2話 出汁の香りに誘われて。
二杯目に黒ポッピーを頼む頃、ようやく店の中に入る事ができた。
おでんの出汁の香りが何とも言えない。毎日きちんと取っては変えるという出汁。大根もなんと美味しそうに滲みているのだろう。寒くなってきたこの時期になくてはならない食べ物ですな。
「耕ちゃんのおでんは絶品ですからねぇ、さて、と。ちくわぶ、だいこん、魚のスジ、牛すじをお願いします。あと、お勧めの日本酒を熱燗で」
「ちくわぶ、好きだねぇ」
耕ちゃんがおでんを始める時にアンケートを取っていて、俺は一番にちくわぶを推したんだよね。出汁が滲み込んで少しグズグズになったのが好きだったり。
「この出汁に合うんですよ」
こんなやり取りをしている間も、黒猫は足元に絡みついていた。食べ物が欲しいでもなく、時々撫でられればそれでいい、そんな感じみたいだった。
「お前も酒が飲めたらねぇ」
猫に言っても仕方がないけど、たまには誰かと語らいながら飲んでみたい。
おでんを食べ終え、大好きなつぶ貝の刺し身とお勧めの冷酒を頼んだら、店は少しだけ空いてきていた。
店内のテレビには野球中継が映っている。
日本酒は飲みやすいけど酔うねぇ。若者は日本酒を飲まんとイカンよ。でも、この店は俺と同じ若い人達が日本酒をよく飲んでいる。頼もしい事だ。
お勘定を済ませて少し風に当たる。
黒猫も付いてきていた。
「お前、うちに来るか?」
「ニャーン」
抱き寄せると嫌がらなかった。
「よし、うちの子になれ」




