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SF作家のアキバ事件簿222 ヲタ芸バトル

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第222話「ヲタ芸バトル」。さて、今回は人気No.1リアリティショーの本番中に出演者の地下アイドルが殺されます。


捜査線上に浮かぶ、リアリティショーに出演スル推しとヲタクのリアルな恋愛模様。ソレに莫大な遺産が絡む時、アキバ版"王女と乞食"の行くえは…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 ヲタ芸バトル


「ワラッタ・ワールドワイド・メディア presents 聖地最凶の恋愛リアリティショー"ヲタ芸バトル"にようこそ!司会はブラド・メビル!」


花火のナイアガラの滝をバックにセットの階段を駆け降りて来る白スーツのブラド。it's SHOWTIME!


「みなさん、ありがとう。地下アイドルとアイドルヲタクの恋愛リアリティショー"ヲタ芸バトル"のスタートだ。今回の擬似カップルは、審査員が決めました。マクス、"ヲタ芸バトル"の今回の見どころは?」

「サデノが前回のメリゴへの告白で見せた醜態を何処までカバー出来るかだ。アレはヒドかったからねぇ」

「全くょ!アレはウチの猫が見る最凶の悪夢だったわ。ケバブの残飯を食べて下痢した後のね」


口々に辛口の批評を並べる審査員w


「対決するのは我らがセミファイナリストの2人。サデノとヲデトです。さぁ2人の擬似恋愛の行方はいかに?」


画面では2人の振り返りポーズがカットイン。


「対決はまもなくです。今回のステージで2人の内どちらかが番組から脱落します。運命の結果発表は週明けの月曜日。脱落を免れればレギュラー入りです。ではみなさん、サデノとヲデト!どーぞ!」


大袈裟に手を広げて紹介する。ロマンスを打ちながら上手のヒナ段を降りて来るサデノ。下手にque…


ん?誰も出て来ないw


下手ヒナ段から現れるハズの地下アイドル、ヲデトの姿がナイ。彼女の歌が虚しく流れる。放送事故?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


舞台裏は大騒ぎだ。ADがヲデトの楽屋のドアをガンガン叩く。応答ナシ。構わズに中へ飛び込む…


「ヲデト、本番よっ!」


楽屋に飛び込むとダンス用のレオタードでイスに座ったママ…死んでいるヲデト。息を飲むAD。悲鳴。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(スピーク・イージー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良くて常連が沈殿して困ってる。


ま、今宵は僕がSF執筆で沈殿中だが…


「テリィ様!さっき、私、美容室で誰に会ったと思いますか?」

「うーんミユリさん。今、キモいトコロを描いてルンで邪魔しないでょ」

「ウーナ・マコニです」


僕は顔を上げる。あ、ミユリさんは僕の推しで御屋敷のメイド長だ。因みに彼女は非常時にスーパーヒロイン"ムーンライトセレナーダー"に変身スル。


「ミュージカル評論家のウーナ・マコニ?」

「YES、テリィ様。彼女を御屋敷に招いて、私のミュージカル学校の記事を描いてもらえないか頼んでみるつもりです。ねぇ?スゴい宣伝になると思いません?」

「ソレは…記事の内容に拠るね」


僕は、脳内の嫌な記憶バンクを再チェック。


「忘れた?"焼けたレントの上の犬"の劇評。ウーナにボロクソに描かれたょね?」

「あぁ…でも、アレは去年の話ですから」

「"マギラ役のミユリは、救いようのないドラ猫だった。むくれて手をバタバタとさせ、目障りな演技をスル…"」


瞬時に不機嫌になるミユリさん。


「テリィ様、暗記してるの?」

「仕方ナイだろ。ミユリさんが何ヶ月も寝言を繰り返すから…良く考えて。彼女に頼みゴトをスルのはヤメた方が良いんじゃないか?去年と同じ仕打ちに遭うカモょ?」

「そう!大事なのは去年ってトコロです」


指鉄砲で僕を撃つ。


「もう私は乗り越えました。私にとっては、つまらない意地より学校の方が大切なのです」

「大人になったンだね」

「ありがとうございます」


僕の口が勝手に動く。


「"作者であるテネシ・ワルツがミユリのヒド過ぎる演技を見たとしたら、犯罪だと言って訴えたコトだろう…"」

「テリィ様!」

「乗り越えろ!乗り越えルンだ、ミユリさん!」


あの指鉄砲から"雷キネシス"の紫の光がほとばしれば僕は瞬時に真っ黒焦げだ。くわばらくわばら。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


殺人現場。スタジオは閉鎖され、警官やら何やらでごった返してる。黄色い規制線テープを潜る僕達。


「そんなに心配しなくても大丈夫ょテリィたん」

「ミユリさんが傷つくトコロを見たくナイんだ。強い人だと思われがちだが、意外と繊細なトコロがアル」


鼻で笑うラギィ。彼女は万世橋(アキバポリス)の敏腕警部だ。


「どう?ルイナ。被害者は誰?」


答えは僕のタブレットから。


「ヲデト・モトン。心臓を撃たれて即死。この大きさだと恐らく9mmHz弾ね」

「弾は貫通してるの?誰か銃声を聞いてないのかしら?サイレンサーを使ったとか?」

「この辺は収録が始まると無人になるらしいわ。番組の冒頭では花火も使ってるし」


タブレットの声は超天才のルイナだ。車椅子の彼女はラボから"リモート鑑識"で手伝ってくれてる。


「となると…ヲデトは冒頭シーンが始まると同時に撃たれたの?」

「そう考えて良さそうね」

「ヲデトがメイクを終えたのが45分。収録開始は3時から。4分後に遺体発見。その間19分」


ヲタッキーズのエアリが割り込む。因みに、彼女はメイド服だ。だって、ココはアキバだからね。


「エアリ。その時間帯に不審者がウロついてなかったかを調べて」

「ROG」

「マリレ。収録観覧者のリストをもらって来て」


因みにマリレもメイド服だ。だってココは(以下略)


「この楽屋に来る方法は他にもアル。喫煙者が出入りするドアは開けっ放しょ。犯人は、偶然そのドアを見つけたのカモ」

「内部の者の犯行ね」

「内部に決まってるじゃナイ!優勝を狙うライバル達の陰謀だわ…え。何?"ヲタ芸バトル"を見ちゃイケナイの?ヲデト推しが悪い?彼女は裕福な家の出で、若い頃はヤンチャもしたけど、大事故を契機に改心したのょ!」


何とタブレットから雄弁に語るのは超天才ルイナ。


「ルイナ。なかなか良い話だ」

「結末以外はね」

「驚いたわ、ルイナ。貴女が"ヲタ芸バトル"のファンだったとは」


意味もなく感慨深い僕w


「ヤメて。私はファンじゃない。でも気になるの。ホラ、私、子供の頃プリマドンナを目指してたから…寝ても覚めてもダンスばかりだったわ」

「で、どーしたの?」

「14才の頃、こいつらが成長を始めた」


自分の胸を指差す超天才。


「巨乳のバレリーナなんていないわ。だから、諦めたワケ」

「僕は、いるべきだと思うな」

「いやらしい」


ソッポを向くラギィ。彼女は…ツルペタだ。ニンマリと顔を見合わせる僕とヲタッキーズのメイド達。


「ヲデトに家族は?」

「お兄さんがいるみたいょ。名前はポール」

「じゃ呼んで。ヲタッキーズ!あと他の参加者の中に怪しい人がいないか調べて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ワラッタのスタジオB7。"ヲタ芸バトル"の撮影セットの中で僕はヲタッキーズとサデノから事情を聞く。


