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君恋う  作者: 氷室 愁
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17.滞在


念のため、香鈴は滞在している間、小間使いの格好をすることになった。

綺麗な白髪をうなじでまとめ、黒の着物を身に纏った香鈴は、どこからみても家来には見えなかった。上品すぎるのだ。

男物を着ているときとのあまりの差に、濫と楼芽は素直に驚いていた。

[何故女物……?男物でいいとあれほど言ったのに……]

[似合っている、綺麗だ]

濫に素直に誉められ怯んだものの、そこで退かずに香鈴は二人に詰め寄った。

[何故女物なんだ?身を隠すにも、男装していた方がいいだろ]

[この髪の長さでは男には無理がある]

[な、成れないのか?]

それは香鈴にとってとても都合の悪い話だった。どう見ても女にしか見えないという事では駄目なのだ。今は男でなければならない。

慌てる香鈴の髪が解かれた。

[似合ってるよ]

そういって、濫に白い髪を撫でられる。

駄目だと分かっているのに、顔は自然、赤くなった。

しかし、その時一瞬のうちに赤く染まった香鈴の顔に濫が気付くことはなかった。



本当に気がつかないのか、鈍い主と真っ赤な顔をしている香鈴を見て、ただ1人その事に気付いている楼芽だけは肩を震わせていた。

[ぐふっ]

咳ともくしゃみとも似つかぬ息を吐き出すと、二人に変な物を見る目で見られた。

[大丈夫か、楼芽]

[……お、お気になさらず]

片手を上げて答えると、納得したのかそれ以上問われることはなかった。

しかし、本当にこの二人は見ていて面白い。まだ数刻しか経っていないが、楼芽は随分香鈴のことを気に入っていた。勿論、からかいがいのある対象としてだ。

[姫さん、そんなに男の方がいいのなら髪を切ったらどうだ?]

視界の端で余計なことを言うなと、眉間に皺を寄せる濫の姿が映る。そんなことは気にもせずに、楼芽は小刀を香鈴に放った。

さすがに髪を切ることはしないだろう。今の香鈴の髪でも十分女としては短いのだ。

[あぁ、そうか。見えないなら、見えるようにすればいいんだ]

[え?]

しかし、香鈴はやる気になっていた。

視界の端で、濫が笑顔で怒っている。これは少し、ふざけすぎた。

[楼芽……分かっているな?]

[あぁ……姫さん、冗談]



小刀を既に髪に当てていた香鈴は楼芽の言葉に肩を落とした。

[切っても、見えないか……]

[……嘘だよ、見える。だから男物の服を用意させよう]

そう言うと、濫は片手を振り、楼芽に取りに行かせた。

[有り難う]

[いいさ。気にするな]

再び奥の部屋へと案内され、香鈴は1人着替えた。

先程女物を着たときも思ったが、やはり硫とは着物の形が異なっていた。襟は硫より上に長く、使っている布も厚めで冬の寒さが厳しい廉ならではの形だった。さらにその上から羽織るものまである。

[濫、これはどう着るんだ?]

取り敢えず、内の着物を着ると、羽織は手に持って部屋に戻った。

[これはここを……]

[あぁ]

最後に頭に布を巻いてもらい、髪を隠すと着替えは完了した。


[それで、俺はここで何をすればいい?]

[別に……何もしなくても]

[世話になるのにそれでは気が済まない]

このままでは本当に何もしなくていいということになりそうだ。それでは心苦しい。

[何でもするぞ!]

自分で言っていて、一国の姫の発言ではない気がしないでもなかったが、ただ世話になるというのは気が引けた。

大抵のことは何でも出来るつもりだ。普通の王族はやらないのだろうが、母もやっていたということもあり、掃除だって美魅のお墨付きが出るほど上手だ。料理も、凝ったものはさすがに無理だが、簡単なものなら作ることが出来る。

[別に何もしなくても――]

[なら、主の生活を管理して下さいよ]

濫が断ろうとした途端、楼芽がそれを遮った。

[生活の管理?]

[いつも仕事に夢中になって、食事はとったと言っても、睡眠はまったくとらないし、休憩さえしない]

[楼芽]

[てなわけでよろしく]

言いたいことだけ言うと、さっさと楼芽は消えてしまった。

[えっと……、いいのか?]

ちらりと横を見ると、あまりにも自由奔放な態度に呆れ、頭を抱える濫の姿があった。

[……はぁ、別に休憩を取りたくないわけではないんだが、気がついたら夜が明けている]

困ったように濫はそう言った。

気がつけば夜が明ける……いったいどんな生活を送っているのだ。

[なら、余計管理した方がいいんじゃ……]

[だから、よろしく頼むよ]

笑顔でそういう濫は迷惑や、困ったというより、どこか嬉しそうに見えた。


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