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君恋う  作者: 氷室 愁
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18.濫の生活


確かに、濫は少し目を休めるといった休憩すらせずに机に向かっていた。せっかく運ばれてきた食事も、気付かずに冷ましてしまっている。

食事は取るというのも嘘じゃないか。

[濫、濫]

ただ声をかけるだけでは気づいてもらえないと、この数刻で学んだ。

肩を叩いて声をかけると、ようやく返事が返ってきた。

[ん?]

[食事、運ばれてきたぞ]

[あぁ、そうか。これが終わったら食べる]

[…]

黙って少しの間待ってみる。

食事から登る湯気が次第に薄れてゆく。

[濫、いつ終わるんだ?]

[後少し]

[…]

何となく、その、後少しは当分来ない気がした。

[濫、食べよう]

[後少し]

[なら、濫が終わるまで俺も食べずに待ってる]

香鈴がそう言うと、ようやく濫は顔を上げた。

[いや、先に食べておいてくれ]

[待つ]

そう言いきって椅子に座ると、困ったように濫は笑い、少し考える素振りを見せると食事が並べられている机に、香鈴と向かい合うように着いた。

[待たせるのは悪い]

[うん]

色とりどりの食べ物は、どれも見たことのないものばかりだった。

[これは全部ここでとれるのか?凄いな]

[いや、汁に使っている物はそうだが、他は他国との貿易で輸入している物もある]

[なら、これは洸のものだったりするのか!!]

おぉ、と目を輝かせて香鈴が感動すると――

[…くくっ]

[わ、笑うな!]

[いや、そんなに珍しいのかと思って]

廉と違い、硫ではまだ他国を受け入れることのできる体制が整っていない。その中で、廉との貿易など出来るはずもない。

[初めて見る!この桃色の…何だろ?花みたいだ。これは?]

[それは廉の花だ]

[本当に花!?花も食べれるのか]

薬草、香草と言った類の物は城の庭に咲いているので食べてみたことはあるが、とても美味しいと言えるものではなかった。

じっと濫を伺い見るも、冗談を言っているようでもない。それどころか目で勧めてきた。

恐る恐る口に運んでみる。

[…美味しい]

甘く、優しい香りが口に広がる。また別の物も口に入れると、次は少し酸味があり、さっぱりとした味がした。

[美味しい!]

[廉の花はもともと食用に作られているからな。その辺の花とは違っているさ]

[へぇ〜]

お茶を飲むと、仄かに花の香りが広がった。

[この花とかさ、他国に売り出したりしてるの?]

[一部は輸出してるが…]

[廉とさ、貿易関係になれたら…俺、絶対これを買うよ。あ、これは何?]

[あぁ、それは――]

香鈴の全ての質問に、濫は丁寧に答えてくれた。


食事を終えると、また直ぐに濫は仕事に戻ってしまった。

別につまらない、退屈だとは思わなかったが、こんなにも働き詰めで体が壊れないものかと心配になる。

[…ふぅ]

時節、濫は目頭を強く押さえていた。あんなにも長く机に向かっていれば、目も疲れるし心労もするだろう。少しでも疲れを和らげることが出来ればいいのだが――

[俺に…出来ること]

ふと自分が持ってきた荷物のことが思い出された。

あの小袋に入れたものなら――ぱっと顔を上げると、香鈴は部屋の奥へと消えた。


不規則な生活はいけませんね。早寝早起き朝ご飯。体を大事にして下さい。

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