「今日のリハーサルの間、ヲデトの様子に何か変なトコロはなかった?」

「そりゃ番組脱落の危機だからな。お互いピリピリしてたさ。なのに、ヲデトは11時から30分も外出をしたンだぜ」

「何しに?」


サデノは、あざけるように語る。


「知らないYO。でも、よほど重要な用事だったンだろうぜ」

「私なんか、友達と会うからゴマかしといてって言われたわ」

「そっか。でも、なぜ隠す必要があったンだろう?」


話に割り込む地下アイドル。真っ赤な唇で微笑む。


「あのね。出演者は本番の日はスタジオから出ちゃいけないの」

「なるほど。君の協力に感謝するよ」

「マジ?役に立った?ねぇ次の出番は3時からナンだけど、もし良かったら…」


チャンス到来!ところが…


「テリィたんは、ムーンライトセレナーダーとデキてるの!2人は秋葉原1、ラブラブなのょ」

「じゃ仕方ないわ。ムーンライトが相手じゃね」

「君も素敵さ。3時…だっけ?」


地下アイドルは投げキスして去る。


「何なの?今の見た?」

「私達を無視してテリィたんにモーション?」

「まぁまぁ怒るな。僕に侍るなら、せいぜい慣れておくコトだな。無視されるコトにさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に戻ったら、ラギィが犠牲者の兄のポールから事情を聞いている。コーヒー片手に合流スル僕。


「妹のヲデトは、最近マジ幸せそうでした。まさか死ぬなんて」

「妹さんは、その、何と申し上げるか、過去に色々と問題があったとか」

「ソレは否定しません。数年前の祖父の死にショックを受けて、学校を辞めて悪い連中と付き合っていたコトは確かです」


率直に認める兄のポール。


「どんな連中ですか?」

「薬をやる連中です。妹も何度か逮捕されましたが、地底超特急の事故に遭い、彼女は生まれ変わったのです」

「死にそうになったとか?」


一気に喋り始めるポール。


「YES。恐ろしい脱線事故でグランド末広町ステーションが血に染まった。何とか命は取り止めましたが、ソレを機に妹は心を入れ替えたのです。半年間ダンスに打ち込み、気づいた時には"ヲタ芸バトル"のオーディションに受かってた。やっとヲデトは自分の夢を見つけた。そして、あと少しで叶えられたのに」

「妹さんを恨んでそうな昔の仲間はいますか?」

「いないと思います」


即答だ。迷いがナイ。


「番組の中ではどうでした?」

「昨日、どーしても性格が合わない参加者がいるって言ってました。確か名前は…エディ」

「エディ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ワラッタ・ワールドワイド・メディア本社タワー。プロデューサー室の前。 

僕達が訪れると、口紅を直していた秘書は慌ててコスメをバックにしまう。


立ち上がり愛想笑いw


「警部さん!お待ちしてました」

「ありがとう。プロデューサーの…」

「ラギィ警部!"ヲタ芸バトル"の共同製作者、そして制作総指揮のマクス・マカスだ。捜査に全面的に協力するよう、全員に伝えておいたょ」


僕達の話を遮り、わざわざロビーまで出て来て握手する葬式…じゃなくて、総指揮のマクス・マカス。


「何でも聞いてね」

「協力させてもらいます」

「ヲデトのお兄さんから聞いた話ですが、ヲデトは参加者の1人と仲が悪かったとか」


審査員達も口々に協力を申し出る。


「エディ・ゴドンだ。だが、もう奴はいない。先週ヲデトと番組からの脱落を賭けた対決をして、我々の投票の結果、敗退した。激怒してたよ」

「全くヒドかったわ」

「具体的にどんな感じ?」


したり顔で語るプロデューサー。


「リアリティショーの参加者は、みんな親しみやすく、特徴的な生い立ちの持ち主と言う設定にしている。例えば、ヲデトは悲劇のお嬢様。エディは貧困層からダンス1つでノシ上がったワルって具合だ。実際、エディは期待通りの悪役キャラだったが、ソレは作られたキャラではなく、裏でもスゴかった。脱落した時はヒドい悪態をつかれたょ」

「無礼だったわ」

「セキュリティを呼びました」


審査員も口々に不平不満を述べる。


「脅迫されましたか?」

「とにかく!エディがいなくなって、マジほっとしたとだけは言っておく…だが、皮肉だな」

「なぜ?」


番組を解説するプロデューサー。


「番組のルールで、棄権者が出ると、最後の脱落者が戻されルンだ」

「え。とゆーコトは…」

「その通り。今回のゴタゴタで1番得をしたのがエディ・ゴドンであるコトは間違いナイ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"ぶりっ子のヲデトがやってくれたぜ。マンマとハメられた!リハ(ーサル)もロクに出ないし、自分がミスっても全部俺のせいにしやがった。あーゆー女にこうしてやるぜ"


指鉄砲を斜めに繰り出す仕草で、モニターの中のエディはストップモーション。顔を見合わせる僕達。


「コレは番組脱落時のエディのインタビューょ。"ヲタ芸バトル"は、出場者の自由な発言を奨励してるようね」

「かなーり自由なようだね」

「エディには前歴があった。事件当日の午後、番組のアシスタントに目撃されてるわ」


聞き込みしてくれたマリレの報告。


「まとめるとエディは脱落したけど、ヲデトが消えれば"ヲタ芸バトル"に復活出来るコトを知っていた」

「だから、彼女を消した?」

「永遠に」


本部のモニター画面には、指鉄砲を斜めに構え、首を傾げてスゴむエディの静止画像。僕達は溜め息。


第2章 フェイクラビットファーの女


取調室に入ると、不貞腐れて座ってるエディ。ラギィは手にしたファイルを開く。取り調べが始まる。


「不法侵入に強盗か…昭和通りじゃかなりヤンチャしてたのね」

「それはダンスを始める前のことだ」

「"ヲタ芸バトル"の脱落が決まった時には、審査員にも暴言を吐いたそうじゃない」


率直に頭をかきむしるエディ。わかりやすい男だ。


「結果に納得出来なかったからさ。それを端的に訴えただけだ。言っておくが俺は犯人じゃないぞ」

「そーなの?ヲデトが亡くなった代わりに貴方が番組に復活スルそーじゃない?」

「ソレが俺の父ちゃんが言ってた通りの"天の計らい"って奴だ。ご縁ってのは不思議なモンさ」


微笑で受け流すラギィ。


「ソレって、天の計らいと言うより貴方が仕向けたコトなんじゃないの?貴方、事件の当日はスタジオで何をしてたの?」

「サデノの応援さ。奴にとっちゃ大事な対決だったからな」

「番組復帰がかかってる貴方にとってもね。ねぇ貴方には、殺人の動機も機会も揃ってるのよ?」


直ちに反論するエディ。


「俺は、ヲデト殺害の時刻には、ヨソで人と会っていた。だが、ヲデトの奴、先週は様子が変だったぜ。アレは、きっとダンス以外で何かがあったんだ」

「と言うと?」

「とにかく、上の空だった。トイレに行くと30分も戻ってこないし」


身を乗り出すラギィ。


「あらあら。何をしてたのかしら」

「裏口から出て行くのを見たンだ。アイツ、男と会ってやがった。何やら話し込んだ後でヲデトは札束を渡してた。多分2〜30万円ぐらいあったぜ」

「マジ?似顔絵の作成に協力してくれる?」


大きくうなずくエディ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。スマホを切り立ち上がるマリレ。


「エディの言った通り彼にはアリバイがあった。殺害時刻にエージェントと会ってるわ」

「うーん男と会ってた話もマジかもしれないな」

「その男の似顔絵が出来たわ」


エアリが漫画を示す。半島系の黒っぽい髪の男だ。


「事件当日もヲデトはリハーサルを30分も抜けたけど、コイツと会うためカモしれないな」

「誰か彼を見てナイか調べてみる。制服組にも聞き込みをしてもらうわ」

「ヲデトが公正したのなら、なぜ人目につかない場所で、男に金なんか渡してルンだ?」


ヲタッキーズ相手に頭をヒネる。


「やっぱり薬?手を出したのカモ。銀行でお金を引き出した記録は?どう、マリレ」

「大金の引き出しはないわ。でも、カード履歴が変なの。ココ半年、ほぼ一定だった利用額が先月位からいきなり増えてる」

「ホントだな。限度額まで使ってる。請求額100万円だょ何にそんなに使うんだ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄昏。アキバの夕焼けはオレンジ色だ。秋葉原ヒルズの谷間にある万世橋(アキバポリス)も全てがオレンジ色に染まって逝く。


