~プロローグ~
訪問有り難う御座います
淡い光が漏れ、花がいっぱいに溢れる庭にもう一つ窓を作る。
光が溢れる室内からは楽しげな笑い声、楽の音が聞こえてきた。裏で何を思い、何を策略しているのか分からない笑い。気を抜けば、こちらが喰われてしまう、そんな場だった。
[苦しい]
息苦しさに久方振りに着た正装の襟元を緩めたときだった。
[苦しいのですか?]
[え?]
まさか人がいるとは思っていなかった。
[大丈夫ですか?熱は?飲み物でも取ってきましょうか]
そう言って暗闇の中から駆け寄ってきたのは、純白のドレスに身を包んだこの城の王女だった。今夜はこの姫のための夜会だというのに、抜け出してきたのだろうか。
[いえ、別に体調を崩したわけではありませんよ。大丈夫です]
[本当ですか、よかった]
心から心配し、心からよかったと言ってくれた姫は、こんな夜には眩しすぎる存在だった。
[多分、あの空気に当てられたんですよ]
そう言って光の中に視線をやる。そこはやはり、自分にはまだ慣れることの出来ない世界で、また胸が苦しくなるのだった。
[あの…でしたらこれを持っておいて下さい]
渡されたのは小さな袋だった。ふわりと柔らかな香りが心を包む。絡まっていた糸が、解けていくようだった。
[これは…?]
[私の作った香です。これで少しでも貴方が楽になればいいのですけれど…]
きっとそれはこの瞬間から始まっていたのだろう。
薄紅色の香袋。
丁度、目の前にいる姫の頬の色。
[あなたはいい香りがする]
[え?]
誰よりも辛いであろうその中で、誰よりも強く、優しくいる少女。
[俺は好きだよ]
雲の隙間から少しだけ顔を覗かした月が、少女の優しい笑みと、柔らかな長い雪のような髪を照らしていた。
有り難う御座いました!
毎日の更新を頑張りますので、どうぞおつきあい下さい。