15話
翌朝、俺はギルドに所属している運び屋のクソガキ――サラノの声で叩き起された。
何やら慌ててるがどうしたんだろう。
馬車の中でバタバタしている。
ロアが起きたらどうしてくれるんだ。
「うるせぇーぞ、クソガキ」
「そんな事言ってる暇ないんだよ、Eランクの底辺商人さん」
お前まだそれ言ってたのかよ。
人の事言えた義理じゃないけど大人になってほしいもんだ。
「なんか用か?仕事なら今日は休業日だぞ」
「そんなんじゃないよ。底辺商人さんは今、幼女と同棲してるんだよね」
「依頼でな」
幼女と同棲とか言い方が悪い。
それにロアとサラノでも年齢は殆ど変わらないはずだ。
「この子はその依頼主が誘拐してきた様なんだよ」
「誘拐?俺は一ヶ月間でロアを直してくれと頼まれたんだぞ。誘拐した奴がそんな事依頼するか?」
「押し付けられたんだよ!!依頼主の奴隷商が先日捕まって尋問されたんだ。その時はかわいくて黒髪で痣だらけの女の子っていう事しか分からなかったけど、昨日底辺商人さんが黒髪のかわいい子を連れて街を練り歩いたから通報された!!この意味が分かる!?」
つまりあれか…………
「俺は疑われてるのか?」
「そうだよ!!さっきギルドに近衛騎士が来て黄色バッチの若い商人の居場所を教えろって」
「近衛騎士?あいつらがなんで出てくるんだ?」
近衛騎士は滅多な事では動かない。
誘拐程度では普通の騎士で充分な筈。
あいつらが動くとすると王族絡みの事件などだ。
「その子、名前はロアちゃんだっけ?」
「あぁ、ロアちゃんだ」
「で、ロアちゃんは王族の第四王子レゴールに見初められてるんだよ!!探しているのがこいつだ!!」
「うわー、レゴールか…………嫌な名前が出てきたな」
あいつは王城で何度か会ったがいけ好かない奴だった。
常に女を周りに侍らせて、時折俺の方を見てドヤ顔をするのだ。
腹ただしい事この上ない。
「レゴールはロアちゃんを自分の後宮に入れるつもりだったらしいけど、ロアちゃんに逃げられちゃってね。レゴールは怒っているんだよ」
話を聞くと、
更に自分の女(候補)が誘拐されて怒り倍増。
そして、痣だらけにされて怒り倍増。
極めつけには、ロアがEランクの底辺商人と一緒に居たと聞き怒り倍増。
「つまり、レゴールは超怒っている訳だ」
「寝取られたのも同然だからね」
失礼な、俺はやましいことなど一切していない。
yesロリータnoタッチの精神を忘れないからな。
因みに手繋ぎはノーカウントだと思う。
「それであいつは俺を捕まえようとしてる訳か」
「うん。今朝から近衛まで投入して底辺商人さんを虱潰しに探している」
「……ん?商人ギルドは俺のことを伝えなかったのか?」
「ギルドは国の事には関わらないからね。うちは確証も取らずに商人の不利になることはしない。何の情報も言わなかったよ」
さすがに犯罪とかは見逃さないけどね。と付け足す。
ナイスだ商人ギルド。
最初、情報流出とか疑ってごめんね。
「そして、お姉ちゃんに頼まれてボクが底辺商人さんにこの事を伝えに来たんだ」
流石はネイシャさんだ。
「ありがとう」
「いや、あの、ボクは当然の事をしたまでで…………」
頬を染め、身体をくねらせるサラノ。
なんでこいつが照れてるんだよ。
俺が礼を言ったのはネイシャさんなのに。
「…………はっ。とっ、とにかく、早くロアちゃんと逃げて!!」
サラノはふるふると頭を振って緩んだ顔を元に戻した。
「逃げるって何処に?それにまだロア寝てるし」
俺の隣ではスヤァとロアが寝ている。
これだけうるさくしても起きないなんて昨日は余程歩き疲れたのだろう。
「取り敢えず国の外かな?」
「国外?」
「そう、他の国にも商人ギルドはあるからね。きっと助けて貰えるよ」
「一番近い国ってどこだ?」
「そうだね。ここから南に二週間ほど行ったところに『ネアック』という国があるよ」
南か、確か南には海があった。海辺の国での暮らしもいい。
毎日新鮮な魚が食える。
「よーし、これから俺達はネアックに行く。騎士共が来るまであまり時間が無い。サラノ、お前は馬車の外で見張っててくれ。俺は朝市で食料と水を買ってくる!!」
思い立ったら吉日。
サクサクッとこの国からオサラバしよう。
「あと護衛の冒険者と馬も二頭ほどいるな。これは朝市に売ってるかな?」
「売ってるわけないでしょ。それにもう時間切れっぽいよ」
髪飾りを弄っていたサラノはもうお手上げと両肩をすくめた。
ガチャガチャと金属同士が擦れる音がする。
それも四方から。これは囲まれてるな。
「我々はレオヴィル騎士団だ!お前は既に包囲されている。大人しく出てこい!!」
騎士さんのご到着か。
この事件に巻き込んでしまったサラノだけでも逃がしてやるか。
「おい、サラノ。ここは俺がくい止めるからお前だけでも先に行け」
「うん。それじゃぁ、ばいばーい」
えっ?あっさりしすぎじゃない?
俺の人生で言ってみたいセリフ二位をさらっと流された。
「あと頑張ってねー」
サラノは緑の髪飾りを指でピンと弾きながら言う。
その瞬間、髪飾りの周りに小さな術式が生まれた。
その髪飾りは小型の魔道書だった。
展開した術式は文字をなぞる様に光って消えた。
サラノの脚が薄く輝く。あれは見たことがある、速力強化の魔術だ。
「さん、にー、いち、ゴー」
気の抜ける掛け声と共に風のように馬車から出ていくサラノ。
あの速さなら顔を見られることもない。事実、騎士団も「うは、なんだコイツ!」とか言っているし。
つか、あのクソガキ。ほんとに逃げやがったな。
次会ったらあいつに馬車引かせよう。
高速馬車の完成だ。
「まだ中にいるんだろう!!最後の警告だ、Eランク商人、早く出て来い」
どうしようか…………今すぐ出ていっても許してくれないよな。
騎士達も俺が商人だからか、突入するか決めあぐねている。
互いに様子見が続く事、五分。ついに硬直状態を破れる、
「レオヴィル王国第四王子レゴールが命じる。俺の前に姿を出せ!!」
ん…………?レゴール来てたの?
こいつが自ら来るなんて驚いた。
クソジジイと同じ事を王子が叫んでいる。
王子と国王、やっぱり親子だ。
近々今書いてる新しい小説もあげようと思います。
そっちもよろしくお願いします!
もちろん修復師もがんばります。




