3.大前提の確認
次回から、本格的な仮説の検証に当たってゆく。
――つもりではあったが、しかしその前にやるべきことが一つある。それはある意味で、「和製ファンタジー世界の公式・定理」と呼べるような一般的設定についてである。筆者の頭の中における「一般的和製ファンタジー」と、読み手のみなさまの頭の中における「一般的和製ファンタジー」との、つじつまを合わせなくてはならない。
(筆者が考える)オーソドックスな和製ファンタジー世界の「魔法」において、
1.魔力を持つ人間と、持たない人間とが存在する。
2.保有する魔力の量は、人によってまちまちである。ドラゴンクエスト風にいえば、ベギラゴンを連発しても涼しい顔をしていられる魔法使いがいる一方で、メラを唱えただけで魔力を使い果たしてしまう魔法使いもいる、ということである。
3.魔力を持つ人間の総人口は、魔力を持たない人間の総人口より少ない。
という設定が、およそ多くの和製ファンタジー世界に共通する「魔法」に関わる一般認識と考えられる。
むろん上記の三つの大前提は、筆者の独断と偏見であるばかりではなく、合理的な根拠に乏しい設定である。特に大前提3.などは、「どうしてそうなのか?」と誰かに訊かれても、おそらく納得のゆく説明ができる書き手はかなり少ないだろうと思われる(「右利きの人が左利きの人より多いのはどうして?」と訊かれても、私は答えられない。同様に、「左利きの人ばっかりの世界観じゃダメなの?」と質問されても、やはり答えられないだろう)。
そうした意味でこれらの大前提は、合理的根拠に基づくものというよりも、経験則に基づくものと考えたほうが正しいかもしれない。
ただ上記の三つの大前提は、無数の和製ファンタジーにおいても多数を占める設定であると私は考える。ゆえにこれから先の考察も、この三つを前提とした上で進めてゆくこととする。
さて、大前提の確認はこれで終了したわけであるが、この段階で既に、Econopunk氏の提示した説から取り除くことのできる仮定が一つある。それが仮定②「魔力保有者は全人口に比して相対的に少ない」という仮定である。この仮定②が意味を失うことの理由として、大前提3.の存在が上げられる。仮定②で述べられていることは、既に大前提3.と重複してしまっているのである。
これにより、Econopunk氏が提示した仮説は、以下のようなものに変更される。
三つの大前提が成り立つという条件において、
①魔法に反対する勢力が存在し
③魔法大国を志向するある国に、世界的人材確保が可能であり
④魔法が国の内部において奨励されている環境である
という条件がすべて満たされるとき、魔力の持ち主が人間であっても、「魔法大国」は実現可能である。
さて、この上で次回もふたたび、三つの大前提について検証してゆきたい。