空に咲く花
お開きいただきありがとうございます。
空に轟く花火。
僕はその花火を、少し高い位置にある人気のない神社で、一人じっと見つめていた。
「お祭り、か」
下の方では遠くからがやがやと賑やかなお祭りが催されている。
ちょうど花火が打ち上げられ始めたからか、その花火に魅入る人もいると思うし、思い思いの時間を過ごしている人もいるかもしれない。
千差万別な過ごし方をしているだろう。
だけど、少なくとも僕は夜空を見上げる。
この綺麗な夜空に打ち上げられる花火はとても幻想的で、心を穏やかな気持ちさせる。
木々が生い茂っており、この神社へは一本道しかないからか、辺りに人は誰もいないし、人が来る気配すらない。
そもそも僕がここにいること自体、誰も知らないだろう。
花火は綺麗だ。
街で淀んだ空気に晒されて生きている僕達人間にとって、道端に咲いている花は視界に入っても認識されない。でも、こういう場において、花火は一つのアクセントとして使用されるため、誰もが気付き、誰もが一瞬でも魅入ってしまう代物。
咲くのは一瞬。散るのも一瞬。
平家物語の盛者必衰と同じで、またおぎゃあと生まれてからいつか年をとって死ぬまでの話と同じだ。
「そして、僕のこの命もまた……」
自虐気味にポツリと呟く。
僕の心臓に抱えた爆弾はとてつもなく大きい。
『二十歳まで生きられないだろう』
そう医者に告げられたのは生まれてすぐだということを母さんが良く言っていた。
僕はそのことを小さいころからずっと聞かされてきた。
どうして僕は死んでしまうのか。なんで神様は僕を見放したのか。
そういう疑問は、全部〝諦観〟という言葉で僕の中で決着がついた。これは十歳の時に、子供ながらに辿り着いた結論だった。
それから残りの人生をどう過ごすか。僕は必死に考えていた。
考えて考えて、そして辿り着いた結論は、いつも隣にいてくれた一人の女の子を幸せにすること。
恋愛とか結婚とかじゃなくて、いつも笑顔にするために。そして、幼馴染として、僕がいなくなった後でも笑っていられるように。
成長していらなくなった虫あみや、春を迎えると溶けて綺麗さっぱりに消えて無くなってしまう雪のように。僕はこの世界から消えてしまおう。そして、僕が消えた世界でも、君が幸せでいられるように。
僕のおこがましい願いは、二十歳の今日、終わる予感がした。
下ではきっと、突然いなくなった僕を一生懸命探しまわる幼馴染の姿が見られるだろう。自分から誘っておいて、と怒りながら牡丹色の綺麗な浴衣を身にまとった彼女の姿が。
僕はもうじき死ぬ。最後の最後で、笑顔じゃなくて怒らせてしまったけれど。それでも僕は逝ってしまう。
猫は人に死に様を見せないように、僕も醜い姿を見せないように死ぬ。
ふいにドクンと心臓に激痛が走った。締め付けられるような、破裂するような、物凄い痛みが走り、そのまま神社の向拝と呼ばれる階段部分に倒れこむと、段々と息ができなくなってきた。
もう、これで最後になる。
ぼんやりと視界の中、今だ空に咲く花に手を伸ばしながら最期に想う。
できれば、最後に君とこの花火を――――――。
お読みいただきありがとうございます。
綺麗な文章と驚き(起承転結)を意識して書きました。
私事ではありますが、3/31は初めて短編『散るサクラ、咲くサクラ』を投稿してからちょうど一年です。