14話
夕日が街を橙色に染め上げた頃。
俺はロアを背負って家路についていた。
広場を出た後は一般居住地区を見学した。
一日中歩き回っていたので疲れたのだろう、ロアがうとうとしだしたのでおんぶした次第だ。
背中からはスウスウと規則正しい寝息が聞こえる。
早めに帰って布団に移してあげたい。
「っと」
危ないな、段差に躓きかけた。
俺の脚はプルプルして、内股を向いている。
運動不足か…………
「もう商業地区だ。頑張れ、俺!!」
自分を鼓舞する。
テーマソングは勿論ボクシングで有名なアレだ。
そう言えばマラソンの時にも世話になった、アレ聴くと頑張ろうと思うんだよな。
「ちゃちゃちゃーちゃちゃーちゃー」
思わず口ずさんでしまった。
すると、買い物帰りの親子連れがこちらを見て、
「ママー、あれ何?」
「しッ!見ちゃいけません」
まさか俺がこの定番のセリフを言われる時が来るとは。
まぁ、無理もない。
俺は傍から見たら、ぶつぶつと独り言を言っている、生まれたばかりの小鹿の様な足取りの男だ。
しかも、幼女ともいえる女の子を背負って歩いている。
普通の親なら子供の教育に良くないので見せたくないのだろう。
母親は子供の目を塞ぎながら、そさくさと離れていった。
こんな俺に近づくのは知り合いかチンピラか、
「ちょいと、あんた。あたしの商品を見て行かんかい?」
怪しい客引きくらいだ。
俺に声をかけてきたのは、とんがり帽子と黒いマントのオバサンだった。
「あんたにおすすめの商品があるんじゃよ」
「結構です。間に合っています」
「そう言わんと見ていっておくれ」
嫌だよ、こんな怪しいオバサンの売ってる品物なんて。
「オバサン商人ランクは?」
もしかしたらモグリの商人かもしれない。
そんな奴と取引したらこっちまで捕まる。
「ふぉふぉふぉ。帽子にバッチがついとるじゃろ?」
「赤色か、何ランクなんだ?」
「あんたはEランクの新米のようじゃの。知らんのも無理ないか」
「何言ってるんだ?」
「まぁ、あんたより上なことはたしかじゃよ」
オバサンのバッチは本物の様だし、話だけは聞いてあげよう。
俺は人前の敬老精神を持ち合わせいる紳士だからな。
「話を聞いてくれるようじゃの」
「ああ、早めにしてくれ」
「分かったよ。あたしはな『占い屋』じゃ」
「占い屋?」
「そうじゃ、魔術を使って占いをするのじゃ。そうして占いの結果を教えて金を貰うという仕事じゃ」
それだと俺が声を掛けられた理由にならない。
「なぜ俺におすすめの商品なんだ?」
「偶に副業で金になりそうな人物や何かを欲している人物を占うんじゃよ。そうして、その人にアドバイスをしたり、合わせた商品を仕入れたりしてるんじゃ」
「それが俺だったと」
「そうさね。あたしが『近いうちにこの街の中心となる人』で占ったらあんたじゃった。あんたが欲しがる品物も入荷しておる」
俺が街の中心人物?
もう勇者でもないんだから有り得ないだろ。
「それと俺が欲しがる物って?」
「あたしが仕入れたのはな『巻物』じゃ」
「なんだ、それ?」
「昔の戦闘道具。つまり戦う力じゃ」
俺が戦う力を欲しがるなんて、ますます有り得ないな。
「どんな物なんだ?」
「魔力を拡散させる巻物と登録した魔術を発動する巻物じゃ」
「二つか…………魔道書は複数個持てないだろ」
魔道書は沢山使えない。
単体で完成されているので、互いに反発し合うとか。
「だから言っとるじゃろ。巻物は昔の道具じゃと。いいかこれはな…………」
オバサンの説明を纏めると、巻物は魔道書が開発される前の道具。
不完全なので反発しないから、二つ以上の組み合わせで効果を発揮する。
魔道書との大きな違いは血液から魔力を集める機能が無いこと。
「過去にこの巻物の組み合わせで英雄になった者もいる。」
英雄か…………俺には関係ない話だ。
第一俺に戦う気は無い。
怖いし痛いし絶対に嫌だ。
「オバサンの占いは確実なのか?」
「あぁ、今まで一度も外れた事が無い」
「じゃあ俺が初めての外れだな」
「それはどうかの?」
「まぁいい、俺はそろそろ帰るぞ」
脚が棒のようだ。
十分程も立ち話をしてしまった。
「ふぉふぉ、あたしはしばらくここに居るからな。必要になったら来るんじゃよ」
「そんな時は無いけど、覚えとくよ」
俺は適当に返事をして馬車へと帰った。
評価、ブクマありがとうございます。




