〜エピローグ〜
訪問有り難う御座います。最終話です。
微妙な手を加えていく。ほんの少し違うだけで、香りは変わってしまうのだ。
[これぐらいかな]
納得のいく香が出来上がると、それを香鈴は小袋に入れた。今日久しぶりに会う婚約者のために。
[香鈴様!まさかその格好で行くとは言いませんよね?]
黒の上下の着物を見て、美魅が悲鳴に近い声を上げる。
[え?]
[駄目よ、香鈴ちゃん。せっかく可愛いのに]
出掛けようとしていた時、香鈴は美魅と麻依に捕まっていた。
久々に会うのだからと、部屋には香鈴がえらく気に入っていた廉国の料理を準備してきた。
待ち合わせの切り株へと行くが、そこに香鈴の姿はまだない。
[……少し、早過ぎたか]
はやる心に思わず苦笑した。
[濫!]
[香鈴?]
そこに現れたのは、髪が背中まで伸びた香鈴だった。白の髪に赤い花の簪を挿している。服もてっきり男物を着てくると思っていたので、純白の可愛らしい着物で香鈴が現れたとき、つい濫は無言になってしまった。
やはり可笑しかっただろうか。いつも男物の服で着飾ることなどしていなかった香鈴だ。こんなにも着飾ることに抵抗があった。
[こ、これは……美魅と麻依さんが無理やり。あの、可笑しかったら――]
不意に、強く抱きしめられた。思わず口を噤むと、耳元で囁かれる。
[そんな事ない。綺麗だ]
[あ……有難う]
そのままそっと濫の手の中に、香を滑り込ませる。
[新しいやつ。使って]
ふわりと、頭に口づけを落とされた。簪が揺れ、音を奏でる。
[……やっぱり香鈴は優しい香りがする]
このまま、染み着いてしまえばいいのに。愛しい人の、甘い香りが――
有り難う御座いました。
おつきあい下さり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
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有り難う御座いました。




