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17話

先週分です。

「さぁ、俺と一緒に王宮に来い」

 レゴールはロアに向けて右手を差し出した。


 ふるふる。対するロアは今にも泣きそうな、ひどく怯えた表情で首を横に振った。

 そして俺の袖をキュッとつまむ。

 上目遣いで俺を見つめるロア。

 その何かを懇願するような瞳に、俺の意志も座った。

「…………ッ、そうだよな。俺がやんないと」

 今、ロアが頼ることのできる人間は俺しかいない。

 そのことを俺はちゃんと理解していなかった。

 保護者とかいってロアに何もできなかった。

 …………覚悟が…………足りなかった。

 何がなんでもこの子(ロア)を護るという覚悟が。

 それこそ、国を敵にまわしても。


 俺はロアの頭をくしゃりと撫でながら言い聞かせる。

「安心しろ。俺が、お前を、護ってやる」

「ゆーた。なきむしなのに?」

 か細い声でロアが言う。

「うっ、確かに俺は泣き虫だけど、大丈夫だ」

 俺は秘密をロアに教える。


「…………俺は勇者だからな」





 俺はロアを馬車の中に押し戻した。

 これから俺が話す内容を知られるとロアが心配するかもしれないので耳を塞ぐように言ってある。


「おい、貴様。我が妻にゆーたと呼ばれていたな。やはり貴様はキドウユウタだろう」

 バレてしまったら仕方が無い。

「あぁ、そうだ。久しぶりだなレゴール」

 俺は馬車から飛び降りてレゴールの前に歩み進める。

 周りで騎士が今にも斬りかかろうとしているが俺が手を突き出すと静止した。

 俺の勇者発言が効いているのか。

 俺は悠々と歩き、眼前のレゴールに馬車から持ってきた果物ナイフを突きつける。

「ロアは俺のものだ。お前には渡さない」


「ふっ、ふはははは!!キドウユウタ、貴様は己の言動の意味を分かっているのか?」

 レゴールは拍子抜けした表情をした後に高笑い。

 そして、更に鋭くなった眼光で俺を睨みつけた。


「あぁ、分かっている」

 この国では得物を相手の脳天に突きつける行為はある事を意味する。

 王宮でも貴族の子がごっこ遊びをしているのを見た。



「─────決闘だ─────」




 俺に決闘を言い渡されたレゴールは、

「いいだろう」

 と、一言言う。

「但し、ルールは俺が決める」

「あぁ、好きにしろ」

 決闘では原則挑まれた方が条件を決める。

 今回もそのルールが適応される。

「それではな…………俺が勝ったらモカ村の少女──ロアは俺が貰う。そして、キドウユウタ、貴様には俺の奴隷になってもらう」

 奴隷か…………奴隷となった者には一切の権利が与えられない。(あるじ)の命令は絶対で、例えば死ねと命じられたら死ぬのが奴隷というものだと聞いていた。

「そうだな、死ぬ直前までコキ使った後、男娼にでもなってもらうか」

 レゴールの口から男娼という言葉がでた途端、騎士たちが色めきたった。

「…………ッ!お、おう、いいぞ。その代わり俺が勝ったらロアは俺が貰う」

「いいだろう」

 これで交渉成立となる。

「キドウユウタよ、日時は明日の正午、場所は南区画の大闘技場とする」

 大闘技場…………昨日ロアと一緒に行った所か。

 確かあそこは…………

「ふんっ、今日は退いてやる。キドウユウタ。逃げるなよ」

 レゴールはそう言い残し騎士達を引き連れて帰って行った。





「おい、サラノ。そこにいるんだろ?出てきてくれ」

 レゴールの姿が完全に見えなくなった途端にどっと疲れが湧いてくる。

 俺は馬車の車輪に寄りかかりながらサラノを呼ぶ。

「あはは、バレてた?」

 少し離れた場所からひょっこりと顔を出してサラノは言った。

「当たり前だ。逃げた後水路から見てただろ。こっちから丸見えだったぞ」

「逃げるのは得意なんだけど、隠れるのはどうにもね」

 自分の身体より細い木に身を寄せるのは隠れるとは言わない。

 どう思考したらバレないと考えつくのか。


「それにしても大変な事になっちゃったね」

 決闘か。

 もっと穏便に済ませる方法があったはず。

 でも、ロアは俺の物発言についカッとなってやってしまった。反省もしてるし、後悔もしている。

「決闘を挑むくらいだからお兄ちゃん実は相当強いんでしょ?」

 俺の呼称が底辺商人からお兄ちゃんになっている。どういう風の吹き回しだ?

