第二章 3 ーー 疑念 ーー
3
何か疲れてるんじゃないか?
と、一馬は茶化すこともなく心配してくれてくれた。親身になってくれるのは申しわけないと痛感していても、「うん」と智也は素っ気ない返事しかできなかった。
確かに記憶は曖昧である。
愛未が死んでいた、とどこかで疑っているのに、肝心なことが思い出せないことに嫌悪感を抱いてしまってしまう。
それでも、教室に現れた愛未をあれから直視でいきないまま、時間が静かに流れていた。
姫野愛未は死んでいる。
彼女を確認したからこそ、不可解な疑念が心を揺らしていく。
どこか、愛未が存在していたことを素直に喜べなかった。
家に帰り、スマホを睨んだ。
一言も発せず、唇を強く閉じながら時折髪を毟ってしまう。
どこか苛立ちに似た感情を抱きつつ、目を逸らせられない。
検索が止まらない。
キーワードは〝火事〟〝場所〟〝名前〟思い出せるものを並べてみた。それでも1つだけ記入できないものがあった。
日付である。
不思議と愛未が死亡したと思える日にちを思い出せない。
やっぱり、気のせいだから?
思い出せるワードを睨み、スクロールしていく。
「……やっぱり、ないか」
溜め息交じりにこぼれ、手が止まった。
テレビのニュースになる災害から、目撃者の証言。様々な項目は浮かび上がるのだけど、智也が気になる項目はやはりない。
何か、変な夢を見てたのかな。
胸の奥に竦む不安を掻き消そうと、自分にいい聞かせるしかなかった。