28.心無い結婚式
訪問有り難う御座います。
緑の丘を小さな列が歩いていく。その中心には華やかな輿が掲げられていて、その中に座る少女はまるで人形のように飾られていた。
[知ってる?あの第三王子が結婚ですって。この列も式を執り行うものらしいわよ]
[でもあの人、少し火月様には年上すぎない?]
[白髪の女の子でしょう?火月様より二つ年下らしいわよ。さっき、まるで人形みたいに飾られて輿に乗せられているのを見たわ]
[髪や顔を隠すと怒られるそうよ。なんでも、その白髪が珍しくて婚約したとか]
周りから聞こえてくる声は、これが現実なのだと香鈴に知らしめた。
式がこれだけ質素なのは、第一王子にそうするように言われた所為であるらしい。
早く終われ。終われ。
呪いのように、それだけを香鈴は願っていた。
丘の上に近付くにつれ、次第に自分が消えてゆくのを感じた。
着飾られて、本当に人形のような心になる自分。
ゆらゆら、ゆらゆら――
世界が揺れる。この手は、誰のもの?足は、顔は、髪は――
[……っ]
小さく呟いた名前は、誰かの耳に入るでなく、風に運ばれて消えた。
頂上に着くと、ゆっくりと輿が下ろされた。
目の前に立つのは、自分の目を見ようとしない最低王子。
[誓いの口付けを――]
目を閉じて浮かべるのはただ1人。
濫――
有り難う御座います。