捜査本部の会議室。


「どうもリチバ・バーグさん。わざわざありがとうございます。ヲデトのマネージャーと祖父グラハさんの遺産管理もやってらっしゃったとか」

「YES。悲しいコトに今はヲデトの遺産管理も行っています」

「彼女の家族信託は誰の手に渡るのでしょう?」


澱みなく答える管財人。


「彼女自身の希望でグラム財団と言う慈善団体に寄付するコトになっています」

「先月からヲデトのカードの支出が急増してる理由を御存知でしょうか?」

「聞いてると思いますが、3年前にヲデトは祖父を亡くした。その後…その、彼女はかなり荒れたんです」


慎重に言葉を選ぶリチバ。


「ソレはお兄さんのポールから伺いました。薬に手を出したとか」

「当時の彼女は金遣いが荒くて…例えば、泥酔した勢いで外車を買ったりしてた。新しい不動産に入札したり、友達の整形手術代まで、手当たり次第に払っていました。でも、ソレも去年の地底超特急の脱線事故でピタリと収まった。我々は彼女が落ち着いたと喜んでいました…だから、先月の請求額を見てまた元通りかとショックでした」

「何に使ったんですか?」


管財人は、溜め息をつく。


「主に服です。請求額のほとんどが5番街の店で2日にわたり使われていました」

「その時の領収書を拝見出来ますか?」

「モチロンです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


リチバが帰った後、捜査本部。


「おかし過ぎる!ヲデトの買い物は理解不能。自分に合わないサイズの服に何100万円も使ってる」

「自分に合わないサイズ?」

「領収書によると、なぜかサイズ4の服ばっかり」


テーブルにスタボ(スターボックス珈琲)のグランデカップを置く。ラギィは微笑み美味しそうに1口飲む。何で別れたのやらw


「家宅捜査かけたけど、彼女の家に新しい服はなかったわ。隠したのかしら」

「株主優待券の手口に似てるな」

「何ソレ?美味しいの?」


黒歴史を語ろう。


「学生時代、親から仕送りを株主優待券でもらってる奴がいた。ソイツは友達の食事代とかを払っては現金を作ってた。奴はその手で小遣いを倍にしてたな」

「あらあら」

「あ。僕はやってないぞ!」


ニヤニヤ笑うラギィにヲタッキーズw


「やれやれ。ナイショだぞ」

「ヲデトは、例の男に払うために現金が必要になったのかしら」

「きっと家族信託のお金だけじゃ足りなくて、だから、カードで服を買って売ったのね」


ラギィとメイド達の妄想がハレーションを起こす。


「ところが、直ぐにカードは限度額になって必要な額が調達出来なくなって…」

「ソレで殺されたんだわ」

「でもサ、フェイクラビットファーのバッグやら服やら100万円分も買い取るお友達なんている?」


ん?フェイクラビットファー?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ジスミ、話があるの」


声をかけられ振り向く秘書。ラギィの姿を見てポトリとバッグを落とす。フェイクラビットファーだw


「素敵なバッグね」

「友達からもらったの」

「友達って…ヲデトのコト?」


ワラッタ・ワールドワイド・メディア本社タワー26F。制作総指揮マクスの秘書は化粧に余念がナイ。


「ショップの店員に聞いたわ。貴女、ヲデトに100万円を払わせたんですって?」

「気前の良い子だったわ」

「貴女はヲデトを恐喝し、挙句に殺したのでは?」


イキナリ単刀直入。ジスミは真っ青だ。


「もしかしたら、ヲデトには人には言えない秘密があった。ソレを知った貴女は、口止め料としてクローゼット一杯の服を求めた」

「待ってょ!じゃ私は金のなる木のヲデトをナゼ殺さなきゃイケナイの?」

「彼女の金が底をついたとか…もしくは、逆に恐喝されそうになったとか。動機はいくらでもアルわ。じゃ続きは捜査本部で聞きましょう」


クルリと背を向けるラギィ。慌てるジスミ。


「待って!…先月残業してた時、かなーり動揺してるヲデトを見たの。そしたら、彼女を追うようにしてブラド・メビルも現れた」

「番組の司会者のブラド・メビル?リアリティショーの出演者と親しくなったらマズいのでは?」

「だ・か・ら!尾行してみたの。そしたら2人は、派手に喧嘩してたわ」


愉快そうに笑うジスミ。身を乗り出すラギィ。


「デーハーな喧嘩?何について?」

「よくワカラナイ。でも、ハッタリで制作総指揮のマクスに告げ口スルと言ったら、彼女は慌ててた。で、何でも買ってあげるから黙っててと懇願されたワケ」

「あらあら。ソレでどーしたの?」


ジスミはドヤ顔だ。


「悪くない取引(ディール)だと思ったわ。でも、ソレだけょ。私は殺してない」

「申し訳ないけど、貴女の言葉は信用出来ないの。ゴメンね」

「ヲデトを殺すとしたら、私じゃなくてブラド・メビルなの!」


ジスミは、例のフェイクラビットファーのバッグから、何やらデバイスを取り出す。ICレコーダーか?


「2人の会話を聞いて。喧嘩をしてるトコロをバッチリ録ったから…ハイ、再生」


"ヲデト、約束しただろ?"

"あら。貴方次第ナンだけど?"

"もし誰かにバラしたら、俺はお前を殺してやる"


ジスミは、ドヤ顔で再生を止める。


「もし司会のブラドがリアリティショーの参加者と交際していたらどうなるの?」

「ヲデトは失格。ブラドは番組から降板ね」

「おやおや。立派な殺害の動機になるな」


僕とラギィは顔を見合わせる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の取調室。当然コーヒーは出ない。ブラド・メビルの面前でICレコーダーを再生するラギィ。


「もう1回聞く?…"もし誰かにバラしたら、俺はお前を殺してやる"」

「待て待て待て。コレは、そーゆー意味じゃない。誤解しないでくれ」

「待てないわ。だって、事件の何週間か前に貴方は彼女を殺すと脅したンだから」


ラギィは立ち上がる。青いボアフリースのベスト。胸はムダにVカットだが、ツルペタだから大丈夫w


「あ。アレはヲデトを守るために言ったウソだ」

「ヲデトを守るための?」

「YES。俺だって、昔ヲデトがズベ公やって薬に溺れてたコトは知ってる。でも、今は足を洗ってダンスに打ち込んでる。ま、そーゆー彼女の言葉を信じてたのさ」


ようやく、自分のペースで語り出す。


「ヲデトは完全に足を洗ってなかったと言うの?」

「2ヶ月前、俺がメイクのために早めにスタジオ入りスルと、ヲデトが(注射を)打ってたのさ」

「マジ?ソレ、確実なの?」


うなずくブラド。


「ああ、間違いない。万が一、番組総指揮のマクスに知られたら全員追放だ」

「だから、貴方はマクスには黙ってた?」

「まぁな。2度としないと泣きつかれたから見逃したんだ。ところが、その後も見てたら、1ヵ月前にまた打ってたンで、今度こそ総指揮のマクスに報告しようと思ったワケさ」


ラギィ、再び着席。


「ソレで?」

「…報告はしてない。逆にヲデトに脅されたよ。貴方は報告義務を1度は怠った、マクスにそう告げ口スルとね。確かに過ちを犯した。俺は、クビにされても仕方ない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。証拠用のビニール袋に入った注射器が2本。高く掲げるマリレ。


