8話
遂にメインヒロイン登場!!
ここまでが長かった~
胸糞注意です。
奴隷商館地下一階の薄暗い執務室。
窓は一つも無く、空気は淀んでいる。
灯りは蝋燭が一本のみ。
一言で表すと不気味な部屋。
そのような場所で奴隷商の男が向かい合って話をしている。
「クソッ、どうしてこうなった」
「俺らはこれからどうなるのか…………」
悪態をたれた男は壁際を見やる。
睨みつけられたのは――――十代前半の少女だ。
切り傷や痣だらけの体は痩せ細り、髪は艶を失っている。
何より特徴的なのは、その瞳。
それは、この世の全てに絶望している様な光の無い瞳。
「何もかもこいつのせいだ!!」
男は少女を蹴りあげる。
「ッ………………うっ…………」
少女は腹を抱えて蹲るが、その瞳は乾いている。
涙は村が焼かれた日、家族が死んだ日に流し切ってしまったから。
「こんなののどこがいいんだか」
「王子様も物好きだな」
王子様。その言い方は明らかに皮肉だった。
この国の王位継承権第四位のレゴール。
ことの始まりは、少女を気に入ったレゴールが少女に自分の後宮に入るよう言ったのが、少女は拒否。
怒り狂った彼は少女の村に火をつけた。
拠り所が無くなれば自分の所に来ると思ったのだ。
『欲しいものは全て手に入れる』それがレゴールの信条だったから。
だが、その予想は外れ少女は一人で森に逃げ出した。
夜の森は危険だ。凶暴な魔物が蔓延っている。
魔物に襲われぼろぼろになっていた少女を男達が捕らえたという状態だ。
「こいつをレゴールに渡せば……」
「馬鹿野郎!!そうすりゃ俺らがしょぴかれる」
男達は今まで後暗いことも幾度としてきた。
それがバレれば斬首は免れないだろう。
「あのバカ王子のことだ。こいつが傷だらけなのも全て俺らのせいにしてくるぞ」
「そうだな。あいつはそういう奴だ」
少女の新しい痣は男らがつけたものだが棚に上げて続ける。
「処女は奪わないでやったんだ。俺らは感謝されてもいいくらいだ」
「そうだそうだ」
腐っても奴隷商だ。処女の価値は嫌と言う程知っている。
「こいつを隠してもいずれ見つかるだろう」
そうなったらお陀仏だ。
「始末しても真偽の水晶ですぐに分かっちまう」
「もう詰みなのか……」
「誰かこいつを押し付けられて治してくれる奴がいたら…………」
そんな都合のいい人物がいる訳…………
「「修復屋だ!!」」
つい先日から話題になっていた魔術屋。
品物を預かって直すという商売をしていると聞いていた。
「修復屋には悪いが身代わりになってもらうぜ」
そうと決まってからの動きは速い。
依頼書風の手紙を書き、少女に持たせる。
「ほらっ、さっさと出て行け!!」
「………………………………はい」
「二度と帰ってくんなよ」
バタンと閉められたドアを見て、奴隷商達はほくそ笑んだのだった。
『壊れた少女を直してください』
男はそう依頼書にしたためた。
○
三日後、店には大勢とは言わないまでも、繁盛していると言える程に客が来ていた。
「この指輪を直せるかしら?」
「可能ですよ。お預かりします」
俺が貧血になるので、品物は一度預かり修復して返すシステムになった。
料金は後払いだ。
「剣と鎧一式頼む」
「高くなりますよ」
一品につき十万パル。それを定価とした。
「かまわねぇよ。防具屋よりこっちの方が安い」
「それでは五日後以降に受け取りに来て下さい」
修復期間は五日だ。
「彼女との仲を修復してくれッ!!」
「あなたの彼女をお預かりしますがよろしいでしょうか?」
「それは………………できない」
まず、修復魔術は生き物には使えない。
これは最近分かったことだ。
「冗談ですよ」
たまにこんな依頼が来るのだ。
ここは恋愛相談所ではない、馬鹿者。
「でも、お客さんがそれは出来ないと答えた理由を彼女さんにしっかり伝えたらいいと思いますよ」
「そう…………ですよね。彼女ともう一度話してみます」
しかし、折角来てくれた人をそのまま返す訳にはいかないよな。
彼女などモニタの中にしかできた事ないが、俺のアドバイスが役に立つ事を願う。
「ちなみに俺はアマ○ミ派だ」
「なるほど!甘噛みすればいいんですね」
男は盛大な勘違いをして帰っていった。
「これで最後だ」
時刻は午後五時を回っている。
今日はもう閉店だ。
なんだ…………あの女の子?
女の子はこちらにふらふらと歩いて来ている。
足元は覚束無い。
今にもこけそうだ。
目の前で怪我をされるのも目覚めが悪いので、俺は少女に駆け寄る。
「大丈夫か?」
返事は無い。
「おっと、危ない」
少女が倒れ込んで来たので肩を支えた。
傍に寄ったので少女の姿が良く見える。
汚れが酷いワンピースの様な服を着ている。
服と呼べるのかも分からないそれからは肩が露出していた。
うーん。この痣の量は異常だ。
切り傷に打撲傷。
明らかに普通じゃない。
「…………………………て、てが」
目が合う。
少女の目には感情が無かった。
こんな目の人は異世界に来てたまに見る。
皆一様に生きることに絶望していた。
「……てがみ」
「手紙?君が?」
少女から手紙を受け取る。
どうやら依頼書のようだ。
便箋を爪で開封する。
中に入っている依頼書は続け字で書かれていた。
壊れた少女を直して下さい。
修復屋様。
そちらに壊れた少女がいると思います。
その少女を直して下さい。
名前はロアと言います。
受け取りは一ヶ月後に。
代金は五十万パル相当のモノを用意しております。
それではよろしくおねがいします。
「なんだこの依頼?」
壊れた少女ってどういう事だ?
俺は人体を修復する事は出来ないんだが。
困ったので手紙を持って来た女の子に質問する。
「これどういう事?」
「………………………………」
答えないか。
「君、名前は?」
「……………………………………ろあ」
これが俺と壊れた少女―――ロアとの出会いだった。
スカッとする話が書きたいですね。