表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/75

あおいかみのおうさま

 むかしむかし、あるところに『王さま』がいました。その王さまはとても綺麗な青い髪を持っていて、この世にあるどんなものでも食べてしまえる力をもっていました。

 なので王さまはいつしか『暴食王』と呼ばれ、人々に恐れられるようになりました。

 王さまは世界や、世界を作った神様が大嫌いです。だから全部全部、嫌いなものだからこそ食べてしまおうと思うようになりました。食べてしまえば、もうなくなってしまうからです。

 もちろん、神様や人々は、それを止めようとします。

 けれど王さまは神様すらも食べてしまって、人々は絶望しました。


『もう止めなさい、暴食の王』


 そんな時です。女神様がこの世界に降り立ったのは。

 神々が最後の力を振り絞って生み出した最期の女神ラウシアは、その力を使って王さまの力を封じ込んでしまいます。それは自らの命を削る行為ですが、女神は人々のため戦いました。

 食べることができなくなった王さまは、そのまま土の底に閉じ込められてしまいました。

 女神はそれで持ちうるすべての力を使い果たし、消える最中に人々に言い残します。

 自分の封印は、完全なものではないと。

 数百年に一度ほど、暴食王の封印は解けてしまうと。けれど何も怖くない、その時には必ずや女神の魂と力を受け継いだ存在が、王さまの恐怖から数多の人々を救うのだと。

 こうして女神もまた、永遠の眠りにつき。

 人々は彼女が生れ落ち、そして眠りについたこの場所に都を作りました。水門を築いて水を引き込んで、それを町の結界としました。さらに中央の大聖堂を、そして門の上に大きなお城を築き上げてみせたのです。それは、ここから絶対に動かないという、人々の意思でした。

 そんなことがあって数百年ほどの時が流れ、王さまの封印が緩む兆候がありました。

 しかし、人々は何も怖くありません。大聖堂の頂点には、うら若く美しい金色の髪を持つ女性が君臨していて、彼女が王さまをあっという間に静めてくれたからです。

 彼女こそが、初代聖女と呼ばれた女性。

 死した女神ラウシアの、生まれ変わりなのでした。

 こうして聖都は王さまの眠りを見守り、聖女の降臨を待ち続けます。けれど本当はこんなことを願っているのです。もう、恐ろしい存在を寝かし続けるのは嫌なのだと。

 次の、この次の聖女はきっと王さまを――。

 その願いは、暴食王が絶えるまで、終わらないのです。



   ■  □  ■



 これが、聖都に伝わる御伽噺。

 世界の中心である聖都には、かつて世界を食らわんととしたという王の寝所がある。

 それでも騒ぎにならないのは、もうここに暴食王がいることが、この世界の当たり前になってしまっているからなのか。それとも王族や聖女などへの、人々の信頼が厚いのか。


 ――この話には、実はいくつかの続きがある。

 たとえば、女神と共に暴食王と戦ったのが、現在王族として国を治めているの先祖に当たる青年だったこととか。言うまでもなく、聖都の名は女神にあやかってつけられたものだとか。

 今まさに、聖女が大聖堂――いや、ラウシア教団の頂点に存在している、とか。

 つまりわたしはおそらく、今すぐに事故で死ぬようなことでもない限りは、暴食王の目覚めと封印を経験できるかもしれない。それらは、お触れとして人々に知らされるそうだから。

 それどころかもしかすると、暴食王を直接見る可能性もある。

 はた迷惑なことに、彼は再封印までの間、この城に閉じ込められるらしいのだ。

 この城は元々そのために作られた一面もあるらしく、水を引き込んでいるのも暴食王の力を押さえ込むための結界なのだと言う。女神が命をとして削ぎ落としてもなお、かの王の力はすさまじいということなのだろう。だから、きっとこれまでの女神は、彼を殺せなかった。

 そして人の器に入ってしまったかつての女神に、もう以前の力はない。


 でも人々は期待する。

 いつか必ず、恐怖から開放されることを。


 ……正直なところ、これらの話を最初は嘘だと思っていた。ただ、聖都をそれらしく見せるために大昔の人が作った、御伽噺や伝承の一つに過ぎないのだと、冷めた目で見ていた。

