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飛べない鳥  作者: 野々倉 稔
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そもそも

そもそも



彼女ができた。



自分の世界を持ちたい、大切にしたい、と叫んでいる僕に、彼女ができた。

告白されることは、まだ、五本指に入る程度だが、しかし、新環境一年目にしては多くないだろうか。もしかしたら、自慢できることかもしれない。


いや、しかし、だ。『そもそも』の話で、告ってくるやつが、全員「変な」の部類のやつかも知れない。・・・確かにそうかもしれない。実際、少なくとも一人目の告白を断っているわけであるし、断った理由は「僕が嫌うタイプ」だったからだ。


僕は、変な奴に好かれる体質なのかもしれない。別に、そう評価されても気にしない。きみが、僕の世界に影響を及ぼすことは決してないからだ。自分の世界を持ちたい、というのは、干渉、あるいは影響を及ぼされたくない、ということだ。だから、人付き合いも最小限で、めんどくさいことは避けてきた。


『そもそも』、人と「めんどくさくならない」程度に付き合うのは、簡単だ。

ひたすら相手を褒め、どんな人の悪口も言わない。一会話に一笑。刺激は少なく、退屈な日常に陥りやすいが、逆に、自分を悪く言われることは少ない。そして、悪口を言われる状況に遭遇することも、その情報を聞かされることもない。これは、臆病な僕を守る手段であり、誰に咎められることもないし、しかも、相手を満足させれるし、で一石二鳥だ。


こんな僕は、同性には「その他の一人」と認識されるが、異性には「素敵」と認識されることがある。まぁ、こんな生き方をする奴なんて、異色だろう。しかも、単科大学の世界は、とても狭い。狭い世界の住人に認識されると、異色は目立ち、知らぬうちにそいつに影響するだろう。しかし、僕の知ったところではない。


浮くことなくマイペースに暮らせる日常を僕は気に入っていたんだ。大学生だから「先生」はいない。どんな発想も、体制からはみ出ない限り咎められることはない。そして、誰も、僕に干渉してこない。刺激がほしいときだけ出かけていく。なんて平穏で魅力的な世界なんだ、って気に入ってた。



だけど、先日、数度目の告白を受けた。



『そもそも』だ。なんで、僕に告白できるんだ?

昔流行ったプロフィールに「告白した回数は?」なんて項目があるくらい、自身の評価に関わることだと思っていたが、こいつらは、そんなことなど、と気にしないのだろうか。

最近忙しく、退屈な日々が続いたから、僕は分析してみることにした。



僕も、人並み程度に外見は気にするタイプだ。お世辞にも「かっこいい」と褒められるぐらいだ。自分でも、まぁ悪くないかな、と思う。外見・性格に減点が少ないはずだ。ということは、自分の彼氏にしても、自分の評価を落とすことなく、かつ、自分のお気に入りを傍におけて「いい感じ」ということになるのか。

いや、ふざけるなよ、僕の世界に入ってくるな、お前に興味はないんだ。



というわけで、定番の「好きです」の流れが終わり、バトンがこっちに回されたとき、僕は彼女に言ったんだ。


「ごめん。僕は、あなたのことを、友達以上に考えたことはないんだ。」


ずばっと、言ったつもりだったし、相手にも伝わった、と思った。

もちろん、彼女は、この前の人と同じように、譲らなかったし、僕も断る気満々だった。彼女は譲らず、僕はのらりくらりと逃げる会話のキャッチボールが続いた。この前と同じだった。ただ、とても、寒かった。大寒波がニュースで騒がれた日に、海岸のベンチに座り、ひたすら寒さに我慢し僕は逃げた。


数十分後、僕は寒さに負けた。忙しさに退屈を覚えていた僕は、久しぶりに「普通の大学生」をやってみようか、という気になり、彼女に「いいよ」と言った。「僕」を知らない彼女は、どのような「彼氏彼女」をやりたいのかわからないまま、僕は彼女の「彼氏」になることを承諾した。早まった気がしたが、風邪をひいて、明日の忙しい日々に影響が出るのが嫌だった。



もちろん、彼女には僕に関する「ヒント」を与えた。


「僕は、あなたが見てきた僕じゃないんだよ。とりあえず、勉強してる時の僕に、干渉してこないでね。」


言葉は悪かったかもしれない。ただ、僕の世界に影響されるのだけは嫌だった。

彼女の「彼氏」になることを決めたのは僕だし、今まで通り接する代わりに僕に干渉させない、と決めて承諾したのも僕だ。彼女を泣かせないよう気を付ける代わりに、僕の世界を教えることはしない。



しかし、接する機会が少し増えただけで、今までも、これからも彼女に見せるつもりはなかった「僕」が彼女の前で出てくるのがわかった。とても、不本意だった。

さほど親しくない「友達」との付き合い方は決まっていたはずだった。

『そもそも』さほど親しくない「友達」として扱うのが間違っているのだが、だからといって、僕が認めた親しい「友達」として扱うのも僕にストレスがかかる。

とても、困ったことになった。


いま、僕は「彼女」の扱い方に僕自身と悪戦苦闘している。僕に影響を及ぼさない程度に付き合うことの難しさを、久しぶりに体感している。しかし。「普通の大学生」は、こんなことなど容易いのだろう。


やはり、「普通の大学生」とは、理解しがたい生き物だ。


しかし、「普通の大学生」を演ってみるのおもしろい。


ふふふ。おもしろい刺激を手に入れた。

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