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桜舞い散る黄昏の出会い

作者: ネロ8330
掲載日:2025/10/07

美少年と少年呼びする人外美少女の話です。神社の中で出会うっていいよね

 西暦2019年4月某日。

 夕暮れ時の神社は、桜吹雪に包まれていた。

 十之葉 樹――当時12歳の少年は、古びた石段に腰を下ろして、ぼんやりと散りゆく花びらを眺めていた。

 黒髪を後ろで縛った、中性的な顔立ちの美少年だ。整った顔立ちだが、その瞳には年齢に似合わぬ冷たさが宿っている。

「……綺麗だな」

 樹は呟いた。

 桜の花びらが、風に舞い、夕日に照らされて金色に輝く。この世界は、こんなにも美しいのに。

 なぜ、自分の心は、こんなにも冷たいのだろう。

 少年の心には、深い傷があった。詳細を語ることはないが、その傷は深く、心の奥底に暗い影を落としている。

「そうね。とても綺麗」

 突然、背後から声がかけられた。

 樹は驚いて振り返った。

 そこには、和傘をさした一人の少女が立っていた。

 深紅と黒の市松模様が描かれた和傘。血のような深紅を基調とした和服。桜色に近いピンク髪には黒いメッシュが入り、瞳は深く冷たい紫色をしている。

 年齢は17、8歳ほどに見えるが、その瞳に宿る光は、まるで何千年も生きてきたかのような深さを持っていた。

「……誰だ?」

 樹は警戒した。

 少女は、ふわりと微笑んだ。

「アタシ? アタシは桜。ただの通りすがりよ」

「桜……」

「そう。この季節にぴったりでしょう?」

 桜と名乗った少女は、和傘をくるりと回しながら、樹の隣に腰を下ろした。

 近くで見ると、その和服は精巧な作りをしていた。漆黒の袴に、赤と黒の市松模様が裾に描かれた着物風の上着。帯には金糸の装飾が施されている。まるで時代劇から抜け出してきたような、非現実的な美しさだ。

