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君恋う  作者: 氷室 愁
23/32

22.囚われの姫

訪問有り難う御座います


取り付けられた窓には鉄格子。まるで檻のような馬車に香鈴は入れられ揺れていた。

流石に森を抜けて硫に戻るわけには行かないので、正規の道を通り、十日かけての旅をした。その間、少しの休みもなしだった。

窓から見える景色からは次第に雪が消えてゆく。代わりに、白い湯気が茜色の空にいくつも立ち上っていた。

[城門です]

何でもない御者のただの報告。

久し振りにくぐる城門は、ただの牢獄への入り口にしか見えなかった。


[お帰りなさい、香鈴]

香鈴が出て行ってから数日の間に、城はすっかり麗艶色に染まっていた。染み付いた濃い香が鼻に突く。

[貴女がいなくなって、本当に心配したのよ]

[ただいま戻りました]

きっと顔を合わせたら殴りかかると自分自身、そう思っていた。しかし、実際に会うと全てがどうでもよくて、涙一つ零れなかった。

[……面白くない子。泣きゃしない]

火月に聞こえないよう、小さな声で囁かれた言葉。

[明日の朝、婚約の儀を執り行うため奔に発ちますね]

すぐさま、麗艶は態度を変える。

[えぇ、その方がこの子も喜ぶでしょう。ねぇ、香鈴]

火月のその言葉に緩やかに麗艶が笑う。まるで作り物の舞台に放り込まれたようだった。

[それにしても、あの王子もまだ諦めてなかったのね]

[本当に。廉に兵を置いておいて、よかったですよ]

あの王子、というのはきっと濫のことを指しているのだろう。しかし、何故二人がそんな話しをしているのか、全く想像が付かなかった。

[こんな子の、一体どこがいいのかしら。何度も何度も求婚して]

[え……?]

思わず顔を上げると、麗艶と目があった。

[一応、利用価値があるかと思って婚約していたけれど、火月様と婚約したのだもの、もう用済みよ]

婚約……誰と誰が?

[破棄したっていうのに、しつこいぐらい]

だからあの時、あんなにも急に奔の兵が入ってきたのだ。

[あはは、馬鹿ですね。私に適うはずないのに]

[……馬鹿はお前だ]

[は?]

馬鹿に届く言葉はなかったようで、聞こえなかったのか火月はポカリと口を開けていた。

伸ばされた手を振り払い、そのまま、香鈴は火月に部屋まで連れて行かれた。

[出立前に、美魅達、家臣に会わせてくれ]

[無理ですよ]

部屋は香鈴が出ていったときのままだった。

[貴女の決心が揺らいではいけませんからね]

何が可笑しいのか、ずっと顔に笑みを張り付けている火月。

[一度でいい……]

[駄目です]

[頼む]

[駄目だって……言ってるだろ!!]

頭を下げる香鈴の細い体に、無遠慮な蹴りが入った。何が起こったのか分からぬまま、香鈴は地面を転げ回った。

[がっは……]

[あぁ……貴女があまりにも煩いからついつい蹴ってしまいましたよ]

つい、で未来の妻を蹴るものなのか。

[勝手に転げるのはいいですけど、その顔と……特に髪は汚さないで下さいよ]

[……!]

[それがない貴女など、全くもって価値のない]

髪、髪、髪。ただ珍しい髪と言うことだけでこの男は結婚しようと言うのか。あまつさえ、それを恥ずかしげもなく本人に伝えて。

[あぁ、そうだ。貴女が50になって、その髪が別に珍しくもなんともなくなったら、国に帰れますよ]

部屋の扉が閉じられる。

まだ、硫の第一王女だから、国の権力者だからと言ってもらえればよかった。それならば、一国の姫として、政略結婚の覚悟をし、結婚しただろう。

[私は……我が儘なのかな?]

答えのない問いは、暗闇の中へと消えていった。


有り難う御座いました

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