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君恋う  作者: 氷室 愁
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3.帰宅

訪問有り難う御座います!



帰ることを伝えると、濫が切り株のところまで送ってくれることになった。正直、切り株からここまでの道は全く覚えていなかったのでその申し出は有り難かった。

[硫の姫には…何人も婚約者がいるのか?]

[まさか。今まで1人しか婚約者がいたことはないよ]

2人は木から木へと飛び移りながら話をした。この方が移動が早いと、香が提案したのだ。

[しつこく求婚してきて、いつのまにか勝手に婚約したことにされている]

うんざりだというように、首をすくめる。

[破棄しても、破棄しても、何度も同じやつと婚約しているんだ]

[今までで1人だけ?]

[あ、いや、2人…3人…何人だったかなぁ]

[その中の一人が香ってことか。よく知ってるな]

[あ、いや、聞いた話]

昨日とは違って木は荒れたように生い茂っていた。そのせいで、布から出ている部分がよく擦れ、切れる。だがそれは香だけで、前を飛ぶ濫は全く大丈夫なようだ。

[痛っ]

細い枝が跳ね、香の肩を裂き、頬を打った。思わず手を離してしまい、慌てて手を伸ばしたが既に遅く、木の枝は遠ざかっていった。

これぐらいの高さなら、大怪我はしないだろう。

覚悟を決め、次くる痛みに備えると、背中が感じたのは冷たい土ではなく――

[大丈夫か!!]

[濫!?]

目を開けると香は濫の腕の中にいた。

[洗った方がいいな]

[え、え!?]

そのまま近くを流れている川まで運ばれる。傷を洗うと、濫の髪を束ねていた布で止血された。

[あ、あの、下ろして]

[あ、あぁそうか]

濫は香を膝に乗せ、まだ抱き抱えたまま腕の傷を洗っていた。

[…有難う。あの、もういいからここまでで]

[まだ切り株まではあるぞ]

逃げるように濫との距離を取る。

[いや、切り株行くよりこの川下った方が近いし。この川からの道は分かるから]

[そうか]

納得したのか、それだけ言うと濫は来た道を戻り始めた。

[あの!髪留め――]

[また会ったときでいい]

また、といわれたことで思わず笑みがこぼれた。

[あぁ、またここで]




あれから8ヶ月。何度も森へは足を運んだが、濫にもう一度会うことはなかった。

[髪留め、どうすればいんだよ]

ここから忍び出るのは大変なことなのに――

心は折れそうになっていた。


有り難う御座いました

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