「……勝手に座らないでくれ」

「あら、ごめんなさい。でも、一人で座っているより、二人の方が寂しくないでしょう?」

 桜は、樹の横顔をじっと見つめた。

「少年、貴方……随分と、暗い顔をしているわね」

「……別に」

 樹は視線を逸らした。

 桜は、ゆっくりと和傘を閉じた。

「貴方は、何かに囚われている。……違う?」

「……」

 樹は答えなかった。だが、その沈黙が、全てを物語っていた。

 桜は、静かに微笑む。

「アタシはね、貴方のような子を見ると……放っておけなくなるの」

「……何で?」

「何故かしらね。アタシ自身にも、よく分からない。でも、貴方を見ていると……何故か、胸が温かくなる。そして同時に、とても悲しくなる」

 桜は、夕日に照らされた桜の花びらを見つめた。

「不思議でしょう? 初めて会った相手なのに、どこか懐かしい気がする。まるで、ずっと昔から知っているような……」

 樹は、桜の言葉に、不思議な共感を覚えた。確かに、この少女からは、奇妙な懐かしさを感じる。初めて会ったはずなのに。

「……あんた、変わった人だな」

「そうかしら? アタシは、ただの通りすがりよ」

 桜は、いたずらっぽく微笑んだ。

 桜は、和傘の先で、地面に円を描いた。

「ねえ、少年。貴方は、『因果』という言葉を知ってる?」

「……因果?」

「そう。全ての出来事は、原因と結果で繋がっている。貴方が今ここにいるのも、アタシが貴方と出会ったのも、全て因果の糸で結ばれている」

 桜は、円の中に、複雑な模様を描き始めた。まるで魔法陣のような、不思議な図形だ。

「でもね、時々……その糸が、絡まることがある。そして、本来出会うはずのない者同士が、出会ってしまう」

「……それが、俺達?」

「さあ、どうかしらね」

 桜は、描いた図形を眺めながら呟いた。

「でも、アタシは信じているの。この出会いには、意味がある。そして、いつか……全ての因果が、正しく結ばれる日が来るかもしれない」

「……よく分からないな」

 樹は正直に答えた。

 桜は、くすりと笑った。

「そうね。今の貴方には、分からないでしょう。でも、いつか……分かる日が来るかもしれない」

 桜は立ち上がり、再び和傘を開いた。

「貴方はこれから、色々な出会いを経験するでしょう。辛いことも、悲しいことも、そして……運命的な出会いも」

「運命的な出会い?」

「そう。貴方を必要とする人たち。貴方のために全てを捧げてくれる人たち。そして、貴方が全てを捧げたいと思える人たち」

 桜は、和傘をくるりと回した。

 その瞬間、周囲に桜の花びらが舞い上がった。まるで、魔法のように。

 樹は息を呑んだ。

「……は?今の、どうやって……」

「秘密よ」

 桜は、いたずらっぽく笑った。

「少年、一つ教えてあげる」

 桜は、樹に背を向けたまま言った。

「夢と現の狭間には、特別な時が流れている。そこでは、時間の感じ方が違うの」

「夢と現の狭間……?」

 樹は、その言葉を口にした。不思議と、その言葉は、心に染み込んでいった。

「そう。現実と幻想の境界……そこに身を置けば、ゆっくりと時を過ごすことができる。アタシは、そういう場所を知っている者」

 桜は、ゆっくりと振り返った。その瞳には、深い深い悲しみと、それでも消えない希望の光が宿っていた。

「……何の話?」

「アタシの話よ。そして、いつか貴方にも関係してくる……かもしれない話」

 桜は、静かに笑った。

「長い間、誰かを待ち続けるということ……それがどれだけ心細いことか、アタシはよく知ってる。記憶だけが残り、本当の温もりは遠ざかっていく」

 桜の声には、底知れぬ孤独が滲んでいた。

「でも、アタシには大切な人がいる。無邪気で、明るくて、世界中の美味しいものを食べ歩くのが大好きな、可愛いあの子が。だから、寂しくても……大丈夫」

 樹は、桜の横顔を見つめた。強がっているように見えて、その実、深い孤独を抱えている。それは、樹自身と同じだった。

「……あんたも、一人なんだな」

 桜は、一瞬だけ驚いたような顔をした。そして、ゆっくりと微笑んだ。

「……優しいのね、貴方は」

「俺は、そんなんじゃ……」

「いいえ、優しいわ。だって、アタシの孤独に気づいてくれたのだから」

 桜は、樹の頭に手を置いた。その手は、驚くほど冷たかった。だが、その冷たさの奥に、確かな温もりがあった。

「ありがとう、少年。貴方の優しさが、少しだけアタシの心を温めてくれた」

 桜は、和傘を肩に担いだ。

「さっき話した『大切な人』のこと、少し話してもいいかしら?」

「……ああ」

 樹は頷いた。

 桜は、夕日を見つめながら語り始めた。

「あの子とアタシは、似ているようで、全く違う性格の持ち主」

 桜の瞳が、ほんの少しだけ柔らかくなった。

「天真爛漫で、好奇心旺盛で、美味しいものが大好き。『今』を生きることを心から楽しんでいる。あの子と一緒にいると、アタシも少しだけ……今を生きることができる」

「……あんたとは、対照的なんだな」

「そうね。アタシは過去に囚われ、あの子は今を生きる。だからこそ、アタシたちは支え合える」

 桜は、和傘をゆっくりと回した。

「あの子は、昔のことをほとんど覚えていない。だから、アタシがあの子の記憶を全て引き受けている」

「記憶を……引き受ける?」

「そう。あの子が耐えきれない悲しみや孤独、絶望……それら全てを、アタシが背負っている。だから、あの子は笑っていられる」

 桜の声には、深い愛情が込められていた。

「アタシは影。あの子という光が輝き続けるために、アタシは全ての闇を引き受ける。それが、アタシの役割」

樹は、疑問に思う。誰かのために、全てを犠牲にする。自身にはなんとなく理解できなかった。だが、ほんの少し温かい物を感じた。

「……あんたは、優しいんだな」

「優しい? アタシが?」

 桜は、驚いたように樹を見た。

「そうだよ。大切な人のために、全てを背負うなんて……俺には、できない」

「それは違うわ」

 桜は、静かに首を横に振った。

「貴方だって、いつか誰かのために全てを捧げる日が来る。アタシには、分かる」

「……何でだ?」

「貴方の瞳を見れば分かるわ。貴方は、優しすぎるくらい優しい。だから、傷ついた。そして、これからも傷つくでしょう」

 桜は、樹の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「でも、それでいい。その優しさが、いつか貴方を救ってくれる。そして、貴方の周りに、大切な人たちが集まってくる」

