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番犬の兄妹

賑やかな商店街を抜けると、次に瞳へ映ったのは大きく豪勢な家々の立ち並ぶ住宅地だった。


「うお、すっげぇなここ…」


辺りを見渡しつつ感嘆の呟きを漏らせば蒐が説明してくれる。


「この世界は『朱雀』『青龍』『白虎』『玄武』と呼ばれる四つの場所に分けられているんだけど、ここは朱雀。天兵族や番犬が暮らす高級住宅街がある」

「なるほどな、朱雀には高級住宅街、と。他の場所には何があるんだ?」

「青龍はあんたがさっき居た森、それから『天変地』と呼ばれる大きな泉がある。白虎は商業が栄えていて、さっきのとは比べ物にならない大きな商店街があるよ。玄武は妖精族の暮らす村。僕は月村に住んでるけど、他に『花村』『鳥村』『風村』がある」

「へえー、わざわざ説明ありがとな」

「…別に、仕事だから」


話が途切れるとほぼ同時に蒐がひとつの家の前で立ち止まる。どうやら目的地に辿り着いたようだ。

外観は周囲の中でも一際目立っている。大きさは他とは変わらないように見えるが、とにかく真っ黒なのだ。壁も、屋根も、全てが。

こちらから見える窓にも黒いカーテンが引かれているようで、中の様子はわからない。


「…ここで合ってんのか?」

「合ってる。行くよ」


些か不安になって問いかけるも蒐はずんずん歩いてこれまた真っ黒な門の前に立つ。そのままインターホンを躊躇いもなく押した。


「はい」


しばらくして、女性の声が応答する。


「月村の者だ。村長から迷い子をこちらに預けるようにと」

「ああ、翔二郎さんの所の!迷い子さんですね。わかりました、どうぞ〜」


突然の訪問にも関わらず、女性の声は明るく、何処か嬉しそうだ。などと思っていれば唐突に門がぎいと鳴いて開いた。自動のようだ、凄い。

蒐と共に恐る恐る扉まで続く道を歩き出す。道を挟むように芝生を敷いた庭があり、所々に赤い薔薇らしき花が植えられている。新たな発見だ。この世界にも薔薇がある。

扉の前まで来ると、黒いそれががちゃりと開く。出てきたのは、癖のある明るい金髪をツインテールにし、宝石のような青い瞳を持つ少女だった。


「ようこそいらっしゃいました、迷い子さん!」


柔らかく瞳を細めて彼女が笑う。ふわりと広がった、フリルのついた黒いワンピースが揺れる。どうやらこの少女が、インターホンで応答してくれたひとらしい。

この家には他に誰か居るのだろうか、と考えた途端に少女の背後から長身の男性が姿を現した。同じ癖のある金髪を後ろで一つに纏め、青い瞳を持つ男性だ。白いシャツに黒のベスト。なんだか執事を彷彿とさせる格好である。


「おや、また迷い子さんだ。ふふ、いらっしゃい。君も案内お疲れ様」

「いや。それじゃあ、僕はこれで」


穏やかな声が蒐に労いの言葉を掛けるが、無愛想に短く返した蒐は早くも去っていこうとする。


「ちょ、もう行くのか?」

「僕の仕事は終わり。それじゃあね」

「おい待った、蒐、ありがとな!」

「……どーいたしまして」


やはり蒐に表情は無い。ここまで表情の変わらない者を見たのは初めてだった。態度は素っ気ないけれど、なんとか振り向いて返してくれただけよかったとしよう。

そのままあっさりと去っていく彼を見送ると、少女が話し掛けてくる。


「さ、迷い子さん、中へどうぞ!そうだ、お名前は?」

「えーと、お世話になります、かな。園崎有磨っつーんだ」

「有磨さん!宜しくお願いしますね!私はローズ・モリアーソン。それで、この人が」

「ジョセフ・モリアーソン、ローズの兄だよ。宜しく」


成る程彼等は兄妹関係だったらしい。名乗りつつ促されるまま家の中へと足を踏み入れる。室内も矢張り黒いけれど、一言で言うならば豪華だ。玄関から既に。

黒の大理石の床、壁には金縁に装飾の施された大きな鏡が設置されている。廊下には臙脂色の長い絨毯が敷かれていて、足を踏み出す度に沈む程柔らかい。


「ジョセフさんとローズさんて、ええと、天兵族ってヤツ?」

「まさか!私達は番犬です。黒の貴族の方に仕えているの」

「黒の貴族?」


聞き覚えの無い言葉が出てきて首を傾げる。村長の与えてくれた情報にはなかった筈だ。


「まだ聞いていなかったか、天兵族の方々にも派閥があってね。『白の貴族』『黒の貴族』なんて呼ばれているんだよ。白は迷い子の存在をあまり良く思っていなくて、この世界へ害を及ぼしそうなものは事前に排除するべきだという思想。黒は迷い子を歓迎し、何かあれば皆で助け合って解決へ向かおうという思想なんだ。僕達はその黒の貴族様の側についているという訳だね」

「なるほど、だから俺みたいな迷い子を受け入れてくれてるんだな」


ジョセフが頷く。人間の集団の中、思想の違いが生まれるのは当然と言えば当然のこと。この世界を担う天兵族ならば尚更だろう。


「それでも目立った争いが起きないのは、『王』がいるからだね」

「王?それって塔に眠るっていう?」

「いや、女王様とは別だよ、彼女は姿が無いからね。二つの派閥を上手く纏めている王が一人、存在するんだ。王様は双方の意見を聞いて、常に最善の決断を下す。素敵なお方だよ」


つまり、この世界の中での一番の権力者はその『王様』という訳か。

ただ一つ、有磨には微かな疑問が残る。翔二郎から受けた情報の中、塔に眠る女王――堕ちた天使はこの世界の人々の元となる人間達を創り出した、そうあったと思う。神と言っても過言ではないのかもしれない。けれど、住民は彼女を何故そこまで信仰するのだろうか。姿も無く、命令も下せぬ『女王』を。

有磨にはわからない、いや、他所から来た者にはわからないことなのかもしれない。

僅かな引っ掛かりを胸の奥へとしまい、有磨は再び口を開いた。

詰め込みすぎてしまったかな…。今回も説明回になってしまいました。

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