「注射の話はマジょ。宝石箱の底が二重底になってて注射器が隠されてた。鑑識が見逃すのも無理ナイわ」

「"覚醒剤"なの?」

「いいえ。ルイナと電話で話したの。毒物検査では"覚醒剤"は検出されなかったそうよ」


アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子がスーパーヒロインに覚醒スル例が多発している。

"覚醒剤"は、覚醒を焦る腐女子が手を出す違法な地下ドラッグで、腐女子の廃人化が後を絶たナイ。


「"覚醒剤"でナイとしたら、注射器の中の、この黄色い液体は何なの?」

「ワカラナイ。目下、超天才ルイナがラボで分析中」

「どーやら一般的なドラッグでは無さそうね」


第3章 糖尿病患者の憂鬱


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。御帰宅スルと女子トーク中のソファ席から大きな笑い声。

 

「ミユリ姉様のヲタ友が来てるの」


常連のスピアが耳打ちしてくれる。見るとメイド長のミユリさんがソファに出て女子トークに参戦中。


「だから、私は美空ヲバりに言ったのょ。ねぇヲバり、今のは私が聞いた中で2番目に良い"愛散々"だったわ。だって、残念ながら1番はモノホンだもの。トドメも刺しておいたわ。"誰も彼女にはかなわない"」


またまた爆笑だ。ミユリさんが身を乗り出す。


「ねぇウーラ。ソレで美空ヲバりは貴女に何て逝ったの?"軽薄歌合戦"の帰り道に」

「"貴女にはサブカル評論家の素質がアルわ"ですって!まさか、嫌んなっちゃうわ。ソレで今に至るワケょヲホホ…」

「なるほど、さすがだわ。ところで、貴女に報告したかしら?」


ミユリさんはウーラ(誰?)のグラスにワインを注ぐ。


「私、ミュージカルの学校を始めたの」

「まぁミユリ!スゴいじゃない」

「thank you。そーかしら」


感心してるウーラ。意外な展開だ。


「とても良いコトだわ。経験を次世代の若者達に伝えてくれるワケね?」

「そうなんだ。僕達も誇りに思ってる」

「出来れば、貴女に授業を見てもらいたいの。そして、もし気に入ってくれたら貴女の素敵な記事で学校を紹介してもらえれば嬉しいなって思ってた」


一気に勝負に出るミユリさん。


「ええ、モチロンょ。私、喜んで描くわ」

「あら。感激」

「ねぇ時間と場所を教えて」


ワインを1口飲むミユリさん。珍しく高揚してる。


「ソレにしても、貴女の決めゼリフを言う時の妙なクセが生徒サン達に憑ってなければ良いのだけれど…ホラ、あの話す時に首をカクッと傾げる妙なクセょ。お願いだから生徒に移さないでね」


場の空気が瞬時に凍りつく。


「…あら。私はソンなコトはしないわ」

「そぉ?"マクベソ"の時にしてたわ。ソレに加えて、小鳥みたいに手をバタバタとバタつかせルンだモノ。今にも舞台から飛んで行きそうだった」

「スピア!確かアップルパイがあるんだっけ?出してょ。みんなで食べよう!」


弾かれたように立ち上がるスピア。


「そ、そーね。アップルパイどこだっけ?」

「だけど、ウーラ。それって私が確かアヲデミー賞にノミネートされた年じゃなかったっけ?」

「そうなの?アヲデミーの主催者は私より寛容なのね。傾げた首や手のバタバタに…やーだ、ミユリ。私は揶揄(からか)ってるだけょ」


そりゃ見ればワカル。


「ねぇまさか覚醒スル前の貴女について描いた劇評ナンか根に持ったりはしてないわよね?」

「ミユリさん。発言の際は冷静にな…」

「…劇評ですって!あんなのは悪意ムキ出しの単なる中傷よっ!」


あちゃーw


「いいえ。正確な指摘だわ」

「ミユリさん、乗り越えルンだ。乗り越えろ…」

「もう結構だわ。さっきのお願いは忘れて。頼まれたって貴女の記事で私の学校には触れて欲しくナイ。土下座されたって断るわ」


激昂一閃ソファから立ち上がるウーラ。


「誰が頼むモンですか!あのね、大成しなかった者ほど指導したがるのょ!」

「指導も出来ない者がサブカル評論家になる!」

「何よっ!」


互いに拳を振り上げて威嚇し合う女子2名。バタンと音を立ててドアから出て逝く評論家のウーラ。


「大丈夫?ミユリ姉様」

「あぁ私、やらかしちゃったのかしら」

「ミユリさん、まぁまぁだったょ」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に立ち上がった捜査本部。


「最悪だったょ。ウーナはミユリさんの古傷に塩をネジ込んだンだ」

「姉様に同情スルって伝えておいて」

「伝える…で、捜査はどう?事件当日の午前11時、ヲデトはカフェにいた?例の薬の調達かな」


エレベーター前でラギィと合流。本部を横切りながら情報交換…いや、一方的に情報提供を受けてるw


「いいえ。彼女が買ってたのは"覚醒剤"じゃなくてカフェラテだった。友達と会ってたみたいょ。スザヌ・スタナ」


画像が転送されて来る。可愛いw


「単なる友達かな。大事なショー当日に会うほどの急用だったとは」

「スザヌは思い出話をしただけだって言ってる…あ、ありがとう」

「スザヌにヨロシク」


エアリが駆け込んで来る。


「ルイナのラボから連絡があったわ。宝石箱にあった液体の検査結果が出たの。"覚醒剤"じゃなかった。ただのインスリンだって」

「インスリン?糖尿病かょ」

「彼女のかかりつけ医は違うと言ってるけど」


エアリは自信なさげだ。


「となると…最近になって糖尿病を発症したとか、医者を代えたのカモな。でも、何でブラドに黙ってたンだろう。ソレにどーしてジスミにまで口止め料を払うんだ?」

「ソレ、ナゼだかワカルかもわかるカモ」

「マリレ?」


マリレも話に割り込んで来る。


「鑑識がヲデトの家で採取した指紋は1人分だった。しかも、ソレはヲデトの指紋ではなくて、バボラ・ラダウのだった」

「誰なの?そのバボラ・ラダウって?」

「悲劇の王女様ヲデトとは大違いょ。里親に育てられて高校は中退してる」


僕達は首を傾げる。


「ヲデトのルームメイトか?」

「その子と話したいわ。連れて来て」

「ソレは難しいわ。バボラは去年死んだコトになってる。死亡証明書も出てるわ」


死亡証明書の画像が配信されて来る。


「地底超特急の事故による鈍的外傷による死亡ってなってるけど、どーゆーコトかしら」

「因みに、ソレってヲデトが生き延びたとされてる事故のコトだ。同じ事故に遭い、ヲデトは生き延びて、バボラ・ラダウは死亡」

「待て待て待って。ムッチャ怪しい。この画像を見て。誰かの披露宴で踊ってるヲデト。で、コッチはバボラ」


画像を打ち出しホワイトボードに張り出す。


「ウリ2つだな!」

「あり得ないわ」

「でも、コレで全て説明がつくぞ。ヲデトは、地底超特急の事故の後、生活を変えたり、人目を忍んでインスリンを注射したりしてた。全てヲデトが元から糖尿病ではなかったコトの証左だ」


僕は、スッカリ合点が逝く。


「やっと長年の謎が解けたな」

「地底超特急の事故を生き延びたのは、ヲデトじゃなくて、バボラだったのね?」

「そして…地底超特急の事故現場の灰の中から不死鳥のようによみがえり、ヲデトの人生を乗っ取ったンだ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のホワイトボード前。熱弁をふるうラギィ。


「双子の女子が里子に出されたの。ヲデトは裕福な家にもらわれ、バボラは児童手当欲しさの貧しい家に拾われた。そして、里親をたらい回しにされながら、バボラは心の底でこんなハズじゃないとズッと思ってた」


僕が後を続ける。


「そんな2人は、ある日、NY逝きの地底超特急の中で運命の再会を果たす。双子と言うのは一目瞭然、2人は互いの人生について語り始める。バボラは、もし自分がヲデトだったらと思わズにはいられない」

「あら?じゃバボラが地底超特急の脱線事故を起こしたと?テロリストなの?ソレとも…魔法の力でも使ったの?」

「わぉ。もしそうなら最高に面白い。でも、恐らく違うな。双子が複雑な思いで再会を果たした直後に起きた脱線事故は偶然だ。そして、目の前でヲデトは死亡スル。阿鼻叫喚の事後現場でパニック状態のバボラは、チャンスが来たと感じる。目の前のヲデトの死体から身分証を抜き、運命を、そして、人生を入れ替えた。ソレは、幼い頃から夢に見た完璧な未来だったハズさ」


ニヒルに笑うラギィ。


「1年後には殺されるけど?」

「お伽話や洋画なら、いつも悲劇で終わるパターンだ…まぁ例外もあるけどね」

「ラギィ!」


マリレが駆け込んで来て、全てをブチ壊す。


「検視結果が出たわ。バボラはヲデトの血縁者じゃなかった。双子説はアウト。バボラは天涯孤独の身の上ょ!」

「おいおいおい。双子じゃないなら、何で2人は似てルンだ?」

「ソンなコト知らないわ。ただ、前の仕事がわかった。コスプレの地下ストリップクラブょ」


お?ダンサーがスーパーヒロインのコスプレの奴?


