9.硫国 書斎
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巨大な机に、次々と書類が運ばれてくる。全てに目を通していては、終わらないので、いくつかのものだけに目を通す。
不正はないか、誤りはないか。正しい判断をし、更にはその中から情報を集め頭の片隅に留めておかなければならない。
[面倒臭い……]
[そんなこと言わないで下さい]
[うぅ……。あ、それは直接現地に行って、確かめろって言っといて]
[これを……ですか?]
それは何の変哲もない、ただの許可申請書だった。よくある書類の一つである。
[その村、今まで一度も報告上がってきてないのに、今年に限って木の伐採許可なんて、おかしい。それに、伐採量も馬鹿にならない数を上げてきているしな]
香鈴がこういった指示を出すのは今日だけで既に五回目だ。それも、全てが的確な指示で、分かりやすく、迅速に動けるようになっている。
その働きぶりには、若い官吏だけでなく古株のものまで驚き、感心していた。
よく城を抜け出しはするが、優秀ではあるのだ。
[香鈴様、これは……]
ふと美魅が視線を落とした先には、白い書類の中でその存在を強調する黄色の封印のされた封筒があった。
[廉国への書状だ]
[でも……]
何年も昔から、廉国との国交は絶たれている。しかし――
[何年も国同士の大きな諍いは起こってない。国民の中に、危害を加える者もいることにはいるが、調べてみると、どれもただ無差別に人を襲っている輩だけだった。盗賊や人攫いのようなな]
実際に濫の国を見て思った。国民は穏やかで、他国との交流も多く素晴らしい国だと。ここよりも進んでいるのは事実だ。
[そういった者を討伐するのも、共に行った方が効率がいい]
[……分かりました]
少しずつ、国同士の繋がりを濃くしていきたい。例え、治める者同士の仲が悪くても、国民までもがそうならなければいけないことはない。自分と濫が友人になれたように、皆の仲が狭まればと思う。
[美魅、次]
[これで最後です]
現在の国務は香鈴が目を通す前に、美魅がなるだけ分けていてくれるので、何とか回っている状況だ。美魅とはあまり年が違わないはずだが、もともと優秀な美魅は、今の香鈴と同じ年の頃には既に一人で書類を回せるようにはなっていた。
[……ここは塩の運送路か?]
[はい、先月あたりからでしょうか]
硫の端にある関所を、頻繁に塩が通っていることがそこには書いてあった。しかし、それが硫の市場に入り売り出されているという報告はない。
[……何だ、この奇怪な動きは]
少量ではなく、多量に動く塩。更にそれの通るのが第二妃の領土というのがまた怪しかった。
[美魅、調べる手配をよろしく]
[分かりました]
今掘り起こしたそれ関係の書類だけを他にすると、ようやく香鈴は一息付いた。
[うぁぁぁぁぁ、どんだけあるんだよ!!]
大きく伸びをすると、美魅の置いてくれていた茶碗に口を付けた。
[お茶冷めてるし……]
せっかく入れてもらっていたものは、すっかり冷めてしまっていた。まぁいいや、と気にせず飲むが、やはり美味しくない。
[塩……かぁ]
嫌な予感がする。
塩が取れるのは海のある酪だけだ。どの国もどこかの国などを介してそこの塩を買っている。
塩が足りなくなると人は生きていけれない。だからどの国も必ず買うのだが、酪はそれを逆手にとって高値で売りつけたりはしない。
[もしその塩がどこかで不正に取り引きされていたら…]
第二妃ならする。そう思ってしまった。
[うちの国はどの年も大して値上がりしていないし、ここ最近の変化もない]
過去の記録を見るも、特に何も見つからなかった。
だとしたら、いったい何のために?
[塩のルート……]
ふと気になり、香鈴は先程まとめた書類を見返した。
使者を送り出すと、すぐに美魅は帰ってきた。少しでも目を離すと、突拍子もないことをしでかすのだ。あの主は。
[香鈴様、香鈴様。……失礼します]
何度叩いても部屋の主からの返事がない。
不審に思い、そっと扉を開くと、《少し出てくる》の書き置きがされていた。
また今日も、あの主はやってくれたのだ。
有り難う御座いました




