4.僕の世界
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僕の病室への回診はすぐに終わる。もう数ヶ月以上何も変わらないまま、ある意味安定しているのだろう。
朝、鳥の声で起きる。そしてカーテンを開けに来る看護師の足音はいつも忙しなかった。
僕はなんの意識も持たないまま、眠るように命があるだけの存在になっていた。
ただ音だけを感じるだけの世界に取り残されているのを知っているのは、僕しかいなかっただろう。
そんな僕の楽しみはただ一つ、御上くんが会いに来てくれることだった。
彼だってもういい歳になってしまっていると言うのに、毎日のように僕の元に足繁く通ってくれる。
彼の声だけが僕の世界だった。いや、今までだって、僕の世界は君だけだった。
御上くんは来る度に、僕たち家族の猫のこと、一緒に育てた観葉植物のこと、昼ごはんのこと、そんなたわいも無い話を変わらずにしてくれた。
大抵、一番のメインは彼が見た映画の話だった。彼の話す映画のシーンはまるで映像が見えるみたいに鮮明で僕の楽しみだった。
そして、最近増えてきたのは僕たちの想い出話。
初めて出逢った映画館の帰り道、実は彼も僕を意識したと言って、数十年ぶりの告白に、驚きと嬉しさが込み上げて来たものだった。
君が語る僕との時間は、色鮮やかで、どこか温かく、心を包み込むようだった。
僕たちの軌跡を辿る、そんな話も最近は佳境に入っていた。
明日最終話です
よろしくお願いします




