7.問題解決のために、仮定③を除外してみる
インセンティブに関する考察を進めてゆくうちに、我々は二つの問題点に行き着いた。一つ目は、仮定③「魔法大国を志向するある国に、世界的人材確保が可能である」の比重が他の仮定と比べてもあまりにも大きすぎる、ということ、もう一つは、覇権国家と魔法大国との因果関係がいまいち掴みづらい、ということである。
そこでまずは問題点の一つ目、仮定③の是非について考えてみる必要がある。試しに、仮定③をなかったものとしてみよう。仮定③が除外されたとき、そこから生み出される帰結はどのようなものだろうか?
仮定③が除外されるとき、O国に成立すべき条件は仮定④「魔法が国の内部において奨励されている環境である」だけとなる。
このとき、O国の魔法大国化において障壁となる条件は、これまでもたびたび登場してきた「人材不足」である。そしてこの「人材不足」という問題は、単純に仮定④「魔法が国の内部において奨励されている環境である」が成立しているだけでは解消できない。それは大前提1.「魔力を持つ人間と、持たない人間とが存在する」と3.「魔力を持つ人間の総人口は、魔力を持たない人間の総人口より少ない」を鑑みてみればはっきりと分かることである。いかに魔法がO国内で奨励されようとも、肝心の魔力保有者が希少な存在であるかぎり、人材不足に由来する魔法大国の非成立は避けられない問題となってくる。
むろん、極限まで仮定③を無視することは可能である。前回は無用のものとして除外した仮定①「魔法に反対する勢力が存在する」が他国において成立し、かつO国内において仮定④「魔法が国の内部において奨励されている環境である」が成立しているのならば、O国が魔法大国Mへと変貌を遂げる蓋然性は高くなるだろう。しかし、より確実にO国が魔法大国Mへと変貌するためには、やはり仮定③の存在は必然となってくるのである。