表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/75

しばしの住まい

 ひとまず廊下に出て、わたし達は塔の中を見て回った。というのも、やっぱりミィが完全にダウンしてしまったために、どこかで休ませなければいけなくなったからだ。さすがにあのリビングと呼んでいい部屋においておく、ということはできない。王さまがいるし。

 ひとまず双子にミィを任せ、わたしは上の階――六階に向かう。外から見た限りはこの上が最上階のはず。ちなみに城もそんな感じだけど、もしかすると城は七階もあるかもしれない。

 普通、こういう場合の最上階というのは、主にその場所の最高権力者の寝床だ。

 案の定、六階には一部屋だけ。

 ででんとやたら大きく天蓋までセットになったベッドが置かれた、どう考えても王様のための寝室だ。塔の中だけど部屋の内側は木で囲っているようで、窓がやたら高いところにあって開け閉めできそうにないことに目をつぶれば、かなり素敵なお部屋に見える。

 ここにいても仕方がないので、わたしはあわてて下へ向かった。

 上には何もないことを伝えてから、今度は三人で降りていく。

 すぐ下――四階と三階にはそれぞれ、個室と物置らしいスペースがあった。

 どちらも内装などは同じで、どうやらわたし達はここで寝起きすることになるらしい。中はわたし達が普段使っている部屋よりずっと豪華で、ベッドもふかふかだった。

 閉じ込められているのに、生活環境が向上している。

 ひとまずミィを適当な部屋に寝かせ、さらに下へ。二階は台所だった。簡単な厨房の類もあるとか執事長は言っていたけど、普通の一般家庭のものより立派な気がしないでもない。簡単なテーブルもあるので、ここで食事を取ることも可能だ。……王さまは、上のリビングかな。

「なんつーか……」

 すげぇよな、とユイリックがつぶやく。ラヴィーナは瓶に溜めてあった水に、どこから引っ張り出したのか知らないけど布を浸し、慌しくミィのところに戻っている。

 なので、残る一階はわたしと彼が見に行くことになった。

 といっても、ここまでくると一階に何があるのか、おおよその見当はついた。そしてその予想通りに、一階はお風呂などの水周りが中心。予想を裏切ったのは地下の存在で、どうも食料などが押し込まれた倉庫スペースらしい。階段を下りてすぐのところに、厳重に鍵がかけられる扉があったが、その理由はすぐにわかる。一階には出入り口が存在していた――のだが。

「こりゃ、びくともしないな」

「うん……」

 案の定というか、やっぱりというか。扉は外からのみ開閉するもので、おそらく物資の搬入などに使っているのだろう。内側から開けることはできそうにない。ドアノブすらないし。

 一応押してみたけど、当然動くわけもなく。

 まぁ、出られたところでどうなるわけでもないことだ。

 わたし達が『特別な仕事』を任されたと、きっと噂になっているだろうし。じろじろ見られてひそひそされて、非情に気分が滅入る状態にしかならないのは明らか。

 ひとまず、何かあっても何とかなりそうなことだけはわかったわけなのだし、これでよしと思うことにする。いつまでここにいるのか知らないけれど、たぶん、何とかなる。

 少しだけ安堵が心に浮かんできた。


「よし、ひとまずラヴィーナんとこ戻るぞ」

 これからのこと考えないとな、とユイリックは階段に向かう。わたしもそれに続いて、二人がいる部屋に戻った。部屋に戻るとミィの意識が戻ったのか、ベッドの上に腰掛けていた。

 適当に室内のベッドなり椅子なりにすわり、ひとまず情報を整理する。

 わたし達はここでおそらく数日は生活しなければならない。そのための食料などは用意されているから、おそらくは大丈夫。それと同時に、王さまのお世話もしなきゃならない。

 おそらく食事など、よくあるお世話でいいと思う。

 そこまで話をしたところで。

「はいはい、しっつもーん」

 右手を上げたラヴィーナが、ひらひらとその手を振った。

「お世話っつってもさ、どう考えても無理でしょ。できること限られすぎ」

「洗濯……は、水がないから無理だよな。井戸もねぇし。風呂はあるけどさ。っていうかアレは風呂だよな? 水を溜める場所じゃねぇよな? どっちにしろカラじゃ意味ないけど」

「狂ってるわね……」

 兄の言葉に顔をしかめるラヴィーナ。

 やだぁ、とそのままベッドに倒れてしまった。気持ちはわかる。わたしだって毎日が無理だとしてもせめて数日に一回ぐらいは、身体を丁寧に洗っておきたいところだ。ましてやラヴィーナは髪が長い。というかわたし以外はみんな長い。洗わないのはさぞかし苦痛だろう。

 と、そこで思うのは王さまのことだ。あれは相当長い髪だけど、やっぱりあの人も入浴とかをするのだろうか。世話係がいるのだから、たぶん……そういう作業が、必要なんだろう。

 これがそれらしい理由をつけただけの、ただの隔離でもなければ。

「……一応お着替えとかは一式が、数日分揃ってるみたい」

 部屋の中にはベッドと机、ランプ。それからクローゼット。

 その中には汗などをぬぐうのに使うのだろう柔らか目の布や、下着を含めた各種衣服。

 全部が五着ほど用意されている上に、ざっと見たところどれも真新しいので、わたし達のために揃えたみたいだ。その証拠に、下の階には男性用が揃えられた部屋もあったみたいだし。

 つまり、ユイリックという『男性』がいることを、考えた上での用意。

 少し怖くなったけど、まぁ、ありがたく受け取ることにしよう。

 こうして一通り、必要最低限の衣食住は確保された。そして残る問題は、一つ。


「水……何とかしないとね」


 身体を清潔に保つためにも、生活を豊かにするためにも。

 そして、わざわざ用意されたものを最大限に活用するためにも。

 まずはそこから何とかしないと、いけないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