「そーなの?殺された原因はヲデトの周辺にあるって考えていたけど、実はバボラの方にアルのカモね…マリレ、バボラについて調べて来て。私はヲデトのお兄さんのポールと話してみるわ」

「え?ポールはシロでしょ?未だ疑ってるの?」

「バボラが1年以上彼を騙し通せたとは思えない。納得のいく説明をしてもらうわ。ね、テリィたん?」


当然ラギィは僕が一緒に逝くモノと思ってる。


「モチロンだ。だが、ソレはラギィ1人で逝く方が良いだろう。何ゴトも1対1の対面が基本だからな。邪魔にならないよう、僕はヲタッキーズの陣頭指揮で地下ストリップのコスプレクラブで捜査を進めておく」

「何言ってンの?地下ストリップに行ったナンてヲタッキーズに告げ口されたら、ミユリ姉様の"雷キネシス"が光を放ち、テリィたんは瞬時に真っ黒焦げょ?」

「あら、ラギィ。人聞きの悪いコトを言わないで。テリィたんのリーダーシップがナイと私達は烏合の衆だわ。ね、エアリ?」


思わぬ展開だが良い流れなので黙っていたらマリレに耳たぶをつままれて本部から引きずり出される。


「イタタタ…でも、援護射撃thank you。だけど、やっぱり3人は多過ぎる。現場についたら別行動にしよう」

「ダメょ。テリィたんを連れ出したのは、ある実験をスルためなの」

「まさか人体実験か?僕を改造人間に…」


黙ってエレベーターのボタンを押すマリレ。


「ソンなコトしたら、ソレこそミユリ姉様に黒焦げにされちゃうわ…はい、ハメて」

「え。良いのか?」

「バカ。指輪ょ」


ヤタラと石がデカいw


「ヤメろ。そんな物騒なモノはしまえ」

「ダメょ地下ストリップに行く時にハメて」

「ナンでだょ?三つ星レストランへコンビニ弁当を持参しろと?」


シメたと微笑むマリレ。


「まさかのミユリ姉様、コンビニ弁当発言だわ。あぁこんなコト、絶対に姉様には言えない。口チャックょ!秋葉原の平和のためにも!」

「しまった。オウンゴール?」

「さぁ私に黙っていて欲しければ、この指輪をして地下ストリップに行くのょ!OK?コレは意義アル実験なの。結婚指輪をしてるTO(トップヲタク)は浮気出来ないと言う私の持論の…」


何なんだ?異議アル実験?


「ソレで?」

「テリィたんが指輪をしたら女に無視されるコトを実証したいの。さぁ指輪をつけて。つけなさい!」

「ぐっ…」


その時エレベーターの扉が開き乗って来た警官は僕に指輪を突きつけるエアリを見て完全に誤解スル。


「テリィたん…プロポーズされてるのか?」

「そーなんだ!おまわりさん、助けてくれ!」

「とゆーコトはムーンライトセレナーダーはフリーってコトだな?」


何でそーなる?指輪を摘み指にハメる僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


民族移動レベルのインバウンド増加に伴って、コンカフェも国際的エンターテイメントへと進化スル。

その1つがコスプレ系ストリップショーでNY、ロンドン、パリ、五反田などで大流行中の店舗形態だ。


「バボラ?あ、絶対に東秋葉原ブロードウェイでダンサーになるって夢見てた子ね?ココではリィマ・ビクトリアスと名乗ってた。乳がデカい良い女だから」

「そ、そんな乳、じゃなかった、夢を語っていたのか。ミュージカルスターになる…」

「語るだけじゃなかった。見た目から変えてたわ。メイクも髪型も変えて…2年前なんて鼻の整形までしたのよ。全然問題なかったのに」


テーブルの直ぐ横の花道(ランウェイ)をセーラー戦士や魔法処女のコスプレダンサーが歩く。彼女は巨乳クノイチだw


「バボラは誰かとトラブルを起こしてなかったか?ココの客や恋人とかとは?」

「恋人とはモメてたわ。ジエソ・バグルとね」

「彼は今、何処にいるかワカル?」


彼女は急に小声になりメタルスーツ(のコスプレw)の前をハダけ顔は急接近、デカい乳の深い谷間が…


「2人が同棲してるアパートは東秋葉原のアルファベットシティょ。でも、悪い男なの。バカなコトばかりしてた。バボラが貢いだお金を返した試しがナイわ。でも、彼女は気にしなかった。彼にゾッコンだったから」

「あぁソレ、わかるなー。恋って奴は女を盲目にスルからな」

「そーなの。そして、突然始まるのが恋…」


彼女の熱い視線が僕の眼底を貫く。慌てて指輪をハメた手をヒラヒラさせる…が、効果ナシ!Blabo!


「と、とても参考になったよ。時間を取らせたね」

「ね?また後で遊びに来ない?私の出番は8時ょ。ぜひ…」

「あのね!彼はムーンライトセレナーダーのTO(トップヲタク)なの!アンタ、この瞬間にも背中から紫の光線に貫かれて真っ黒焦げになるわょ!」

「特に、ムーンライトセレナーダーは巨乳は容赦しないわ。自分がツルペタだから!」


今まで黙ってた左右のメイド達が一斉に火を噴く。

巨乳は慌てて立ち上がりウィンク1発残して遁走w


「おいおいおい。良くもブチ壊してくれたな!」

「私のTO指輪(リング)をつけてストリッパーを口説くな!未来のTOサマとの誓いの証なのょ!」

「まぁ良いじゃナイの、マリレ。テリィたんもガッカリしないで。貴方は秋葉原のヲタク達の憧れナンだから。さ、マリレに指輪を返してから、巨乳ちゃんのスマホを聞きに行けば?ミユリ姉様には黙っといてあげる」


hallelujah!ところが…


「あれ?いたたたたた…」

「何?どーしたの?」

「指輪が抜けない」


途端に腰に手を当て、僕を睨むメイド達。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ラギィ。ヲタッキーズの2人は、僕が地下(ストリップ)クラブで得た情報に基づき、バボラの元カレを連れて来る。僕は一足お先に本部に戻って情報を分析してみた。先ずバボラだけど、顔の整形前後の免許証の写真を見比べてみた。モニターに映したのは整形前」

