25.美魅
訪問有り難う御座います。
暗闇の中、ただ一人立っていた少女。
もともと、美魅は香鈴の母付きの侍女だった。
《私の娘を……よろしくね》
いつも聞いていた、明るく笑い、優しく、大人しい少女とはかけ離れていた。男物の服を着て走り回り、言葉遣いも荒く、姫とは思えない姿だった。
それでも――
[美魅……どうした]
[っ!!]
独り泣いていると、いつの間にか側に座り、香を焚いてくれていた。あの優しさは、失われていなかった。
[泣きたいなら、思い切り、泣け。お前はため込むな]
なら、貴女は?貴女は独り、まだその悲しみを抱えているの?
自分よりも三つも下なのに、香鈴は自分の足でしっかりと立っていた。
[香鈴様……]
側にいると、あの時誓ったのに、離れてしまった。
冷たい牢の中、思い浮かべるのは香鈴のことだけだった。
不意に、闇が動いた。
誰か、いる。
[誰……?]
[俺?ん〜……怪しいもんじゃないけど、怪しいよねぇ]
[……]
こんな時に美魅の牢を訪れる者なんて居ないはずだ。家臣は全て捕らえられたし、官吏も、麗艶側の者だけ残し、残りは家に帰された
[いやぁ、ここまで入ってくるの大変だったんだよ。そいでさ、どうしようかなって思ってたら、こう……手に黒痣のある兵がここまで案内してくれて]
訳の分からない話しをされ、さらに混乱する。害はなさそうだが――
[何故、ここに来たの?]
[多分、姫さんを救うのにはあんたの力が必要になる]
姫、というのは香鈴のことだろうか。
[貴方は、誰?]
[俺は――]
訪問有り難う御座いました。
ようやく話が動き始めます。