 桜は、再び和傘を開いた。

「さて、そろそろお別れの時間ね」

「……もう行くのか?」

「ええ。アタシには、まだやるべきことがある。大切な人を守り、見守り続けること」

 桜は、樹の頭に手を置いた。

「少年。貴方は、これから色々なことを経験するでしょう。辛いことも、悲しいことも、そして……幸せなことも」

「……うん」

「貴方は、強い子。だから、きっと大丈夫。でも、もし辛くなったら……この桜を思い出して」

 桜は、和傘から桜の花びらを一枚取り出すと、樹の手に乗せた。

「そうすれば、アタシが貴方を見守っていることを、思い出せるから」

 桜の花びらは、不思議なことに、夕日を受けてもなお鮮やかな色を保っていた。まるで、時が止まっているかのように。

「…これは?」

「特別な花びらよ。アタシの力で作った、永遠に枯れない桜」

 桜は、樹の頭を優しく撫でた。

「いつか、また会えるかもしれないわね。それがいつになるかは……誰にも分からないけれど」

「……また会えるのか?」

「さあ、どうかしら」

 桜は、和傘をくるりと回した。再び、桜の花びらが舞い上がる。

「でも、もし再び会えたとしたら……その時は、きっと貴方は今よりずっと大きくなっているでしょうね」

「……」

「それまで、元気でいてね。そして、貴方らしく生きて」

「……あんたもな」

「ありがとう」

 桜は、最後に微笑むと、桜吹雪の中に消えていった。まるで、最初からそこにいなかったかのように。

 樹は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。手の中には、桜がくれた桜の花びらだけが残っている。

 不思議と、心が温かくなった。自分と同じように、いや、自分以上に孤独を抱えている人がいる。自分以上に、重い何かを背負っている人がいる。

 それを知っただけで、少しだけ――ほんの少しだけ、心が軽くなった気がした。

「また会えるかな」

 樹は、手の中の桜の花びらを見つめた。夕日を受けて、花びらは淡く光っている。

「…会えるといいな」

 樹は呟いた。

 風が、優しく樹の頬を撫でた。まるで、答えるように。

 樹は、桜の花びらを大切にポケットにしまった。そして、石段を降り始めた。

 背後では、桜吹雪が舞い続けている。夕日が沈み、夜の帳が降りようとしていた。

 不思議な出会いだった。

 あれは、人間だったのだろうか。それとも――妖怪か、何かだったのだろうか。

 樹には分からない。

 だが、一つだけ確かなことがある。

 あの桜と名乗った少女は、樹にとって忘れられない存在になった。そして、いつか――また会えるかもしれない。

 その日が来るまで、この桜の花びらを大切にしよう。

 そう、心に決めた。

 ________________________________________________________________________________

 神社から少し離れた場所。人気のない森の奥深く。

 桜と名乗った少女――その正体は、人ならぬ者だった。

「……会えたわね」

 少女は、静かに呟いた。

「あの子は、まだ何も知らない。自分がこれから歩む道を。自分を待っている者たちがいることを。そして、自分がこれから背負う運命を」

 少女は、胸に手を当てた。

「でも、間違いない。あの子は、あの子の魂は、アタシたちが……」

 少女は、それ以上言葉を続けなかった。ただ、静かに微笑んだ。

「昨年の春、傷ついたあの子を見た時、もう一人のアタシは涙が止まらなかった。理由は分からなかったけれど、今なら少し分かる気がする」

 少女は、和傘をゆっくりと開いた。和傘の内側には、桜の花びらが散る幻影が浮かび上がる。

「アタシは、これからも見守り続ける。あの子が成長し、力を得て、そして……運命の時を迎えるまで」

 少女は、静かに微笑んだ。

「また会えるかどうかは、分からない。でも、もし会えたなら……その時は、全ての因果が結ばれるわね」

 少女は、ひらりと和傘を回した。周囲に、闇と桜の花びらが舞い上がる。

「待っているわ。そして、もう一人のアタシ。アタシは、永遠に貴女を守り続ける」

 少女の姿が、闇に溶けるように消えていった。ただ、桜の花びらだけが、風に舞い続けていた。

 ________________________________________________________________________________

 それから数年後。樹は高校生になっていた。

 あの日、桜からもらった桜の花びらは、今も色褪せることなく、樹の部屋に大切に飾られている。

「そういや、不思議な桜を貰ったんだっけ。……あの不思議な人と次はいつ会えるんだか」

 樹は、窓の外を見つめた。

 あの不思議な少女と、再び会える日は来るのだろうか。

 それは、誰にも分からない。

 だが、樹は信じることにした。

 いつか、また会える日が来ると。

 そして、遠く離れた場所で――桜と名乗った少女が、静かに微笑んでいた。

「いつか、また会えるかしら……」

 少女は呟いた。

「その時が来るまで、アタシは待ち続ける」

 大きな桜の花びらが、風に舞う。それは、遠い約束を胸に秘めた、優しい合図だった。

 長い時間が流れても。ようやく、運命が動き出す時が来るかもしれない。

 その日まで。彼らは、それぞれの時を生きていく。



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