「わぉ美人じゃないの。巨乳だし…ところで、テリィたん、何で髪の毛が濡れてるの?」

「ソンなコトはどーでもE。そして!コレは整形後だ。美しさが増した、と逝うより、より近くなったンだょヲデトに…因みに、整形前後で巨乳に変化はナイ」


本部のモニターに2枚の画像を並べる。


「遺産管理人のリチバ・バーグの話を覚えてるか?ヲデトが友達の整形代を払ったって話さ」

「その友達がバボラだと言うの?」

「YES。しかも認証済みだ。リチバ遺産管理人の助手に確認したら、確かにヲデトはバボラの整形代を払っている」


僕を眩しげに見上げるラギィ。えっへん。


「テリィたん。理由となる妄想の心当たりは?」

「ヲデトはご存知の通りのパーティガールだ。僕も経験上知ってルンだが、ハメを外せば必ずツケが回って来る。即ち、逮捕されなくても書類送検され、社会福祉活動とかをヤラされる…悪の巣窟ホテル"レコル・アクシヲム"でミユリさんの前推しのパンティを被って目覚めた時とかは…あ。今のは忘れてくれ」

「ええっ!テリィたんのバストランペットケースに入ってる縞パンってミユリ姉様のじゃなかったの?」


ミユリさんのなら、ソンなトコロには隠さない。


「コレはヲデトが2025年に酒気帯び運転で捕まって社会奉仕活動してた時の写真だ。で、コッチは友達の結婚パーティの2次会」

「続けて」

「この2枚の画像が撮影されたのは同じ日だ。時間も20分しか違わない」


1枚は披露宴で艶然と微笑むパーティガール。1枚は福祉工場の食堂で働く割烹着に三角巾のオバさんw


「奉仕活動してたのはバボラなのね?」

「多分YES。ヲデトは罪を犯したが、罰は受けたくなかった。だから、ヲデト2号を雇い、ソイツに社会奉仕活動をヤラせた。恐らく大金を払ったハズさ」

「双子なら替玉にピッタリだわ。良く探し当てたわね。双子特有のテレパシー?」


僕は首を横に振る。


「単なる偶然だ。ある日ヲデトは夜遊び先のストリップクラブで、偶然バボラを見つけた。少し手を加えれば自分の替玉として使える素材と確信し、絶対的に嫌だった社会奉仕活動からやっと解放されると小躍りスル」

「忌々しい"覚醒剤"検査からもオサラバ?一旦整形しちゃえば、バボラの使い途は無限大ね。退屈な遺産管理人との打ち合わせ、偏屈な親戚や傲慢な秋葉原セレブとのお付き合い…」

「替玉が誰にもバレないコトに自信をつけたバボラは、地底超特急がグランド末広町ステーションで脱線事故を起こした時、大勝負に出た」


ラギィは大きくうなずく…が、首を横に振る。


「ソレはソレとして、誰が彼女を殺したかまではワカラナイわ」

「もちろんワカラナイ。でも、きっと犯人はバボラを見てヲデトではナイと気づいた誰かさ。つまり、ヲデトのフリをしてたバボラを脅迫し、金を強請(ゆす)ってた奴。つまり…」

「ヲタッキーズが連れて来るバボラの元カレ、ジェソ・イエンね?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「俺に何の用だ?俺は誰も殺しちゃいねぇ」


取調室で吠えるジェソ。


「ふん。どーせこーゆーコトでしょ?アンタはバボラが地底超特急の脱線事故を生き延びたと知った。しかも、金持ちのヲデトにナリスマして生きているコトも」

「だから、自分も便乗して金持ちになろうとした。ところが、バボラはソンな都合の良い女じゃなかった。そりゃそーさ。せっかく手に入れた理想の人生を元カレに奪われたンじゃかなわない。だから…撃ったンだ。音波銃でな!」

「ホラな、コレだょ。だから、どーせ俺は疑われるだろうとわかってたぜ」


ラギィとの見事なコンビネーションだったが…


「あのね、アンタには動機がアルの。だから、警察は疑ってるワケょOK?」

「完全に誤解してる。あのな、2週間前にバボラの方から俺に打ち明けて来たンだ」

「え。バボラの方から?」


風向きが変わるw


「いきなり俺の家(彼女のアパートに俺が転がり込んでルンだったw)に現れて、アライザライをブチまけて来たのさ。確かに、彼女は完璧な人生を手に入れた…」

「なのに、ソレを台無しにするリスクを犯してまで、アンタにブチマけたと言うの?信じられないワ。何でょ?」

「俺を愛してたからさ」


堂々と語る元カレ。のけぞる僕達。


「あのさ…ヲデトの人生は、バボラが考えてたホド完璧じゃなかった。寂しくなったバボラは、夜毎ベッドで夢見る。丘を駆け下りる夢。愛しい俺の下へ戻って来るが良い。俺だけを真っ直ぐに見て。俺が買えるなら、その涙のワケを教えて。偽らズに…あ。そー言えば確かヲデトについて、何かを知ったとか言ってたな。えっとヲデトの過去の秘密か何かだ」

「え。どんな秘密ょ?」

「さーな。でも、誰かに知られたらヲデトは終わりだとか言ってたぜ」


まるで我がコトのように考え込むジェソ。必死に思い出そうとしてる。案外良い奴なのカモしれない。


「ヲデトは、ソレで殺されたのかな?」

「うーん彼女は、その秘密とやらを利用スルと言ってた。だが、そのためには切り札となる情報の収集が必要で、ソレが間に合うかが問題だとも言っていたな」

「結局、間に合わなかったのね」


身も蓋もないラギィの一言に溜め息をつくジェソ。


「アイツはガキの頃からダンスが大好きで、いつか東秋葉原ブロードウェイのスターになるコトばかり夢見てた女だった。その夢は、も少しで叶いそうだったのに」

「ヲデトが殺された理由は、バボラの過去にアルと思ってたけど…」

「違ったな。秘密は、ヲデトの過去にアル」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


引き続き捜査本部。ホワイトボードの前。


「先ず事件の1週間前、バボラは様子が変でショーのリハーサルを休んだりしてたわ」

「そして、元カレにヲデトの人生は完璧ではなく、秘密があったと伝えた」

「そして、さらに彼女は情報を求めて、誰かと会ったのょね。誰かしら」


僕はホワイトボードを指差す。


「スザヌ・スタナだ。事件の当日、ヲデトと昔話をしたと供述してる」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今度は捜査本部の会議室だ。コーヒーも出る。


「私が警察のお役に立てるかは分かりませんが…でも、あの日ヲデトは普通に見えました…って、ヲデトじゃないンでした。でも、マジでソックリでしたけど」

「で、思い出話をしたのよね。ねぇ貴女はヲデトとどのくらい親しかったの?」

「母が彼女のお祖父さんの家でメイドをしていたのです。だから、ヲデトとは一緒に育ったも同然で」


スザヌは、大衆的で快活な女子大生だ。


「で、ヲデトは何の話をしてたの?」

「ヲデトのお祖父さんの話でした。ヲデトとお祖父さんがいかに仲が良かったかを話して、彼が死んだ日についても聞いてきました」

「確か老衰で亡くなったのょね?」


うなずくスザヌ。


「98才でしたから…でも、何でソンなコトを聞くのかなって思ったんです。というのも、当時家にいたのは、私ではなくヲデトの方だったから。ヲデトとメイドとして働いていた私の母が家にいたのです。そう彼女に話したら、今度は母のコトを聞いてきました。母と直接会って、昔話がしたいって」

「で、ヲデトは貴女のお母さんと話をしたの?」

「さぁ?電話番号は教えましたけど、実際に話したかどうかは知らないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿し、実は困っている。


で、今宵は僕とヲタッキーズが大騒ぎw


「石鹸水ょ!きっと石鹸水なら…」

「ダメだ。ピッタリくっついてて外れないよ。まるで、指にハンダ付けされたみたいだw」

「テリィ様、もしかしてソレは呪いの指輪なのでは?」


何処か愉快そうなミユリさんw


「とんだテストベッドだ」

「私の未来のTOサマに、地下ストリッパーにモテるかどうか知りたくて1度テリィたんにハメてもらった指輪ょナンて絶対に言えないわ」

「でも、案外ウケるカモ」


僕達は、異口同音。


「殺されるよ(わ)


第4章 ヒロインは歳をとらない


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ホワイトボードにクラシカルな老メイドの写真を貼り出すラギィ。


