2. 1.にたいする反駁と、新しく提示された仮説。および今後の方針
前回行った考察を、もう少し簡潔にまとめてみよう。
①魔力が人間に宿る場合の「魔法大国」は、どうしても「人口・人材」という解決の難しい社会学的問題が立ちはだかってきてしまう。
②魔力が「魔術的アイテムや呪文」に宿る場合の「魔法大国」は、設定上は可能であるが、ストーリーを考える際にはあまり面白くない設定になってしまうだろう。
このようなことを、私は前作『和製ファンタジーにおける“魔法”の設定について』で述べたわけである。
以降、「この考察は、もうこれで過不足なく終わったもの」として、私は安心しきっていた。
転機が訪れたのは、前作を完結させて間もない頃のことである。私が某大手匿名短文投稿ソーシャルネットワーキングサービスで、匿名であることにつけこんで思う存分暴れまくっていたところ、Econopunk氏から上記の考察の結論について、示唆に富んだご指摘を頂いたのである。
Econopunk氏のご指摘は、つきつめて述べてしまえば次のようなものである。
桐葉山(筆者)は、「“魔力が人間に宿る”という条件の下では『魔法大国』は成立しない」ということを述べているが、そんなことはないのではないだろうか。たとえば①魔法に反対する勢力が存在し、②魔力保有者が全人口に比して相対的に少なく、③魔法大国を志向するある国に、世界的人材確保が可能であり、④魔法が国の内部において奨励されている環境であるときに、“魔力が人間に宿る”という条件の下でも、「魔法大国」は成立しえるのではないだろうか。
以上のような説(ご指摘)を、私はEconopunk氏から頂いた次第である。なるほど、確かに四つの条件が揃えば、「魔法大国」も実現可能であるかもしれない。
しかしながら、この説をただ鵜呑みにするわけにはいかないのもまた事実である。Econopunk氏が、私の考察にわざわざ時間を割いてまでご指摘をしてくださった以上は、私もそれに対して(合理的ではないにせよ)納得のゆく回答をしなくてはならない。
というわけで、このテキストにおける問題を再提起してみよう。
まずは命題として、
①魔法に反対する勢力が存在し
②魔力保有者が全人口に比して相対的に少なく
③魔法大国を志向するある国に、世界的人材確保が可能であり
④魔法が国の内部において奨励されている環境である
という条件がすべて満たされるとき、魔力の持ち主が人間であっても、「魔法大国」は実現可能である。
という命題が規定される。また上記の諸条件を、今後は「仮定①~仮定④」として呼びならわしたいと思う。
次に、この命題に関して考察を進めてゆきたいと思う。考察の主眼は二つある。一つは「A.仮定①~仮定④は本当に妥当であるのか。すなわち、余計な条件、あるいは不足するほかの条件は存在しないのだろうか」ということであり、もう一つは「B.仮定がすべて妥当で過不足ないとき、本当に『魔法大国』は実現可能なのだろうか」ということである。これはある意味で、A.が検証の結果正しいと判断されれば、B.も必然的に正しいと判断されるわけである。ただ、「魔法大国」が新たな性質を帯びる可能性がある以上、便宜のために考察の対象を二つに分けたのである。
次回から、本格的な仮説の検証に当たってゆく。