1話 ある日の出来事。
マンションの一室で猫のハナと二人暮しをしている俺『葉山賢司』は大学を卒業してサラリーマンとなり、稼いだお金で酒場巡りをするのが好きな、同世代とは違うオッサン臭い若者だったりする。
自分で言ってりゃ世話ないが、街角の赤ちょうちんを見てしまったらお終いだ。スルスルと吸い込まれてとりあえず生ビールなのだ。
「今日入った娘は可愛かったなぁ。ま、モテない俺には関係ないか」
人並みに女性と付き合いたいという欲求はあるが、見た目が悪い訳でもないと思うんだが、告白しても振られる事数回、片手で数えられなくなってからは面倒臭くなってきていた。家で愛猫と戯れてる方が幸せだわ。
中途採用の娘を頭から切り離し、いつもの駅で途中下車する。
ここはところ狭しと入り組んだ路地に、小さな個人店が連なる酒場街なのである。駅の南と北では雰囲気も客層も違い、俺みたいに北口で飲むと南口方面には行かなくなるのだった。
「耕ちゃん、一人だけど外いい?」
店の大将に声をかけて、外にあるスペースに陣取り、空きができれば中に入れるシステムなのだ。
とりあえず生ビールでスタートし、いわしクジラの刺し身につぶ貝刺し身を頼んだ。今日もメニューには好みの物が沢山ある。
ビールを飲んでいると、店先に黒猫が顔を出しに来た。この子はいつも同じ時間にやって来る地域猫でとても人懐っこい。
「お前はいつも可愛いのぅ」
頭を撫でてやり、スマホで写真を撮った。完全なる浮気。ハナに怒られるの確実。こうしてハナには見せられない秘密のフォルダに写真が溜まっていくのだった。