共通②のB アスライラの侍女
「……弱味を握ってきます!」
この機に乗じてアスライラの侍女になり、確実に敵方の情報を手に入れたい。
奴の懐に潜り込めば、より高い確率で貶められる筈だと考えられたからだ。
すごく嫌だが目的の為には仕方がない。奴は昔初めてに会ったときから、嫌な奴とは薄々感じていた。
それがよりによって婚約者を奪う相手になろうとは。身を切る覚悟だが、これも必要なことなので割りきる。
アスライラが堕ちるとき、切り捨ててここに戻ってくればいいのだ。
「そう」
イセリーは特になんの反応もなく。私はアスライラの元へいくことにした。
けれどアスライラにはすでに有能な侍女がいるのに、なぜ私を侍女にするなどと言い出したのだろう。
まさかイセリーに自分の侍女をけしかけ、弱味を握るつもりかしら?
それとも私をイセリーから放した隙に、暗殺させるとか―――――
「――!」
突然背後から誰かに口をふさがれた。私の頭はだいたい鎖骨にあり、男だと判断できる。
とにかくはやく離れなければいけない。男の腕を拳で殴打する。
ようやく腕が離れるが、後ろに犯人の姿はない。一体あれはなんだったのだろう。
部屋の前で少し考えながら立ち尽くすと、話している声が聞こえた。
おそらくはカルクスと話しているのだろうが、将来の前宮<ハレム>とおぼしき相手とする会話にしては物騒だ。
「いかにして奴を始末するか……」
始末だなんて、やっぱり、なにかたくらんでいるんだわ。スライラの同行を探らないと。
エルゼルにはイセリーの護衛を頼むとして、現状で打てる手だてはない。
アスライラは馬鹿だが、あれでも剣を並みに使える。大会は出来レースになるからと、訓練場によくいた。
私は一度筋肉痛になって以来は参加していないが、バカと剣は使い用と言うものね。
「ハキサレーラです。御入室させて頂いてもよろしいでしょうか?」
アスライラの部屋の扉を叩くと、扉が自然と左右に開かれた。
勝手に入れということだろう。
「失礼いたします」
「いらっしゃーい」
よくもまあ陽気に笑っていられるわね。
そういえばコンハーと侍女の姿はない。
「さっそく、おたずねしてよろしいですか?」
「?」
「私でなくても優秀な侍女の方がいらしたと思われるのですが……」
「あ~あ、あいつなら貴女と引き替えにイセリーへ付けたわ。ついでにコンハーもうざいからやった」
やっぱりイセリーに侍女、それにコンハーも付けたなんて。
「なぜ私を侍女に?」
私からコンハーを取り上げられたことによるアスライラに向ける憎悪。それを楽しんでいるとしか考えられない。
「面白いから」
たった一言で説明は終わった。さもそれが当然であるかのごとく、腹の立つことこの上ない。
「は?」
アスライラの思考などしりたくないが、安易に想像できる為に驚きより呆れが勝った。
「……」
カルクスが笑いをこらえている。なんなのこの和やかな雰囲気。
◆
さて、これからの目的を確認しよう。
【アスライラの弱味を探る】
【カルクスが気になる】
【謎の男を調べたい】