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君恋う  作者: 氷室 愁
20/32

19.招かれざる客

訪問有り難う御座います!例の婚約者初登場!


報告に目を通すと、やはり塩の価値は次第に上へと向かっていた。

[やはりな……。楼芽]

濫が軽く机を指で叩くと、数分と経たぬ間に楼芽が現れた。

[何でしょう、主]

[証拠は集まったな]

[ええ、硫から塩を仕入れている商人は押さえましたし、そいつから証言もしてもらえます。落とすまではいきませんが、周りを固める分には十分です]

証拠も集まり、手札も揃った。そろそろ動き始める頃合いだ。

[よし、すぐに酪へと発て。5日で済ませろ]

[御意に。……ところで主、姫さんは?]

楼芽にそう問われ、初めて気がつく。ずっとそこにいると思っていた机に香鈴の姿はなかった。

[……もしかして主、気付いていなかったんですか?]

[……はぁ]

思わず溜め息が漏れる。

全く気がつかなかった。

建物内は自由に歩いていいとは言ったが、その時は楼芽を連れて行ってくれとも言っておいた。なので、香鈴がいるとすれば、奥の部屋なのだろうが、少しでも何処にいるのか分からない状態は、まずい。急な来客時に、手の打ちようがない。

とにかく確認しなくてはと奥に向かったその瞬間、扉が叩かれた。

[兄上、失礼します]

[崩欧!]

それは、今一番ここにいて欲しくない人物だった。

思わず頭を抱えてしまう。

[……どうした、急に]

[いえ、私もあり得ないことだと思ったのですが……]

奥に香鈴が居て、今出てこないことを祈るしかない。早くはち合わせる前に返さなくては。

[何だ?……誰か、いるのか?]

扉の向こうに、人の気配がする。

珍しく、崩欧が慌てているようだった。どこか、怒っているようでもある。

[奔の兵が城に来て、兄上が硫の姫を匿っていると言うんです]

[兵?]

[失礼する!]

荒々しく扉が開かれ、入ってきたのは真っ赤な軍服を身に纏った、奔の兵士だった。

他国の兵ではあるが、奔国の兵は特別、どの国にも立ち入ることの出来る権利を持っている。しかし、勝手に住居に立ち入るのは非常識だ。入国時も連絡が入るはず。

側に寄ってきた崩欧が頭を下げ、挨拶する振りをしながら囁いた。

[すみません、兄上。私も会ったのが門の前で……そのまま門で待たせるよりこちらに案内する方がいいと判断しました]

入国報告も回らなかったという事は、ただの旅人として入国してきたのか、はたまた不正入国をしたのか――いずれにしても、正規の軍ではないことが窺え[いや、お前の判断は正しい。こちらに連れてきてくれて有り難う]

小さな声で答えると、軽く頷き、崩欧は濫の横に付いた。

[香鈴姫をこちらに差し出して頂こうか]

崩欧が入室したときには既に、楼芽は机上に広げられていた書類と共に姿を消していた。やはり有能だ。

しかし、奥に隠れることは出来なかったようで、僅かだが天井の板がずれていた。香鈴が出てきてしまう前に、何とか奥まで回れたらいいのだが。

[そのような事実はない]

[この国に侵入していることはもうこちらも知っていることだ]

[それで何故私の屋敷を訪ねた?この国の城を訪ねるのが普通だろう]

この建物に香鈴が入ったことは誰も知らないはずだ。家臣は皆信用のおけるものだし、それでも楼芽以外に、その存在を知るものはいない。証拠など無いのだ。しかし、はっきりここにいると言い切り、わざわざ訪ねてきたのは気になる。

[何故、一番に私の屋敷を訪れた?]

[それは、廉国第一王子、濫殿が――]

奔の兵の目が、濫の後ろへと向けられた。

[嘘……]

[っ!]

部屋の奥、そこにはいつの間にか消えていた香鈴が立っていた。


有り難う御座いました

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