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キラキラでなく、ぎらぎら

 この幼稚園でいちかちゃんの娘とお友達になってるわたしの娘の父は、田丸裕次(たまるゆうじ)だ。

 だからいまのわたしのフルネームも田丸義子(たまるよしこ)になっている。こうなるまでの経緯(いきさつ)はいろいろあるが、ここでそうした色色(いろいろ)を並べるのは書いてるわたしと書かれてる小説の性分(しょうぶん)に合わないので省く(はぶく)ことにする。

 省くのは大事な何か(だいじななにか)を隠すからでない。

 ()()()()()()()()()()がいちいちあってもなくても、どのみち()()()()()に収まっていったから省くだけのことだ。

 でも、こうした形を作っていったのは、世間で言うところの()()()()()()()()()()()()()だ。わたしは、小さくても些細でもそれらを積み重ねていく類の女(たぐいのおんな)だ。

 わたしは見栄えのいいからとその場の思い付きで飾り立てたりはしない。

 小学校5年生になってお小遣いが1000円から1200円にアップされたとき、ファンシーショップへいってポニーテールのシュシュを交換することよりも、毎月やってる500円玉貯金に上がった200円を足してそれが4か月分の2800円になったとき、三省堂の国語辞典を買った。

 小学生向きのタグのついたのでない本物の方をだ。

 女へと近づいていく小学生女子(しょうがくせいじょし)先攻を期す(せんこうをきす)ためにすることは、おませさんになって女子高生(JK)が購読する雑誌を手に入れることではなく、己れの言霊(ことだま)を相手の男に染み込ませるための用例(ふれーず)が発見できる国語辞典を手元から離さないことだ。

 

 ちなみに、小5でギー子(ぎーこ)、小6で義子の義(よしこのよし)義理の義(ぎりのぎ)だと囃し始めた(はやしはじめた)のは田丸裕次だ。あいつとは小1のときからクラス替えしてもいっつも一緒(いっつもいっしょ)だったから、男女の区別が始まってくる5年生になっても、まだあんな子供っぽい遊びをわたしに仕掛けたりしたのだ。

 だから、ギーについては、

 ドロドロしたカレールーとは似ても似つかない「澄まし(すまし)バター」のことで、「奇跡のオイル」「黄金の秘薬(おうごんのひやく)」とも呼ばれ、アーユルヴェーダ(インドの伝統医学)やインド料理には欠かせない存在を告げ、

 そして、義理については、

 儒教に詳しい祖父が、仁義礼智の中から「正しい行い」や「道理」を意味する文字を選んだののであって、いまの大人たちが使ってる「嫌なんだけど、やらなきゃしょうがないよな」のような邪な意味ではないことを告げた。

 田丸裕次には、奇跡の秘薬(きせきのひやく)仁義礼智(じんぎれいち)が刺さり、いたくお気に入りになったようで、自分が囃し立てたくせにそれっきりそれをわたしに向かって口にするのを止める。そして、それがわたしに連呼されてる景色を切なく苦々しく覗いた顔を見せて、それを鏡のように見てる私は悦に入いる。少しだけ悦に浸る(ひたる)

 珍しくわたしが真ん中にいるそのポートレートには、いちかちゃんも写っている。いちかちゃんは自慢のツインテールを巻き巻きしながら寂しそうな顔をみせている。

 そのときは、仲良しのお友達(なかよしのおともだち)が男子たちに揶揄(やゆ)されてるのに何もしないでいるのが淋しいから(さびしいから)だと思っていたけど、そうではなかったのは後年(こうねん)こうして眺めてみる(ながめてみる)とよく分かる。

 ほんとうはあの当時からよく分かっていたのだ。だけどそのことに気づいたり認めたりするほど小学生のわたしは太くはなかった。それだけかもしれない。




 生まれてからずっと身内も含めてわたしを好きでもないひとに嫌われるのは、けっこう平気。こんなわたしを好きだというひとから義子は良い子と言われれば、それでいい。

 むかしは青森のおじいちゃんだったけど、いまは田丸裕次だ。わたしは、義子。義子の()()良い子(いいこ)のよし。いくつになっても良い子でいたい。

 キラキラでなくて濁音(だくおん)が混ざった義良義良(ぎらぎら)だって、好きだというひとの前で輝いていたら、わたしは幸せ。

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