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第一章 5  ーー 幻 ーー

                    

            5



 あれは幻だったのか?


 と疑うほどに、そのあとの日常において姫野愛未は〝氷姫〟に逆戻りしていた。

 それこそ、自分が対峙した愛未は現実ではなかったのだと突き詰められたみたいに。



 意識していない、といえば嘘になってしまう。

 ただ、どちらかといえば、愛未に抱くのは好意よりも好奇心に近かったのかもしれない。

 机に肘を突き、無意識に愛未を眺める回数が増えていた。

 しかし、あれ以降で彼女の屈託ない笑顔を見ることができなかった。



 もしかすれば、また愛未の笑顔を見たいのだろうか?


「なあ、氷姫って、好きな奴とか、付き合ってる奴とかっているのかな?」

「氷って…… 姫野? なんだよ、お前。あいつのこと好きなの?」

 

 自分の部屋。

 じっと蛍光灯の灯りを眺めながら声が漏れてしまう。

 突拍子のない問いに、スマホ先の一馬は驚き、声を上擦らせた。


「バーカ。違うって、そんなの。大体……」


 その後の言葉を呑み込んでしまう。


「大体、なんだよ」

「いや、なんでもない」


 ただの呟きを見逃さない一馬を遮り、


「それより、沙良の奴本気なのか? この年になって七夕なんてさ」


 突然の提案のあと、半ば強引に持たされた短冊を手にし、蛍光灯にかざしてみた。


「あいつって言い出すと折れない奴だからな。ま、適当でいいんじゃないの?」


 げんなりとした声がスマホ越しに漏れ、智也もハハッと乾いた笑みをこぼした。


「んで、もしかして真剣に考えてるのか?」

「いや、そうじゃないけど」


 恥ずかしくて強がってみるけれど、内心では1つ浮かんではいた。


「ま、それはいいとして。姫野のこと、気になんの?」

「いや…… そうじゃなくて」 

「まあ、姫野の奴、あまり誰とも話すところを見たことないからな。もしかすれば、笑ったところも見たことすらないかも」

「やっぱ、そうだよな」


 やかり、放課後に見た笑顔は幻だったのか、と唇を噛んでしまう。


「……それとも、何かが原因でそうなったのかもしれないけれどな」

「何かって、何さ」

「さあ。それはわからないけど。う~ん、例えば陰湿なイジメに遭ったことがあるとか。それとか…… ま、それはいいか」

「なんだよ、それ?」

「さあ? 例えば、だよ。それなりの精神的なショックがあって、それで口を閉ざしたかもしれないって話だよ」

「……イジメとか、事故とかってことか?」

「可能性として、だけどね」


 一馬の憶測が妙に胸の隅に鋭く突き刺さってしまっていた。


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