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君恋う  作者: 氷室 愁
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13.廉国第一王子

訪問有り難う御座います!

濫は実は廉のーー


窓の外ではまた、雪が降り始めていた。道も、家も、全てが白一色に染まってゆく。

濫が暖炉に薪をくべていると、扉が叩かれた。

[入れ]

[失礼します。やはり……またここですか、兄上]

[崩欧か]

入ってきた途端、盛大なため息をつかれた。それも仕方のない事だろう。弟の崩欧は濫がここにいることに反対なのだから。

[まだやることがあるんだ]

[向こうでやればいいじゃないですか。わざわざこんなところへ来なくても……]

首を横に振ると、残念そうに肩を落とされた。

[崩欧には迷惑をかけるな]

[迷惑だなんてとんでもない!私は好きで兄さんの下に着いているんです]

昔から自分よりも出来のいい弟は、誰が父の次に収まるかという場には出てこないで、ずっと裏に回っていた。何がいいのかは分からないが、濫の補佐に徹している。

[それは?]

そう言うと崩欧は、濫が薪と一緒にくべる紙を指した。

崩欧がきてから既に五束目をきるそれは、暖炉に白い灰の山を作り上げていた。

[あぁ……向こうから送られてくる、ものだよ]

それだけで直ぐに何なのか察すると、崩欧は眉間に皺を寄せてしまった。白い灰の山を作ったのは、濫に寄せられた見合い話だった。

[婚約……しないんですか?]

[またか、崩欧]

まるでどこぞの母親のようなその小言に、思わず苦笑する。すると、崩欧も、前に一度濫にそう言われたことを思い出したのか、何とも言えぬ複雑そうな顔をした。

もう何年も前から、何度も言われ続けている言葉だ。二つ下の弟は、出来がよすぎる所為で世の中のことを早く理解してしまった。八歳の時には既に濫に《婚約を》と言っていた。

[兄さんなら、奔の第一王女とだって婚約できるのに]

[まさか……]

奔とこれ以上深く繋がる気はなかった。あれほどうらが真っ黒な国はない。

[そうだ。遅くなったが、洸の第一王女との婚約おめでとう。式はいつだ?これでいつでも――]

[父上の跡を継ぐのは兄上です!!]

声を荒げてそう言う崩欧にそんな気がないことは、濫だって分かっている。こうやって、試しつつ、からかわれていることに気がつかない崩欧はたまに単純だと思ってしまう。

[俺も存外、いい性格をしている……]

[何ですか?]

[いや]

出来はいいはずなのに、面白い。

元々は本当に跡継ぎの座を譲ってしまっても、いいと思っていた。

[俺がならなくても、需璃はいいと言ってくれました。こんな私だからよかったのだと……]

[……]

本当にいい婚約者を得たのだと思うと同時に、少し羨ましくもあった。想い人と結ばれ、周囲に祝われ。自分とは正反対だ。

[式は兄上を差し置いて、私が先に挙げるなど出来ません]

それならば、随分先になることだろう。本当にまじめなヤツだ。下手をすると、一生式を挙げれないかもしれないぞ。

[まさか……まだあの姫の事を諦めきれないのですか?]

窓のくもりを手でそっと拭うと、濫は小さく笑った。

[勿論だよ。珍しいとか、地位とか関係ない。会って、話して……俺はあの人の全てに惹かれたんだ。あの姫に出会ってから、俺の人生は回り始めた]

彼女を手に入れるためなら、全てを捨ててもいいと思った。廉の第一王子という位さえも――

でも今は、彼女を守るために、その地位にしがみつこうとしている。

[……兄上、よくそんな恥ずかしいことを普通に話せますね]

[そうか?]

特に何とも思わず話したことだった。

心から思ったからそう言ったまで。何がおかしいのだろうか?

不意に、暖かい部屋の中に冷たい風が流れ込んできた。

[誰だ!!]

流石、軍を指揮しているだけある。崩欧の反応は早かった。すぐさま剣を抜き、臨戦態勢に入った。

[ここを第一王子の部屋と知ってのことか!!]

[崩欧、これは俺が許している]

片手を上げると、すぐに崩欧は剣をしまった。

この気配には心当たりがあった。というより、この入室の仕方に心当たりがあった。そしてその人物は、濫が《入る前には扉を叩き、普通に扉から入ってこい》とどれだけ言っても部屋の戸を叩かず天井裏からばかり入ってきた。

[楼芽、何か分かったのか?]

[ここでは……]

暗闇の中から返事が返ってきた。

本当に、警戒心の強い奴だ。

[悪いが崩欧、外してくれるか?]

[はい]

何も聞かずに、崩欧は退室した。崩欧のこういうところが、優秀だと思う。

崩欧が退室すると同時に、黒い影が静かに現れた。

[……それで?]

[思った通り、硫の第二妃がこの件に関わってるらしいですねぇ]

それが分からなかった。香もそう言っていたが、どうして第二妃が廉に何かを仕掛けてくる。何の得があるのだ。

[ですが……]

[何だ?]

にやりと楼芽が笑う。

どこに入れていたのか、分厚い紙の束が出された。

[黒幕はその女じゃぁ、ない]

[っ!!]

裏にまだ誰かが隠れている。更に話はきな臭くなってきた。

[その件についても、もう形は出てきてますよ]

ばさりと目の前に落とされた書類には、見覚えのある名前がずらりと並んでいた。どれも、ある一つの国の――

[そして、もう一つ。例のお人の件ですがねぇ]

次の瞬間、濫は勢いよく立ち上がっていた。


有り難う御座いました

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