1.出逢い
「最期に映画みたいなキスを君と」
チチチチチ、ピチュピチュ…
鳥の声がして、ぼんやりと頭が起きた気がする。
するとパタパタと小さな忙しそうな足音がした。ざっざっとカーテンを開ける音と共に、眩しさが目の裏にまで届く。春の日差しのような優しい暖かさを感じた。
そういえば、彼と一緒に初めて映画を見た日を思い出した。一緒にというのだろうか?
ミニシアター、平日昼間の回。その映画の流行りの時期は終わりの頃で、人はまばらだった。
その映画の題名は忘れてしまったけれど、主人公の人生を淡々と描きながら、でも何故か後半の何気無い小さな幸せの描写に涙が止まらなかったことを覚えている。
エンドロール──赤い薔薇が印象的だった。
真っ暗で小さな映画館の中、スクリーンの光の影がチラチラと客席を映し出す。
心が現実に戻り始める。暗がりの中グス、グスと鼻を鳴らす音が所々から聞こえた。僕は涙を拭いながらそっと周りを伺った。
右側の少し離れた席で女性がハンカチで目を抑えているのが分かった。
左の2つ空けた席の男性は僕と同じように頬を伝った涙を手のひらで何度も拭っていた。
僕の視線に気づいたのか、ぱっと目が合った。
そこそこ大人な年齢の泣き顔がお互い気恥ずくて、二人とも声に出さず小さな笑顔でコクリと会釈した。
そのまま答え合わせのように映画のワンシーンを語り始めた。
映画館を出ると眩しさに目を細めた。楽しげに話す彼の顔が輝くみたいだった。
思えば、この時実は、彼に恋をした瞬間だったのかもしれないと思う。




