11話
ロアを預かってから二日が経った。
依然として目が死んでいるが、二・三言なら会話が出来るようになった。
感情も少し見え隠れしている。
そう思いたい。
この二日に変わった事といえば勇者、即ち俺の同級生が帰ってきたことだ。
街ではあいつらの歓迎式をしたりとお祭り騒ぎだった。
勇者ってそんなにいいものかね。
俺には全く理解出来ん。
「別に、やきもち焼いてるんじゃないんだからね」
「…………ゆーた、なに…………?」
「ふぉ!?い、いーや、何でも無いよ」
ゆーたって言った!今、ロアがゆーたって!
いかんな、泣いてしまいそうだ。
名前を呼ばれたのは今回が初めてだな。
例えるなら、自分の子供が初めて「パパ」と言われた時。
親父がいつもあの時は感動したと言っていた。
しかしこれは凄まじいな、舌っ足らずな感じがとてもキュートだ。
このままではロリコンになってしまう。
その矢先、ロアが俺の服の裾をちょいちょいと引っ張ってくる。
「おしごと…………しないの?」
「今からするよ、預かった品物をそろそろ修復しないといけないからな」
ロアが可愛すぎるから、ここ数日はロアの事に集中し過ぎた。
溜まった仕事を早めに消化しなければ。
「先ずは、魔道書か」
見たところ本タイプの魔道書でびりびりに破けた表紙を修復して欲しいとの依頼だった。
これなら直接術式を書き込んだ方がいいな。
『術式』は床に描くより対象本体に描き込んだ方が効率的だ。
必要魔力が半分以下になるからな。
「よっし、準備完了!」
目の前には俺の血で術式が描かれた魔道書。
俺はスペルのみの術式を描いた。
今は血でぎとぎとだが魔術を使い終わったら血液は消えて無くなる。
原理は分からないが魔術とはそういう物なのだ。
そして俺はお決まりの詠唱をする。
「我、世界の理を破壊する」
一瞬光った後、机の上には綺麗な状態の魔道書があった。
表紙は勿論のこと、黄ばんでいた中身も元に戻っている。
今まで俺は修復する事を直すと言っていたが、修復魔術を『直す』と表現するのは間違っている。
修復魔術とは物を『元に戻す』魔術の事だ。
俺はそう予想している。
そして、どこまで戻すかは俺が決め事が出来る。
俺が新品の魔道書を想像しながら修復したから、黄ばみも無くなったのだろう。
なぜ『理』を『破壊』するのかは分からないが。
俺は魔道書を修復済みの袋に入れて新たな品を取り出す。
「次はちぎれたネックレスか……」
これには直接は無理だな。
仕方が無いので机に円型の術式を描いていく。
詠唱をすると術式が輝く。
「ふぅ、働くって大変だな」
魔術を使う度に自分の指を切るのは少々精神にくる。
魔王と命懸けで戦うよりは百倍ましだけどな。
ロアがこちらを見て口を開く。
「…………いたい?」
「ちょっとだけだから心配いらないぞ」
「血…………でてる」
確かに俺の指先には血液が珠のように付いている。
「近頃、血が止まるのが遅いからな」
するとロアは俺の手を掴んで、
「…………んっ」
咥えた。
「おいっ、何やってんだ、ロア」
ロアは指をねっとりと舐めまわす。
口内でロアは舌をゆっくりと動かす。
口を窄めて指の先っぽの傷を丹念に舐めあげる。
粘膜質の舌が俺の指を伝う。ねちゃと水気を帯びた音がした。
「そろそろいいだろッ、離して……離してください」
最後にもう一度先をぺろりと舐めて、指を離した。
つっーと唾液が糸を引いている。
これは宜しく無い、非常に宜しく無い。
俺は布団の上に女の子座りで座っているロアを眺める。
まず前提としてロアは可愛い。
ロアは昨日買った白いネグリジェ|(透けてない)を着ている。
白い服は黒髪に映えるからな。
余計に可愛くみえる。
そして、十三歳。
俺は女性の旬は十四歳だと思っている。完熟が高校二年生だ。それ以降は瑞々しさが無くなり老ける一方である。
だから、旬になる一歩手前の女の子に指を舐められたら色々と宜しく無いのだ。
主に下半身が。
手は出さないが。ロアは預かっているだけだし、俺もこの歳で捕まりたくは無い。
第一、俺は紳士だ。
変態じゃない方のね。
しかし、世の中には俺のように紳士でない奴も沢山いる。ロアには注意しておいた方がいいだろう。
「ロア、安易にそんな事をしたら駄目だぞ。外には飢えた猛獣がいるんだ。ロアは可愛いからそんなことしたら狙われる」
「でも……血がでてた」
「こんなのはすぐに止まるから」
「いたいのは…………だめ」
「まぁ………………そうだな」
「ゆーた…………いたそうだった…………だから……」
「うんうん、皆まで言うな」
「わたし……まちがった?」
「そんなこと無いぞ~、ロアは天才だなぁ」
いかんな、見事に説き伏せられてしまった。
説教しようと思っている意志に反して俺の右手はロアの頭の上で往復運動をしている。
「あふぅ」
頭を撫でられてうみゅうみゅ言っていたロアがあくびをした。
「眠いのか?」
もう夜だ、子供にはきつい時間帯だろう。
「もう少し働いてから寝るから、先に寝ててくれ」
まだ、修復しないといけない品物が三個ほど残っている。
「ゆーたも……いっしょ」
「はぁ〜い♡」
この子は末恐ろしいな。
気づかないうちに一緒に寝る流れになってしまった。
人を操る魔術でも使っているのかと疑ってしまうな。
将来、姉ちゃんみたいにならなかったらいいが。
隣からすぅすぅと規則的な寝息が聞こえる。
寝てしまったようだな。
「おやすみ、ロア。また明日」
可愛いは人を駄目にする。
今日俺が学んだことだ。
作者、ロリコンじゃないもん。
究極紳士だもん。