「ヲデトの祖父の元メイド、カソンは前歴ナシね。でも、不思議なコトに、水曜の"ヲタ芸バトル"収録の観覧者リストに名前が載ってたわ。調べたらヲデトが直前にチケットを手配してた」

「え。スタジオに来てたのか?」

「YES。2時15分に入館。その後の目撃情報ナシ」


何か怪しい。


「スザヌはヲデト、じゃなかった偽ヲデトは祖父グラハの死について尋ねたと言ってたな。もしかして、ソレがバボラが知りたがってた秘密ナンじゃないか?」

「なるほど!実は、グラハは老衰による自然死ではなく、老メイドのカソンに殺されてて、そのコトにバボラは気がついたとか?検視報告書を読み直してみる!」

「そだね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「グラハ・ヲデルの死を自然死とした、当時の鑑識の判断は妥当と考えられる。しかしながら…」

「しかしながら、だって?」

「冷やかさないで…しかしながら、不審な点をいくつか発見したわ」


検視局で颯爽と所見を述べるスピア。真っ赤なスクラブが似合う。ハッカーの彼女は鑑識でバイト中。


「眼球の点状出血や鼻の右側にアザが見られた。原因として考えられるのは、誰かが顔に枕を押し当てた。従って、グラハが殺害されたと疑うに至る根拠は十分にあると考えられる」

「すごーい、スピア。とてもバイトとは思えないわ。パチパチパチ」

「おいおいおい。待てょ十分にアルのか?」


無邪気にハッキングした僕のタブレットから拍手を送る超天才ルイナを制し、重要ポイントの確認だ。


「うん。十分だょテリィたん」

「そっか。大した元カノだ。何で別れたのかな」

「ちょ、ちょっと!お仕事中ょ場をわきまえて!」


うっかり抱き寄せたスピアと慌てて離れる。


「そっか。ごめんごめん」

「あともう1点アルの。今週この資料を請求した人が、私の他にもう1人いた。例の偽ヲデトが火曜日に来てたらしいわ」

「カソンはグラハ殺害をバボラに知られたンだ」


ラギィと妄想がハレーションを起こす。


「だから、秘密を知られたカソンがバボラを殺したのね?仮尋問しなきゃ」

「グラハとバボラ、2人の殺害で逮捕だな」

「やったね!」


僕は、スピアを背中をカルテで叩く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「ミユリさん、ただいまー」

「テリィ様、気分は最悪です。どうして、私あんなコトを逝ってしまったのかしら。ガマン出来なくて、つい爆発しちゃいました。もうコレでウーナに学校の紹介記事は一生描いてもらえないし、腹いせにまた何か酷評されるカモ」

「まだ挽回できるチャンスはあるさ。だけど、あんな無礼な人にマジで頭を下げる必要アルの?」


実際、ミユリさんの古傷に塩をすり込んだ女だ。


「ウーナには頭を下げる位じゃ、どーにもナンないのdeath」

「…ミユリさん。ゴッドファーザーにこんなセリフがアル。"相手が決して断れないようなヲファをしろ"とね」

「ウーナが決して断れないヲファ…」


クッキーを摘んで頬張る僕。


「ミユリさん。もし僕に協力が出来るコトがアルなら何でも逝ってくれょな」

「ありがとうございます、テリィ様」

「で、ミユリさん。実はさ…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ミユーリ、久しぶりね!貴女ったら、昔と何も変わらナイのね。ナゼ?」


そりゃスーパーヒロインだからだ。彼女は年を取らない…恐らくだが。少なくとも僕と会ってからはw


「カソンさん、ごきげんよう。貴女は、25年以上もグラハさんのメイドをしていたわね。お孫さんのヲデトとも親しいと聞いたのだけど」

「うーんマァ親しいとは言っても、御主人様の孫とメイドという関係だし」

「貴方は、孫のヲデトにリアリティショー"ヲタ芸バトル"の番組収録に招待されて、出掛けるコトにしたンだね?」


メイドの大御所ミユリさんを知らない者はいない。老メイドさえ久しぶりの再会を喜んでいるようだ。


「貴方は…国民的SF作家のテリィたんね?そう、ミユーリの新しいTOって貴方だったの」


頭のテッペンから足の先までガン見されるw


「えっと…はじめまして。一応TO張ってマス」

「ヲデトに呼ばれてウレしかったわ。収録の後で話がアルと言われて楽しみにしてたのだけど。収録がキャンセルになってしまって。翌日、事件を知ったの。あのヲデトがニセ者だとは気づかなかっわ。ソレに何の話だったのかしら」

「カソンさん。貴女にグラハさんが亡くなった日のコトを聞きたかったみたいょ」


ミユリさんが踏み込む。途端に警戒スル老メイド。


「ミユーリ。何でソンなコトを私に聞くの?」

「"誰か"がグラハ御主人様は自然死ではナイと考えていて、自然死ではない証拠を手に入れたようなの」

「待って。どーゆーコト?グラハ様は殺されたとでも言うの?」


動揺を見せズ、ユックリ確認スル老メイド。


「カソンさん。グラハ御主人様が亡くなった日に、貴女は御屋敷にいたのよね?」

「…ミユーリ。貴女は私が殺したと言うのね?」

「カソンさん。貴女にはいくらでも機会があったわ。グラハ御主人様の多額の遺産が転がり込むと逝う立派な動機もアルの」


老メイドの目に追い詰められた者に特有の凶暴な光が宿る。ミユリさんはギリギリまで追い込んでる。


「私がグラハさんのコトを殺すハズがナイわ。でも、その"誰か"の考えは間違いでは無いカモしれナイ。そして、その"誰か"が私が何かを知っていると思うのも当然だわ…ねぇミユーリ。教えてょ。グラハさんのマジな死因は…窒息ナンでしょ?」

「ナゼそう思うの?」

「当時、御屋敷はピリピリしてたから」


国営放送のチ◯コちゃんみたいな答えだw


「グラハさんは、ヲデトの交際に反対していたの」

「あらあら。御相手は誰かしら」

「知らナイわ。でも、猛反対だった。グラハさんが亡くなった日の朝、ヲデトは部屋で泣いてたわ。すると、13時頃グラハさんは昼寝をスルと言ったの。私は指示通り枕を全て片付けたわ。だって、グラハさんは枕は使わないと仰ったモノだから…少ししてキッチンで騒ぎが起きた。焼きサンドを作ろうとしたヲデトがダッジヲーブンでパンを焼くのに失敗してボヤを起こしたの。私が後始末を終え、グラハさんの部屋に戻ると…彼は死んでいたわ」


丁寧に整理された話が淡々と語られる。


「ねぇミユーリ。その時、あるモノが私の目に入ったのょ」

「何のコトかしら」

「ベッドの上の枕。私は、確かに枕を片付けたハズなのに…ヲデトにそのコトを話したけど、勘違いだろうと言われたわ。ねぇこのコトは当時の警察にも語らなかった。ソレを今になって話したのは、ミユーリ、貴女が来たからょ…あぁスッキリした」


ミユリさんは微笑む。


「私はね、カソンさん。貴女が犯人じゃないコトを知ってるわ。でも、教えて。貴女がボヤの後始末をしてる間、ヲデトがキッチンからいなくなったコトはあった?」

「なかった。神田明神に誓うわ。ヲデトは無実ょ」

「どーかな?」


僕は口を挟む。


「決して無実とは逝い切れナイ。良くて共謀だな。ボヤで貴女の気を引き、その間に"誰か"に殺させたんだ」

「そして、その"誰か"がバボラも殺したのカモ」

「ソンな…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄昏に染まる秋葉原ヒルズ。太陽が何もかも全てを原色のオレンジ色に染め上げて雲間に沈んで逝く。