 しかし、今は呼称など気にしている暇ではない。

「いいや、全く。戦闘経験すら無いに等しい」

「それなのに何で!?」

「武器には当てがある。格闘は…………なんとかなる?」

 昨日の怪しい巻物(スクロール)売りのおばさんを思い出す。あの人の占い通りになるのは癪だけど、ロアのためなら俺のチンケなプライドなど棄ててやる。

「俺は今から武器を調達してくる。そこでだ!」

 俺は膝立ちになり、サラノの肩をガシッとつかむ。そして、ポケットから全財産の半分が入った革袋を取り出し、あわあわ言っている彼女の小さな手に握らせた。

「俺からお前に依頼を出す。一つ目はロアの護衛を頼める冒険者を雇ってくれ。指定は全員女性であることと、Cランクパーティくらいか」

「はぇ?あ、ああ、冒険者ね。いいよ、お使いしてあげる」

「二つ目は今日の晩からロアを鍵付きの安全な宿に泊まらせる。だから、その宿のチェックインを済ませてくれ。もちろん、雇った冒険者も一緒に泊まらせてくれ」

「了解だよ。ところで革袋(これ)の余った分は…………」

 サラノは袋をゆさゆさと手のひらで転がしながら言う。

「はぁ、お前の好きにしろ。ただし、依頼でケチるなよ」

「はーい」

 生返事で返したサラノ。自分の懐に入る分前を計算しているのか、宙を見上げて「えへへ」と声を漏らしている。

 こいつも商人だな。

「俺はロアに今日は帰らないと伝えてくるから、少し待っててくれ」

「はーい」




 俺が馬車の中へ入ると背を向けていたロアはビクッとして毛布を被った。

「俺だ、ロア」

「ゆーた?」

 ロアはくるりと振り返り毛布から顔を出して俺と確認した。

 すると、ほっとした様子で俺の傍に寄ってくる。

「あいつは?」

「レゴールか?あいつは…………俺がやっつけた」

「ほんと?」

 この子は鋭いな。

 前にも嘘がバレたことがあった。

 でも、俺はまた嘘を吐く。

「ほんとだ。言ったろ、勇者だって」

「ゆうしゃ。ゆうしゃさまは、せいぎのみかた?」

 世間一般から見て勇者は正義の味方という位置づけとなっている。

 けれど、俺はそんなに大それたもんじゃない。やっと戦う決意ができたばかりの情けない男だ。

 でも、

「俺は正義の味方じゃない、だけど、ロアの味方には成りたいと思っている」

「わたしのみかた?」

「あぁ、ロアの味方、俺はロア専属の勇者になってやる」

 ロア専属の勇者という言葉が俺にはやけにしっくりときた。

 思えば城を追い出されてから俺はロアの事ばかりに奔走した。

「ロアを護る事が今の俺の成すべき事だからな」

 日本にいた頃はゲーセン通いとアニメとプラモが俺の成すべき事だったが、ここに来てからは全てがロアに置き換わった。

 だから、ロア専属の勇者がしっくりとはまった。


「私のゆうしゃさま」

 ロアは咀嚼するように呟く。

「そうだ」

「ウソじゃない?」

「約束する」

「じゃあ…………ん」

 小指を差し出したロア。

 指切りげんまん、この世界にもあるのか。

 俺も小指を出してロアのに絡ませる。


「ゆびきりげんまん、ウソついたらこ───」


「お兄ちゃん!!遅いよ!!」

 ぴしゃりとカーテンが開き広げられた。

 折角良いところだったのにサラノが割り込んできたのだ。

「なんだよ、もう」

「なんだよはこっちのセリフだよ!もうお昼の鐘が鳴ったよ」

「うえ、もうこんな時間か」

 そろそろばあさんの所に行かないと、巻物が売り切れたりしたら目も当てられない。

「ゆーた、この人は?」

 ロアは俺をジトっと見てサラノを指さす。

「ボクはサラノって言うんだ。よろしくね」

「…………よろしく」

「今日明日は俺が用事があって帰ってこれないから、ロアの面倒を見てくれるように頼んだ」

「そういうこと」

「だから、ちゃんとこの…………お姉さん?の言う事聞くんだぞ」

 サラノをお姉さんと呼ぶ事には些か抵抗があった。

 頬をぷくっーと脹らませているサラノだが、こいつも商人だ。金を払った相応は働らく。

 俺が打てる手は全て打った。もう心配しても仕方が無い。


「俺はもう行かないと。また明日な」

 と、言ってロアの頭を撫でて俺は外に出た。



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