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ペニスチャレンジ

作者: ゆうすけ
掲載日:2026/02/24


風呂上がりに鏡に映った自分の姿を見る。

貧相な体だ。これと言って印象に残らない、凡庸な顔。

何より我慢がならないのは、これといった目標や目的もなく、ただただ怠惰に日常を送っていることだ。そんな生活にはウンザリしている。

変わらなければ。


親から「本当に困った時に使え」と言って渡されたクレジットカードでスーツとアタッシュケースを買った。


鏡に映った自分を見る。バッチリと黒のスーツを着込んで、右手にアタッシュケースを持っている。

見た目だけなら立派な社会人だ。


見た目だけでは意味がない。

しかし、見た目が変われば中身がついてくるということもある。


東京駅から山手線に乗る。

目的もなく、ぼーっと座って電車に揺られる。

平日で混雑する時間でもないので、空いている。


しばらくすると、いたずら心が起こり、こっそりとズボンのチャックを下ろして、ペニスを露出してみた。


気づいてる人間は誰もいない。しばらくそのまま、電車で揺られる。

電車が止まり、乗客が乗り込んでくる。慌ててアタッシュケースでペニスを隠す。


結局そのまま、ぐるりと山手線を一周してしまった。


ペニスを露出しカバンで隠し山手線を1周する。

それが俺の日課になった。


自分はそれをペニスチャレンジと名付けた。


ペニスチャレンジに14日間連続成功した。

30日連続で成功したら願いが叶う、そんな設定を考えた。


もっとも叶えたい願いもないが。

理想の一つもない自分を悲しく思った。


混雑している車内の中では、大勢の中に紛れられる。ガラガラの方が、ある意味緊張感がある。


その日もペニスチャレンジを成功させ、俺は帰りにバーに寄った。


「あんたはかなり大胆な人間だな」

突然、バーで隣の男に話しかけられた。

「あなたの顔はよく知っている。山手線で毎日見かける」男は武骨で、いかにも気の強そうな顔をしている。


『大胆な人間』とはどういう意味だろう?俺は少し焦った。


「俺は、あんたみたいな人間が好きだ。周りの目は気にせず、我が道を行く」彼はそう言って酒を飲んだ。


こいつはペニスチャレンジのことを知っているのでは?


「周りの人間は目的地が決まっていて、そこに向かって進む。でも、あんたは違う」バーの天井のライトが瞬いた。


「今の時代、誰も無駄なことをしようとしない。成功ばかりを求めて、失敗を極度に恐れるんだ。俺はそれを問題だと思う」男は語気を強めていった。


やはり彼はペニスチャレンジのことを知っているのでは?俺は怖くなった。


「今日は俺が奢るよ」そう言って、彼は俺の分の伝票も持って出て行った。


それからペニスチャレンジを終えてバーに行くと、よく彼に会った。


何度か短く会話をして、やがて頻繁にしゃべるようになった。


ある日、たわいもない話を繰り返したあと、突然彼は言った。


「俺は日本を不良外国人から守るため、自警団を結成しようと思っている」彼はグラスを揺らしながら語った。


唐突に話が変わって戸惑った。

「たぶん、俺のことをレイシスト呼ばわりする人間がたくさん出てくるだろうな」彼は酒を一気に飲み干した


「レイシストと呼ばれるのは褒め言葉だと思ってる」グラスの中の氷が音を立てた。

「悪質なルール違反をする奴がいたら、制裁を加える」彼は断言した。

 

そのような行動にどのような法的根拠があるのか疑問だが、電車でペニスを露出することにどんな法的根拠があるのかと言われると、答えに困る。


「結局大切なのは行動だよ。理屈ばっかりこねていたり、ぐちぐち文句ばっかり言っている奴は嫌いだね。考えるよりも、まずは俺は動く」


俺も考えるよりも前に動いたと言えるかもしれない。それが良い結果だったのかどうかは分からないが。


すでに彼と志を同じくする同志がたくさん集まっているという。


「とにかくまずは行動に移すこと。それが俺の信条だよ。置かれている立場は違っても、この考え方は、多くのビジネスパーソンにとって参考になるはずだ。」

彼は懐から名刺を取り出し、俺に渡した。

「興味があったら連絡をくれ。一緒に行動しよう。」


彼はなぜか自分のことを高く評価しているようだ。

その日はそれで別れた。


家に帰りベッドに横になって思う。


ビジネス『マン』でいいだろ。

なぜ性差を含まない包括的な表現を?

レイシスト呼ばわりされることを受け入れているのに…。


でも、そういうものでもないのかもしれない。


人種差別には反対だが性差別には賛成。

性差別には反対だが人種差別には賛成。


そういう人もいるのだ。


みんながみんな自分のように「あらゆる差別に反対」してるわけじゃないのだ。


俺は彼からもらった名刺を眺めた。


そのうち本当に外国人をリンチしたりするかもしれない。今のうちに警察に報告すべきか?


しかし彼はペニスチャレンジのことを知っているかもしれない。


あんなことはするべきではなかった。


今は後悔している。


レイシズムを非難するために電車の中ではペニスを露出するべきじゃない。


俺はペニスチャレンジに30回連続で成功していたことにいま気がついた。


何を願おうか?


しかし何の願いも思い浮かばなかった。

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