたくないんだけどな。
「じゃーさ、俺が他の協力してくれそうな人を探すからさ。それじゃ駄目かな?」
「市宮くん、君そんなにバラされたいの?」
ヤバい!城咲さんの顔がマジだ。もうこれは協力するしか道はないっぽい。
「分かった、協力するよ」
「賢明な判断ね。じゃーこれからよろしく遥喜くん」
「あ、あぁ。よろしく城咲」
「これからは行動するときは呼ぶからよろしく」
「了解」
城咲は俺が協力することを認めると不気味に微笑みながら屋上を出て行った。
はぁ。なんでこうなった。