24.麻依
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ある夫婦の想いです
香鈴は本当に優しく、悲しい子だ。何よりも国を、人を思い、自分のことを全て後回しにする。
春に一度国から逃げ出したが、それも国のためを思っての行動だった。このまま奔の第三王子と婚約するのは国のためにならない、と。そして、一段落すればすぐに帰ってきた。
[香鈴……どうかあの子が幸せになりますように]
[麻依、体を冷やすぞ]
ふわりと薄手の毛布が掛けられる。
[あなた……]
香鈴の言葉遣いが荒くなったのはいつからだろう。髪を短くするようになったのは?
男物の服を着るようになったのは?
香鈴の母が他界したときは麻依も大変だったが、そんな香鈴の細かい変化に気がつけなかった自分が麻依はずっと憎かった。
[ずっと……ずっと無理をしていたのよ。自分を護るために、殻を作った]
何故あの時自分は、香鈴の側から離れてしまったのだろうか。いち早く、王妃の死去から立ち上がる事が出来たのは、麻依ではなく、香鈴だった。
何よりも妻が大切に思っている香鈴。自分と麻依の娘のような存在である香鈴が、最近ようやく髪を伸ばし始め、実は内心とても嬉しかった。幸せになって欲しいと思っていた中での婚約。強硬手段。
[幸せに……]
[私達の娘が、幸せになりますように]
小さな匂い袋を握りしめ、二人は祈った。
ありがとう御座いました




