9.突然の、呼び出し②
「なんだろう。リリー、なんか心当たりある?」
「魔道の書を盗んだことかなー。」
そうだった。これは盗んだものだった。もう2年もたっていたので、ばれていないものだと思っていた。
「でもそうしたら、わたしも呼ばれるんじゃない?」
「とりあえず行ってくるよ。」
リリーが緊張した面持ちで、妖精女王様の使いの後に続くのを見送る。
思えば久しぶりにリリーと離れたかもしれない。というか、始めてリリーと離れたかもしれない。生まれてからこの方、片時も離れずリリーと一緒にいた。
ぼーっとしているのも何なので、魔法の練習を再開しようとすると、後ろから声をかけられた。
「あの........。」
黄緑色のショートボブをした妖精だ。話したことはない。妖精は一人で日向ぼっこをしているのが普通で、特別なことがない限り基本的に互いにコミュニケーションをとったりすることは珍しい。いつもわたしたちの会話以外は、さわさわと自然の音がするだけだ。なぜそんなところでわたしとリリーがよく話すようになったのかというと、リリーも妖精の中では少し変わった部類で、生まれてすぐのわたしにすぐ話しかけに来たので仲良くなった。ほかの妖精に今まで声をかけられたことは一度もない。
緑の妖精は何かを話したげにおどおどしているが、なかなか続きの言葉が出てこない。
「どうしたの?」
「えっと、あの、今何してるの?」
何をしているかというと、魔法の練習だ。もしかしてこの妖精は魔法に興味があるのだろうか。
「魔法だよ。」
先ほどリリーに見せた水のチューリップを作ってみる。2度目もやっぱり失敗してしまった。
「すごい!どうやってやってるの!?」
緑の妖精はおどおどする様子から一変して、目をキラキラさせながら前のめりに聞いてくる。少しうれしい。
「えっと、まず身体の中の........」
ふんふんとうなずきながら真剣に聞いてくれる。
「わたしにもできる?」
「もちろん。魔力は絶対誰でも持ってるんだって。まずは属性判定して、自分に合った魔法の種類を調べるの。」
魔導書のページを一番初めの属性判定のページに戻す。
「試してみる?」
「うん!」
わたしは一度やったことのある工程だったので、属性判定はスムーズにすることができた。緑の妖精は風属性だった。属性がわかってもリリーのようにすぐ使える様子はない。やはり、リリーが特別だったようだ。
「魔力を感じるって難しい........。」
「わたしは感じるまでに2年もかかっちゃった。わたしは無属性だから特別遅かっただけで、あなたはもうちょっとかかるかもね。あ、そういえばあなたの名前ってなんていうの?」
「わたしの名前はないよ?妖精の中では名前持ってるほうが珍しいもん。妖精女王様のお付きの子とあなたがいつも一緒にいる子だけ。あなたも名前ないでしょ?」
そうだった。
「リリーやそのお付きの子はなんで名前を持ってるの?」
「さあ?妖精女王様が名付けてるんだけど、詳しいことは知らない。」
「ふーん、じゃああなたのことリンって呼んでもいい?」
リンは少しびっくりするような顔をしたが、うれしそうに
「ありがとう。自分の名前をもらうって変な感じだね。」
と言った。
「わたしのことはナナって呼んで。あ、リリーが帰ってきた。」
「じゃあ、今度また魔法教えてね。」
リンは自分の花に戻っていく。
「誰?」
「今ちょっと仲良くなったの。リリーのほうはどうだった?やっぱり魔道の書のことで怒られたの?」
「ううん。それが........」
ナナは前世の名前です。