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12話

 宿や冒険者ギルドがあるその他の区画。

 今日は天気が良く暖かかったのでロアと街の散策をする事にした。

「俺全然この街について知らないんだよな」

「………………なんで?」

「なぜと言われても」

 流石に数週間前にこの世界に召喚されたからとは言えない。

 言っても信じてくれないだろうし。

「えっと、俺は遠くの街に住んでて最近ここに来たんだ」

「…………ほんと?」

 ロアは俺をじっと見つめる。

「ほんとだよ」

 そして興味が無くなったのか目を逸らした。

 嘘がバレたのかな…………

 そんな事無いだろうけど。



 ゴーンと十二時を知らせる鐘が鳴った。

「もうお昼だ、飯にしないか?」

「…………かえるの?」

「いや、もう少し行ったところに広場があるらしい。屋台で焼き鳥か何か買ってそこで食べよう」

「…………うん」

 ロアは肉が好きだからか、声が弾んでいるような気がした。

 俺が分かる程度にはロアも感情表現をするようになった。

 このまま順調に行けばロアの『壊れ』が修復出来る日も近いかもしれない。



「おやっ、旦那じゃん」

 誰だよこの人。

 俺を見つけて走ってきたと思えば、馴れ馴れしく肩を組んできた。

「あれっ?旦那、もしかして覚えてない?」

「わるいな、覚えてない」

「俺だよ、オレオレ」

 新手のオレオレ詐欺か?

 にやりと笑みを浮かべるこの茶髪男はどうにも胡散臭い。

「ほらっ、ゲートで田舎者の旦那にこの街を紹介した」

「あぁ、あの時の」

「思い出してくれたようだな」

 城を追い出された日に商店街で「ここがローザンだ!!」とか両手を広げて言ってた人か。

「それにしても旦那。かわいい子連れてるなぁ」

 こいつの言うかわいい子とはロアの事だ。

 セーラー服の様な大きめの襟が付いたワンピースという装いで、肩口辺りで切り揃えた黒髪と合わさって清潔感が感じさせる。

 身体の痣などはポーションで治してあげたので柔肌はすべすべのもちもち。

 おまけに少女特有のいい匂いもする。

「高かったんじゃないかい?」

「それなりに高かったな」

 服の事か?

 見る目があるな。

 この服は高かった。

 この世界では一般的に古着などを購入する人が多いのだが、ロアに似合いそうな物が無かったので新品を買った。

 ちなみに治療用ポーションは商人ギルドでネイシャさんにお願いして、安く仕入れて貰ったのだが、これも三十万パル位した。

 だから、俺の財布は寂しいことになっている。

「おおっと、右側を見てくれ旦那」

「これは…………ドームか?」

 歴史の教科書に書いてありそうな建物――コロッセオの様な物がある。

 辺りには屋台が沢山建っている。

「あれがこの街第二の名物、大闘技場だ!!」

 茶髪男はこの前と同じく両手を広げて大声を出す。

 そして追撃のドヤ顔。

「詳しいんだな」

「まぁな、俺は城下町(ここ)で育ったからな。この闘技場は超凄いんだぜ。俺の爺ちゃんの時代に作られてな、その時はこの区画はまだ竹林でそれを切り開いて造ったんだってよ」

「ここは森だったのか」

「おうよ。ぶっとい竹がわんさか生えてたそうだ」

「開拓大変だったろうな」

 魔術があるからクレーンなどの重機が無くてもいいだろうが全て手作業だったと思う。

「凄いだろ凄いだろ凄いだろ」

 クルクルと回りながら凄いだろを連呼している。

 恥ずかしいのでやめてほしい。

 ヘリコプターの様な男に突如拳骨が落とされる。

「ゴルァ!!ルーコス、油売ってないでさっさと屋台手伝え!!」

 俺の思いが通じたのか茶髪男――ルーコスを前掛けをつけたオッサンがとめてくれた。

「なにすんだよ、親父」

「おめぇが道草食ってるからだろ」

「かと言って殴る必要ねぇだろ」

「そんな事よりお前、頼んでた物買ってきたんだろうな」

 見たところルーコスは手ぶらだ。

「………………やべっ」

「さっさと商業区画行って買ってこい!!」

「相変わらず人使いが荒いな」

 ルーコスはそう言いながら靴を履き直す。

 その靴には赤いバッチ。

「旦那、俺はお使いがあるからここらで失礼するぜ」

「そっか、またな、ルーコス」

「よかったら俺んちの飯食って行ってくれ」

「後で買わせて貰うよ」

 見た感じからして焼きそば屋かな。

「じゃあな、俺はひとっ走りしてくる」

 ルーコスは背を向けて走り出す。



 そう言えば俺は名乗ってなかったな。

 小さくなった背中に叫ぶ。

「ルーコス!!俺の名前は『木藤悠太』だ!!」

「おう、悠太だな!!覚えとくな!!」



 ルーコスの父が話しかけてくる。

「あんたらはルーコスの友達か?」

「えぇ」

「飯奢ってやる。着いてきな」

 やったね。

 ただ飯は最高に旨いからな。

 俺は奢りという言葉が大好きだ。

「ありがとうございます。行こう、ロア」

「……………………」

 店の名前は『ルーコスの焼きそば』だった。

 なんやかんや言って親父さんはルーコスの事が好きなんだな。


 俺も久しぶりに家族に会いたくなってきた。

「ゆーた…………いたい」

 無意識の内に繋いでいたロアの手を握り絞めてしまった。

「ごめんな、考え事してて」

「だいじょうぶ」

 この大丈夫は痛みの事か、それとも俺の事だろうか。

 今は考えないでおこう。

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