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4.人間の範囲を規定する

 以上の大前提について、おそらく異論が挟まれる余地は無いように思われる。


 しかしながら、これらの大前提において検証しなければならないことが一つある。それは、いずれの項目にも共通して登場するワード、「人間」についてである。


 現実世界の基準で考えるのならば、人種に個々の差異はあれども、「霊長類ヒト科」というカテゴリーにおいては、人間同士に決定的な差異はないはずである。ところが、こと和製ファンタジー世界を鑑みてみる際、我々はどうしてもエルフやドワーフといった存在を無視できなくなる。加えて、そうした種族はたいていヒトとは異なる特徴を多分に有しているのである。


 次の議論へ移る前に、我々はこうしたエルフやドワーフなどの別種族をどう取り扱うのかについて考えてみなくてはならない。


 まずは、そもそもどこまでの範囲の人外を「人間」の候補にあげるのか、という問題を考えてみる必要がある。例えば上記のエルフやドワーフなどならば「人間」の範疇に含まれることに違和感は少ないだろうが、トロールやゴブリン、あるいはよくわからないケダモノまでもが「人間」の範疇に含まれることには、読み手の皆さまもやや抵抗があるのではないだろうか。


 人間の候補になるためには、どのような条件を有していればよいのだろうか。


 私が考える条件は二つある。まず第一に、「一定の社会性を有し、社会的ルールを形成可能な種族であること」が挙げられる。大体の生物は群れを形成するが、その上でルールを形成し、是非を判断し賞罰の規程を設置するだけの社会的能力を有した知的生命体は限定される。


 続いて第二に、「霊長類ヒト科と交渉が可能であること」が挙げられる。これは二重の意味で重要であり、まず霊長類ヒト科と交渉できるレヴェルにまでに知性・社会性を有していることの証左にもなるし、交渉できるレヴェルにまでお互いに信頼関係を築きあげるだけの規範を設定できるということを示しているからである。(これでトロールとゴブリンは外れることになるだろう。単純にトロールに人格を認めたくない、筆者の嫌がらせである)


 こうして、「人間」の候補になりうる種族の条件というものが決定された。その上で、そうしたエルフやドワーフたちに、霊長類ヒト科とは決定的に異なる特徴を帯びさせることは妥当か、ということを考えてみたい。この問題がなぜ重要かといえば、たいていの場合、霊長類ヒト科以外の種族の中には、魔法が使えることをもって種族の特徴としている設定が和製ファンタジー世界に散見されるからである。より簡単に言ってしまえば、「エルフの特徴」=「魔法が使える」のような定式を作り上げてしまってよいのか、ということである。


 定式を作った場合を考えてみよう。このとき、魔法が使える種族と、魔法が使えない種族が、和製ファンタジーの中では「人間」として扱われることになる。このとき、大前提1.に大きな規程上の欠陥が生ずることになる。すなわち大前提1.は「魔力を持つ種族と、魔力を持たない種族がいる」というように変更されなければならない。


 またこの大前提1.の変更は、必然的に仮定③の信頼性を低下させる。「世界的人材確保の必要性」が仮定として浮上するためには、「魔法の潜在性を有した人間をプロモートしなくてはならない」という問題が背景にあるからである。もし特定の種族にのみ「魔法」が独占されているのならば、そもそも確保するべきなのはそうした「魔法が使える種族」であって、広い意味での「人材」ではなくなってしまう。


 では仮定③はあやまりなのか? ――私はそのようには考えない。むしろここでの問題点は、「特定の種族にのみ魔法が使えるようにする」とした条件設定にあると考えられる。「エルフだから魔法が使える」とか、「ドワーフだから魔法が使えない」といった特徴づけをやめにして、「とりあえず魔力は人間に存する」としておけば、大前提1.も仮定③も尊重した状態で議論することができるのである。


 できるのであるがしかし、そうなった場合わざわざエルフやドワーフを特別な存在として扱う必要性がまったくなくなってしまう。エルフはただの背中に羽が生えた奇形児だし、ドワーフはただの髭と髪の毛と体毛が一体化してしまった、ずんぐりむっくりの癖に手先だけが無駄に器用なオッサンになってしまう。


 こんな惨めなファンタジーを読みたいという奇特な読者はおられまい。この問題を解決するにはどうすればよいのか。


 一つには、エルフやドワーフなどといった生命体をファンタジー世界から除外してしまうことである。こうすれば余計な心配にかかずらうことなく、好きなだけ魔法に関する設定を組み直すことができる。


 しかしせっかくファンタジーを書くのならば、やはりエルフやドワーフといった存在たちにも登場してもらいたくなる。もし書き手がどうしてもそうしたいというのならば、エルフやドワーフを登場させることにはやぶさかでない。ただしそのときには、人間世界とは別の社会的空間において、交流を極端に制限する必要がある。そうすれば「魔法が使える」ことを特徴とするエルフも、「手先が器用な」ことを誇りに思うドワーフも登場させることが可能なのである。


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