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君恋う  作者: 氷室 愁
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27.黒幕

訪問有り難う御座います。


目の前に座るのは油断のならない笑みを浮かべる男だった。

[それで、出来れば私も廉との関係を壊したくはないんですよ]

弟とは似ても似つかぬ奔国第一王子皐月が今、濫の前に座っていた。

[今回の件、何も知らずに貴方は巻き込まれた。香鈴姫とは何ともない関係だと]

突然尋ねてきたかと思うと、いきなり本題に入ってきた。

そこまでして、香鈴を手に入れたいという事だろうか。

[そういえば、最近廉の塩が値上がりしているとか]

そして、思った通りそれとなく脅迫してきた。

[これ以上の値上がりは、大変ですよね]

相手を思いやる口調とは真逆の表情。予想通りだ。暗に、この件から手を引けと、そう言ってきている。

しかし、一体いつから濫と香鈴の繋がりに気が付いていたのだろうか。それも、濫をこうして押さえなければならない強敵だと判断して。

[私の方でも、廉の現状はよくないと思っています。ですので、場合によっては支援をしようかとも]

[それだけですか?]

[は?]

相手の手札がこれだけならば、濫は確実にこの勝負に勝った。

[貴方の中での硫国第一王女の価値とは……どのような物なのですか]

[……価値、とは]

まさか何か返されるとは思ってもみなかったのか、皐月の返事に少し間が開いた。

[第一王子という手札も残したまま手に入れられたわけですが、どのような価値が?]

第三があそこまで拘り、香鈴と婚姻を結ぼうとしたのは、あの珍しい髪という理由だけでなく、第一王子である皐月の後押しもあったからというのは、調べが付いている。何故そこまで硫国の第一王女を欲しがったのか――

[……]

言うつもりはないのか、余裕の笑顔を貼り付けたまま皐月は口を噤んでいる。本気で化けの皮を剥がしてやりたくなった。

[硫をまとめている姫を迎えれば、自分が統治できるようになる]

ぴくり、と皐月の眉が跳ねる。

[そう第二妃に話しを持ちかけ、塩の値上がりに協力して貰った]

あの女なら簡単に話に乗り、奔の王子との婚約もさっさと決めてしまいそうだ。その後、自分がどうなるかもよく考えず――

[そして、どうせ第二妃に硫を任せることはせず、御自分で硫を手に入れようと思っていたのでは?]

挑戦するように見るが、やはり皐月の笑顔は崩れなかった。この仮面を剥がすには、あの話しをするしかないのだろう。

[まあ、ただの興味本位なのでいいですけど。本題に戻りますが、塩の件、別に何も問題は無いので]

[っ!?]

初めて皐月の顔が強ばった。

[今までとは違ったルートで手に入るようになったので、解決済みですよ]

皐月の顔から次第に笑みが消えていった。

[廉に他のルートなんて無いはず……]

[えぇ、酪に直接話を付け、新たなルートを確保しました]

[……]

[そういえば、裏で怪しい動きをしていた者を捕らえましてね、何やら興味深いことを聞いたんですよ。どうやらこの(けん)には奔が関係していると……]

わざとらしく言ってのけると、明らかに相手の顔が険しくなった。すっかり笑顔の仮面は剥がれてしまっている。

[……婚儀がどこで行われるか、日取り等は分からないはずだ]

こちらの顔が本性か――

[あぁ、その事でしたら――]

指で軽く机を叩くと、奥から楼芽が現れた。その横には、香鈴付きの侍女、美魅という娘が立っていた。

[お久しぶりで御座います。先日はどうも冷たい牢の中でお世話になりました]

深々と丁寧にお辞儀をして見せてはいるが、仮にも第一王子にこのように挨拶が出来るのは流石あの香鈴の侍女というところだろうか。

連れてきた楼芽は耐えきれなくなったのか、耐える気がないのか……肩を震わせて笑っている。

[香鈴様の婚儀は明日の昼からと聞いております]

[……]

睨まれても、怯むどころか寧ろさらに満面の笑みを浮かべて話し始めた。

[でも驚きました。まさか既に香鈴様がこちらの廉国第一王子濫様と婚約しているというのに火月様が無理やり連れて行ってしまうなんて]

困ったように肩をすくめてはいるものの、その目は笑っている。

[……]

[私共はお止めしたのですけれど、強引に連れて行かれてしまって……本当に、驚きですよね]

すると、今まで不機嫌だったことが嘘のように、急に皐月は笑い出した。

[あははははっ!そうか、今回は私が負けたようですね]

また始めと同じ笑顔の仮面を付けている。

[証拠は、出てこない。婚約も、弟の暴走だ]

この短時間で切り捨てるものを素早く判断し、自分の状況を正確に捉えていた。厄介な相手だ。

しかし、今回は勝てた。駒運びは濫の方が一歩先を進んでいたのだ。

[ははは、悪いことをしてしまったね]

朗らかに笑うその姿は、本気で言っているのかと思わず怒鳴りつけたくなるほど邪悪だった。

[……いいから、早く香鈴の元へ連れて行け]

全て片付いた今、濫の我慢も限界に達していた。

早く苦しみから解放してやりたい。その思いでいっぱいだった。

[それでは……すぐに発ちましょうか、わが国に]


有り難う御座いました。

ここまできて、ようやく浪芽の働きの結果がーー

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