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君恋う  作者: 氷室 愁
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26.過去 出会い

訪問有り難う御座います。


初めての夜会は、とても恐ろしかった。自分の頭に注がれる好奇の目。あの頃は美魅もいなくて、護ってくれる存在は、なかった。

気がつくと、楽しげな笑い声、楽の音から香鈴は逃げ出していた。

冷たいはずの夜風が心地よかった。

[苦しい]

それは自分の気持ちそのものだった。驚きながらも声がする方を見れば、人が1人屈み込んでいた。

放っておけなかった。自分に似ているその少年を。

[大丈夫ですか?]

声をかけると、少年の驚いた気配がした。

[多分、あの空気に当てられたんですよ]

少年につられ、同じように光溢れる窓を見ると、また怖くて体か震えた。

少年も、同じなのだろうか。

そう考えると、余計放っておけなくなった。

ながらも声がする方を見れば、人が1人屈み込んでいた。

放っておけなかった。自分に似ているその少年を。

[大丈夫ですか?]

声をかけると、少年の驚いた気配がした。

[多分、あの空気に当てられたんですよ]

少年につられ、同じように光溢れる窓を見ると、また怖くて体か震えた。

少年も、同じなのだろうか。

そう考えると、余計放っておけなくなった。

[あの……でしたらこれを持っておいて下さい]

渡したのは、母から教わって初めて自分で作った香袋。ふわりと柔らかな香りが心を包む。

どうか、少年に絡まる糸が、解けていきますように。

[これは……]

[私の作った香です。これで少しでも貴方が楽になればいいのですけれど……]

不意に、少年に拒絶されたらどうしよう、と怖くなった。

麗艶のように臭い、汚いと捨てられたら?

そして、気がつけばまた逃げていた。

しかし、どこの国の王子、貴族かは分からない少年は立ち去ろうとする香鈴を暗闇の中追ってきた。

[待って!!]

[……]

[中には戻らないのですか?]

[……えぇ。だって、なんだか嫌なんですもん]

[嫌、とは]

[ご機嫌取りに来る人。亡くなった母のことを思い、私を気遣う人]

香鈴の母である第一后が他界したのはつい最近だ。そしてそのたった1人の娘は今夜という日まで一度たりとも表に出てくることはなかった。それは全て継母である第二后、麗艶の所為であり、何度もあった機会は尽く潰されていた。

[そして何より……父の隣にいるあの人。第二后様がいるから]

[嫌い?]

[いいえ、あの人が私を嫌っているんです]

別に嫌ってなんかいなかった。どちらかといえば好きだったろう。周りが第二后の噂をする中、子供ながらに、母とその人の仕方がない関係を理解していた。

それなのに、第二后は香鈴を愛してはくれなかった。

[薬草に詳しいから、気味が悪い。香を作ってお渡ししても、臭い。汚い]

幼い少女にとって、それはあまりにも悲しい日々だった。

[もう嫌……]

王は――父は、声さえ掛けてくれなかった。

皆が自分を否定し、消えてしまいたいと思っていた。

[あなたはいい香りがする]

[え?]

それは唐突な言葉だった。

[今つけているのは、自分で作った香?]

[そうです]

[なら、俺は好きだよ。あなたの香りが]

[好……き]

[これも、とても心を落ち着かせてくれる。また今度作ってくれますか?]

それはまるで、天から差し伸べられた光のようだった。

[……はい]


あの時の少年のお陰で香鈴今まで頑張れていた。

[薄紅の袋……。そっか]

胸倉を掴んだときに見えた小さな袋。あれはあの時の物だったのだ。

[……貴方は、何度も私を支えてくれていたんだな]

全てが繋がった。

時節、苦しげな表情で香鈴を見る濫。危険を冒してまで、何度も救ってくれた濫。

そして、香鈴は――最後まで彼を傷つけた。

扉を叩く音がした。

窓の外はすっかり明るくなっていた。

香作りが好きで、薬草に詳しい香鈴ではなく、もう1人の――白髪の硫国第一王女、香鈴を呼ぶ声がする。

[……はい]

最初で最後の想い人、濫を想って流した透明な滴は、地に落ちて消えた。


有り難う御座いました。

ようやく、香鈴気づきましたね。

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