「電気街が黄金色に萌えている…素晴らしい景色ですね。しかし、秋葉原ヒルズのペントハウスが御屋敷(メイドバー)になっているナンて」

「ご協力ありがとうございます、遺産管理人のリチバ・バーグさん。貴方はヲデル家の財務を管理してたから、家族の私生活も見えてたんじゃないカナと思いまして」

「そりゃ…お金の使い方で色々と見えてきますからね。しかし、今回は南秋葉原条約機構(SATO)からのお呼び出しだと理解していますが?」


SATOはアキバに開いた"リアルの裂け目"由来の全事象に対抗するために設置された防衛組織だ。

故に、スーパーヒロイン絡みの殺人事件とかは万世橋(アキバポリス)との合同捜査となる。だから、呼んだんだょ。


「貴女はヲデトとは親密だったんですか?」

「まぁクライアントの1人ですから個人的な助言もしている。良く知っていた方だとは思います」

「彼女の祖父グラハ氏が亡くなる前、彼女は誰かと交際をしていて、その交際にグラハ氏は猛反対をされていたそうですね」


愛想笑いが消え、慎重になる遺産管理人。


「あり得る話ですね。2人は何かと対立するコトが多かった」

「その交際相手ですが、誰だか御存知ですか?」

「いいえ、存じません。なぜソンなコトをお尋ねになるのですか?」


探りを入れて来る。面倒くさい。


「その交際相手がグラハ氏とバボラ嬢を殺したと考えているモノで。どうしても思い出せませんか?」

「わ、わ、わかりません」

「そうですか。ヲデトのお兄さんであるポール氏は貴方だと言っていたのだが」


遺産管理人は目を見開く。


「貴方達は結婚したかったが、グラハ氏から別れなければ勘当だと宣告された。ヲデトのような女性はデーハーなセレブ生活に慣れきっている。貴方の給料だけでは、とても生きては逝けない。どーしてもグラハ氏の遺産が必要だったが、グラハ氏は、なかなか死なない。ソコで、ヲデトはボヤを起こして老メイドの気を引き、貴方に枕でグラハ氏を殺すように指示したんだ」

「ま、待て。何を証拠に?」

「証拠ナンてどーでもE。SATOは警察とは違い、真実が解明されればソレで良いンだ…ところが、イザ金が手に入ると、ヲデトは君を捨て、また自堕落な生活を始めた。その時、初めて貴方は利用されたと気づくが、為す術はなかった。モチロン、彼女を訴えるコトも出来ない。殺害を認めるコトになるからな」


口角泡を飛ばし反論スル遺産管理人。


「証拠がナイだろう!グラハ氏は自然死、との検視結果が出されている!」

「バボラ殺害の方は?コレは何?」

「ラギィ警部!」


ラギィが黄昏をバックに御帰宅。ポトリとビニール袋をテーブルに落とす。袋の中に入っているのは…


「貴方のオフィス近くのゴミ捨て場で音波銃が見つかったわ。鑑定の結果、バボラ殺害の凶器と一致した。しかも…貴方の指紋がベッタリついてたわ」

「ふ、ふふふ」

「リチバさん?」


突然遠い目になり、唐突に語り始める。


「先月のカード請求額が極端にヒドく、また悪い癖が始まったと思った。だから、言ったんだ。危険を犯してまで得た金をドブに捨てるような真似はするなと。すると、彼女は何の話かわからず、キョトンとしていたよ。その時、ヲデトがヲデトじゃないと、初めて気がついたんだ」

「バボラの方も同じタイミングでバレたと気がついたハズだ」

「YES。彼女は、自分の秘密を黙っていれば、私の秘密も黙っていると言った。そうすれば、立場は対等だと考えたようだ。つまり、彼女はそのままヲデトで居続けるつもりだったんだ。そんなコトは許せなかった。私は、地下ストリッパーにヲデトを汚されたくなかった。ヲデトの人生を乗っ取った上に、私まで脅迫するナンて!ソレこそヲデトへの冒涜だ。地下ストリッパーにヲデトを汚されたくナイ!」


最後は絶叫だ。僕達は顔を見合わせる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


解散が決まり、後片付けが始まった捜査本部。ホワイトボードからバボラの写真をハガすラギィ。


「テリィたん、どうかしたの?」

「バボラの写真を見てた。夢は生きて逝く原動力になるけど、身を滅ぼす原因にもなると思ってさ」

「バボラの場合はそうなったけど…みんながみんな同じ結論とは限らないわ。例えば、ルイナ。夢はプリマドンナだけど、今は超天才で鑑識も手伝ってくれる。悪くないでしょ?」


僕は苦笑い。


「ラギィは?ラギィは、お母さんを殺され刑事になったけど、その前の夢は何だった?」

「法律を学んでた」

「最高裁で法廷闘争を繰り広げたかったのか!」


少し驚く。


「女性初の最高裁長官になりたかったわ。マクス次長検事ドノを差し置いて」

「わぉ悪くナイね。元カノ初の最高裁判所長官だ」

「でしょ?」


笑顔を交わす。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「イタタタ…無理だょ!」


指輪を抜こうと必死の僕とヲタッキーズ。


「あのさ。僕にゾッコンのストリッパーが待ってルンだ。逝かせてくれょ頼む」

「ダメダメダメ。絶対ダメょ。指輪ナシで帰ったら後悔で夜も寝れないわ」

「マリレ。コレはどう?」


デスクの引き出しからハンドクリームを出すラギィ。


「お。スゴく滑りが良いな。指輪がクルクル回る」

「よし。じゃ行くわょ!せーの…」

「わ!」


スポンと抜けた指輪は放物線を描いて飛んで逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「ウーナ!ホントに立ち寄ってくれてありがと!」

「コチラこそ!私、貴女のミュージカル学校のコトを絶対に記事にネジ込んで見せるわ。安心してちょうだいね!」

「ありがと。うれしいわ、ウーナ」


何と"昨日の敵"同士が固い握手を交わしてる最中に御帰宅して目を丸くスル僕。何が起こったのか?


「あぁテリィ様!ちょうど良かったわ、私の親友ウーナに挨拶してください」

「ご、ごきげんよう…ウーナ」

「テリィたん!また会えて嬉しいわ。じゃ連絡をお待ちしてるわね!ルンルン」


連絡?連絡ってナンだ?


「ウーナ!またお話ししましょう。スマホするわ。ランチでもしましょうね!」

「えぇゼヒ。絶対ょミユーリ!」

「あぁ終わり良ければ全て良しだわ!テリィ様、hallelujah ですぅ!」


学芸会の幼児みたいに手のひらをヒラヒラさせて喜んでるミユリさん。ナンなんだ。何かが起きてるw


「ミユリさん。なぜウーナは僕の連絡を待つの?ってか僕の何を待ってるのかな?」

「だって、テリィ様が出来るコトがあれば何でもスルって仰ってくださったでしょ?」

「待て。チャンと答えてくれ。僕の了解も取らず、何の約束をしたんだ?」


ソレには答えず、僕の推しはアキバ最凶の微笑を浮かべ、黙ってコンテナ入りの原稿用紙の束を渡す。


「約束したのです。彼女の小説を読むって」

「そりゃタイヘンだねぇ」

「テリィ様が読むのです。そして、書評を描き出版社に持ち込んでいただくのです。テリィ様自らの手で!…だって、スゴい感動的な物語なの。コスキャバのショーガールが東秋葉原ブロードウェイのミュージカルスターになる成長の物語なのdeath」


お遊戯のキラキラ星みたいに掌をヒラヒラさせる。


「ミユリさん。女性向けの小説ってのは、僕は苦手ナンだけど…」

「小説家になるのがウーナの昔からの夢なのdeath。だから、どーぞ書評はお手柔らかにね」

「…何てこった。パンナコッタ」


まぁ良いや。推しのためなら喜んで何でもヤルさ。ソレがアキバのヲタクってモンだからさ。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"リアリティショー"をテーマに、ヲタクのトップヲタク願望、推しとの疑似恋愛感情をバックに巻き起こる愛憎劇、その果てに起きたスーパーヒロイン殺しをミステリー調で描いてみました。


さらに、リアリティショー出演者の"王女と乞食"の寓話もサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインバウンドのお陰で不夜城となった秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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