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君恋う  作者: 氷室 愁
11/32

10.会談

訪問有り難う御座います


見てくれるかは分からなかった。まず、来るかも分からない。しかし、濫は来てくれた。

滝の裏にある洞穴は滝の所為で冷え切っていた。

[まだ二月だぞ]

[あ、来てくれたんだ]

切り株に置いておいた紙には《水裏で待つ》と書いた。もし誰かに見られても、濫以外には分からないようにしたのだ。

[来てくれたって……もし俺が来なかったらどうしたんだ?]

呆れ半分、苛立ち半分といった様子で、濫は腕組みをして立っていた。

少し悪いことをしたかとは思う。こんな所まで寒い中呼び出したのだ。濫が苛立つのも無理はないだろう。

[ごめん……。どうしても確認したいことがあって。寒いのに、悪かった。あ、毛布使うか?]

自分がくるまっていた毛布を差し出すと、更に呆れた顔をされた。

[……まぁ、何もなくてよかった。毛布はいいよ。香が使え]

[いや……でも]

呼び出して置いて、自分だけ暖まるのは悪い気がする。

[俺はこれで十分]

外套を指すと、そのまま座ってしまった。

確かに、その外套の下の濫の服は香鈴のものに比べて木地も厚く、暖かそうだった。毛布を被ってはいるものの、まだ香鈴の方が寒そうだ。

[耳が赤い……冷えたか?]

[っ!?]

不意に、すっと手が伸ばされ、一瞬、意識が飛びかけた。

[きょ、今日は大切な話があるんだ]

[ん?]

[……質問なんだけど]

何とか心を落ち着かせ、要件へと持って行く。それでもまだ心臓の音はうるさかったが。

[塩の価格さ、そっちの方どうなってる?]

第二妃の領土を通った塩は、廉国へと向かっていた。正規のルートではないはずだ。

[何で?]

[いや、あの……何となく?]

[ふ〜ん……]

耳の奥が脈打つ。今度は別の意味で心臓が暴れ出した。

まさか、逆に質問を返されるとは思わなかった。しかし、濫からしてみれば、急な塩の価格話に疑問を持つのも当たり前だろう。

[値上がりしている。徐々に]

[本当に!?]

[でも、香が心配する事じゃないさ。硫は関係無い]

[っ……]

きゅっと胸が痛んだ。

まるで香鈴には関係ないと、そう言われたように思えた。

[調べも進んでいるし、そろそろ黒幕も分かりそうだ]

濫は香鈴の沈んだ顔を別の意で捉えたのか、大きな手で頭を軽く叩いた。

[香が心配することはない]

[あっ]

[ん?どうした]

思わず顔を上げると、優しい笑顔を向ける濫と目があった。慌てて顔を逸らすも、心臓は鳴り止まない。

黒幕が分かる。それはつまり、第二妃――硫国が関係していると分かるわけで――

[塩の件、どこまで調べがついてる?]

[……]

流石に濫もこの質問には口をつぐんだ。それでも伝えねばならない。

[廉国の塩、硫を通って運ばれているかもしれない]

[っ!?]

そこまでは分かっていなかったのか、息を飲む気配がした。

[詳しいことは、話せない。でも、これだけは知っていてくれ]

ひたと目の前の黒い瞳を見据える。

[硫が直接これに関係していることはない。直ぐにでも門を封鎖し、裏で動く者を必ず捕らえる]

動いている者が誰であろうと、必ず捕まえる。勝手に動き、例え廉国だろうと、手を出したことを後悔させてやる。硫の未来のためにも、廉国のためにも。

[香]

[……]

[香、香、こっち向け]

[……何だよ]

顎を捕まれ、無理やり上向かされた。

視界一杯に広がる濫の真剣な瞳。

[たまには寄りかかったって大丈夫だ]

[……な、に言ってんの?]

[周りを頼れ]

不意に、強く抱き締められた。

とく、とく――濫の鼓動が伝わってくる。

強ばった体から、力が抜けた。

[塩の件は、俺が上に伝えといてやる]

[……ふはっ、あはは。もう十分頼ってるさ]


塩の調べは濫の方でも調べがついているようなので、香鈴は自国の内にだけ気を付けることになった。

[そういえば]

帰りの道で、ふと気になったことを尋ねる。

[何で濫が塩の値上がりを調べているんだ?]

[……あぁ、官吏だから]

[へぇ、そうか]

若いのにそんな大変な件を任されるなんて凄いと言いそうになったが、それを言うと濫よりも年下の自分はどうなんだとなるので口には出さなかった。

[それじゃ、今日は悪かったな]

[きにするな。あそこはいつでも自由に使ってくれてかまわないから]

[有り難う]

でも、きっともう使うことは無いだろう。寒い中、また森に入る気はないし、これでも一国の姫だ。そう城を抜け出していいものではない。

[濫と会うのも……これが最後になるかもなぁ]


有り難う御座いました

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