 だいたい、そんな危ないところに国の中心をおくなんて、考えられないし。

 だけどよくよく考えれば人が住む場所だからこそ、ここまでの設備――水を用いた結界などを作ることができたのだろうと思う。最初は、その程度でよかったんじゃないだろうか。王族なんかが住む必要なんてなくて、でもあまりにもここが『立派になりすぎた』から。

 そんな立派な町に王族がいないというのは、少し格好がつかなくなって。

 あるいは人々を安心させるため、かけがえのない王族が住まえるほど安全であるということを示す目的もあって、ここがこの国の、いや世界の中心になったのではないかなと。

 発展するのは、面倒なこともあるのだとわたしは思った。

 やっぱり程々がいい、何事も。

「ねぇねぇ、暴食王ってどんなヤツなのかしらね」

「野郎はどーでもいい」

「じゃあ聖女様は? 聞いた話じゃ、すっごい美少女らしいわよ」

「らしいな。でもとっくの昔にヒトのモノだろ、キョーミねぇ」

「え、そう……なの?」

「なんだ、ミィ知らないのか。当代の聖女シエラリーゼは、第一王子セシルの許婚、というか婚約者なんだよ。聖女だってわかる前かららしい。実に似合いの美男美少女ってやつだな」

 けっ、と顔をしかめるユイリック。

 そんな兄の姿に、にやり、とラヴィーナが笑みを深めた。あぁ、嫌な予感しかしないのはわたしの悪癖なんだろうか。それとも、局所的な予知能力のようなものなのだろうか。

「やっだぁ、兄貴ってはもしかして王子様に嫉妬してるの?」

「したくもなるだろ。聖女なんかを相手取って、それでも『王子が好きなの』って抜かす女の多いこと多いこと。おかげでオレらは放置。かわいそうだろー、哀れだろー」

「どこがよ」

 妹にばっさりと切り捨てられ、ユイリックは机に突っ伏した。

 まぁ、年頃の女の子のほとんどが、美男子で名を通す王子に釘付け、というのは確かに歯がゆいものがあるのだろうと思う。どうやっても、王子というステータスには叶わないし。

 しかし、あこがれるにとどまらない少女らがいるのも、面倒なことだ。わたしは噂で聞く程度だけれども、聖女から王子を奪い取ろうとあれこれ画策する貴族もいるのだという。

 さすがに、人々の支持を集める聖女と、真っ向勝負は無謀だと思うけどな。

 それもわからないから、ラヴィーナあたりに『お貴族様』なんて呼ばれるんだろうけど。

「さーてと。そろそろ行かないとな。お前らはこれから、どこで仕事だ?」

「あたし達は表で掃除。担当は別々だけど。兄貴は?」

「オレは裏で雑用。ま……荷物運びとか、そんなとこだな」

 面倒だ、とぼやきつつ、ユイリックが立ち上がる。

 空になった食器を、カウンターに返しに行くのだろう。ふと見た砂時計はだいぶ量を減らしていて、もうじき憩いの時間が終わることを伝えた。わたしもトレイを手に立ち上がる。

 ラヴィーナやミィも続き、食堂の前で別れる。おそらく、昼は別々に食事を取ることになるだろう。それぞれの担当が離れているし、終わる時間が重なる保証もないから。

 せいぜい食堂に来た時に、誰かが一緒にいればいいな、と思うだけ。

 一人になって持ち場に向かいながら、わたしはふと例の話のことを思い出していた。数百年おきの目覚めの日を、もうじき迎えるという暴食王。この地の底に眠る、王と呼ばれる存在。


 今年は、今度こそはその眠りが永遠となるのか。

 再び未来に先延ばしにされるのか。


 どっちになるのだろうと思い、どっちでも同じことだと感じる。国の偉い人にとっては死活問題かもしれないけれど、わたしのような庶民にとっては……さほど、影響はないから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