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君恋う  作者: 氷室 愁
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20.守るために


濫が少しでも楽になるようにと、自分に出来ることを探していた香鈴だったが、部屋が騒がしいことに気がつき、作ったもの片手に戻ってきていた。

濫が、廉の第一王子――?

何故一度もそのことに気がつかなかったのだろうか。廉の第一王子の名ぐらい、香鈴だって知っている。濫が一国の王子だなんて、浮かびさえしなかった。

いや――嘘だ。香鈴の情報を手に入れていたことや、匿うことの出来る力を持つものが、ただの貴族であるはずがない。王族関係者もしくは――王子。

考えず、気づかない振りをして逃げていたのは香鈴だった。

[廉の…王子?]

[…]

濫の逸らされた目が、本当のことなのだと、物語っていた。

[おや、その様子では知らなかったのですか?]

ぞわりと全身の毛が総立つ。

香鈴は呆然と兵を――いや、その向こうに立つ、1人の男を見た。

[我が姫、お久しぶりです]

[第三…王子]

[火月、と呼んで下さいと、何度も言っているのに]

馴れ馴れしく声をかけてくる姿には、全身が拒否反応を示した。

[あまりにも帰りが遅いので、迎えに来てしまいました]

迎えになど来なくてよかったのに。待っていたのは、こんな男の迎えなんかではない。

[あなたの召使いも、貴女の帰りを待っていますよ]

[…]

それはつまり、人質の存在を暗に指しているのだろう。こんなに汚いことは思いつくのに、どうして廉の第一王子、濫に挨拶をすることは思いつかないのだろう。

[それで、君はどうして我が妻を匿ったりしたのかな]

妻と呼ばれ吐き気がした。

ようやく声をかけたと思えば、何という態度だ。第一と、第三どちらの身分が上か、考えずとも分かるというものだ。

[この嘘吐きやろう!]

突然、部屋に叫び声が響いた。皆の視線が一斉に香鈴に集まる。

[ふざけるな!助けるとか言って俺を売るつもりだったんだな。奔の兵が来たことが何よりの証拠だ。この、嘘吐きやろう]

叫ぶと、視界の端に、そんな自分をさげずんだように見る濫の隣に立つ青年と驚きを浮かべる火月の顔が入った。

[最低だ]

嘘。

[全部仕組んでたんだな]

全部嘘。

[信じた俺が馬鹿だった]

助けてくれて、有り難う。

[敵国の王子だったなんてな]

だから傷つかないで。

[本当に…]

あなたはこれ以上この件に関わらないで。

[俺は、馬鹿だ]

濫の顔は見れなかった。

濫はどうして自分のことを幾度も助けてくれたのだろうか。例えその気持ちが、香鈴が濫に向けるものと異なっていようと、構わない。ただ一つ願うならば、どうか私のことを忘れないでいて。

いつの間にか惹かれていたこの気持ちが、濫に届くことは一生ないだろう。

胸倉を掴むと香鈴は濫を強く殴った。

二度と、濫が助けたくないと思うように。忘れられない記憶を刻むために。

[さようなら…]


部屋を出るとすぐさま兵が香鈴を取り囲もうとした。

[近寄るな!俺に少しでも触れたら、触れられた部分を剥いでやる]

本気で言っていることが分かったのか、無言で兵は離れた。

その隙に、するりと袖から小袋を落とす。きっと楼芽が見つけてくれるだろう。

[そんなにかりかりしないで下さい]

[俺が婚約したら、みんなを解放してくれるんだな]

兵はすぐに退散したので、濫の心配はいらないだろう。残るは、硫に残してきた家臣達だ。

[式を挙げたらです]

[結婚したら…もう手を出さないな]

[それは、あなたの態度次第ですよ]

髪へと伸ばされる手。それは濫を思い出させたが、どこか何かが違っていて、気持ちが悪いと思った。


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