発表できない研究発表会
はじめまして。
数ある作品の中から、本作を手に取っていただきありがとうございます。
この作品は、私が実際に見た夢をもとに執筆した「夢日記」シリーズです。
夢の内容そのものは可能な限り忠実に残しつつ、小説として読みやすくなるよう、情景描写や会話、構成を加えて再構成しています。
夢という性質上、場面や文脈が突然切り替わったり、説明のつかない違和感が現れたりします。それらはできるだけ「夢らしさ」として残していますので、現実とは少し異なる感覚も含めて楽しんでいただければ幸いです。
読んでくださった皆さまが、少しでも夢の不思議さや、目覚めたあとに残る妙な感覚を共有していただけたなら、とても嬉しく思います。
感想やご意見も、お気軽にお寄せいただけると励みになります。
どうぞよろしくお願いいたします。
晴天の空の中、講堂の空気は妙に静かだった。
大学の研究発表会の会場に私はいた。
静寂を切り裂いたのは、最初の発表者だった。壇上で、スクリーンに投影した難しそうな図表を堂々と説明していた。
知り合いの少ない外部の発表会だったため、普段の私は人見知りを発揮してしまうところだった。
しかも私は六番目あたりの発表者だったはずなのに、不思議と焦りも緊張も、不安もなかった。
――自分の番が近づくまでは。
次の発表者は控えで投影の準備をすることになっている。
私も準備のためにノートPCを開いた。
所定のフォルダをクリックした瞬間、血の気が引く。
投影するはずのファイルが、ない。
鼓動が早まる。
急いでバックアップフォルダを探すが、それでもない。
加えて今になって人見知りが発動する。
全員が
検索しても出てこない。何をしても見つからない。
なかったと思われた感情が全て逆流した。
耐えきれない感情は声帯をこれでもかと言うほど締め付ける。
「……ありません」
振り絞ってもなお掠れる声で指導教員に伝えた。
教員はため息一つつかず、「順番を後ろに回そう」とだけ言った。その一言に救われたような気がしたが、胸の奥のざわつきは消えない。
当初自分の番だった所でどういうアナウンスがあったのだろうか。
「発表者の都合により、No.6(仮)◯◯さんの発表は順番を入れ替えております。次はNo.7(仮)××さんお願いします」
こんなアナウンスを聞いてしまったら、私のメンタルはさらにえぐれていただろう。
今となっては聞こえなくて良かった。
そうこうしているうちに前半の発表が終わったようだが、内容は何一つ覚えていない。
後半の部が始まる前に休憩時間があった。
休憩時間になると、会場はいつの間にか隣の展示スペースへと続いていた。
そこでは発表者たちが、それぞれおすすめの食品を並べ、来場者に紹介したり販売したりしている。
他の研究会だったのだろうか。気が動転していてよく覚えていない。
私は内心焦りながら、それでも自分の失態を隠すように悠長に観覧する素振りを見せた。
自分を落ち着かせるためでもあったかもしれないが、ブースを一つひとつ眺めながら歩いていた。
そこにはよく知る同期のSさんがいて、安堵した。
彼はそこで来場者対応をしていたのだった。
旅行先で買ってきたらしい漬物のようなものを手にしていたが、それを発表していたのか、ただ持っていただけなのかは、最後までよく分からない。それでも周りの人たちは興味深そうに眺め、私もなんとなくその食品を手に取っていた。
それぞれ何かしらの食品を持ったまま講堂へ戻る。
「資料、大丈夫?」
クラスメートにそう聞かれ、
「いや、まだ見つからなくて……」
と苦笑いを返す。励まされた気もするが、時間だけが容赦なく進んでいく。
午後の部が始まる。まだファイルは見つかっていない。
あと二人。
あと一人。
鼓動だけが大きくなる。
そのとき、奇跡のようにファイルを見つけた。急いで指導教員へ「見つかりました」と伝える。これで間に合う。そう思った。
名前を呼ばれ、壇上へ。
PCをつなぎ、深呼吸した。
映らない。
二度目の失敗は許されないと思った。
とはいえ機器のトラブルであるから、ファイルの時とは違い冷静にケーブルを差し直した。
やはり映らない。
ケーブルを差し直しても、画面は黒いまま。会場の静けさが痛いほど耳に響く。辺りは私の発表を待っている。先生も見ている。何か話さなければならないのに、言葉も出てこない。
既に頭は真っ白になっていた。呆然と立ちくし、何を発表する予定だったのか、もう曖昧となっていた。
食品に関する研究だった気がする。
けれど、一番肝心の、その食品だけが思い出せない。
私はスクリーンに映らない画面を見つめたまま、居心地の悪さだけを抱えて、夢から覚めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私はよく研究発表をしていたので、機器のトラブルなどはよくありましたが、ファイルがないということはありませんでした。それでも想定しうる最低の状態を想像してしまう私の性質があり、このような夢を見たのかもしれません。
Sさんは今の会社の仲間でした。落ち着いた雰囲気があってこのようなトラブル時には頼りになる存在だったため、自然と夢の中で構築されてたのでは無いかと思っています。




