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第一章 2  ーー 子供じゃないのに ーー

                       

           2



 沙良はよくいえば天真爛漫。けど、どこかワガママなところもある。

 態度からして、期待できないのは感じていたけれど、落胆を隠せず口を突いて出てしまう。

 素っ気ない態度で向き合っていると、沙良の笑みは崩れない。


「見てわかるでしょ、短冊よ」

「じゃないよ、僕らが聞いてるのは」


 手の平を見せて言う沙良に、一馬は途方に暮れて首を振る。

 また振り回されそうだな。


「こんな短冊で何をする気なんだって聞いてるんだ」


 メガネのブリッジを上げ、追及する一馬。智也は呆れながら短冊を手に取り、じっと眺めてしまう。


「もうすぐ七夕よ。それで短冊って言ったら、やることは一つでしょ」


 頬のそばで右手の人差し指を突き立て、沙良の笑顔はより自信に満ちて明るくなり、声を弾ませた。

 対照的に智也と一馬は不安を滲ませ、確かめるように互いの顔を見合わせた。

 もう嫌な予感しかしない。

 

「――それって」


 恐る恐る二人は視線を沙良へと動かすと、沙良は一度目を見開いたあと、満足げに深々と頷いた。

 嫌な予感は当たったみたいだ……。

 

「嫌だよ。そんな子供じゃないんだから」

「バカバカしい」


 二人はほぼ同時に否定した。不穏な事態を察して。

 一馬は体を反らして顔の前で手を振り、智也は手にしていた短冊を机に叩き返し、「無理、無理、無理」と苦笑した。


「場所はね、〇△駅の改札口。大きな笹が置いてあるの。そこに七夕の時期になると、この短冊が用意されていて、誰でも自由に書いて笹につけれるようになってるのよ。ね、面白そうじゃない?」


 パンッと沙良は手を叩いた。

 瞬間、二人の抵抗は遮断され、なかったことにされてしまった。

 もう反論は受けつけてくれないようだ。


「その笹も結構大きくて、駅員さんが綺麗に飾り付けしてていいのよ。ね、いいじゃん。やらない?」

「だから無理だっての」


 一馬は机に法杖を突き、断固拒否する。


「なんで?」

「……だから」

「いいじゃん、ね。智也なら一緒にやってくれるでしょ?」


 なんで、僕を名指しなんだか。

 眉をひそめ、梃でも動こうとしない一馬を諦め、標的を智也に絞り、屈託ない笑顔を献上されてしまう。


 いや、変な魔法でもかけられた?


 だからか、体は硬直してしまう。

 無邪気さが逆に怖くて逃れられない。沙良が嬉しそうに首を傾げると、より抗う気持ちを削がれてしまう。


「だから、短冊って子供じゃないんだから」


 最低限の抵抗はしてやりたい。

 それでも訴えは沙良には届いてはくれず、露骨に眉をひそめ、不満を浮かべた。


「そうだよ。高校生にもなって七夕って。同い年でそんなことする奴なんて――」

「いいじゃん。そんな年のことなんて」

「だからってなあ」


 一馬は助けを求め、同意を促してくると、智也も同情からか苦笑を隠せない。


「大体、何を書くんだよ」

「なんでもいいわよ。何かあるでしょ。願いごとの1つや2つ」


 困り果てて渋い顔を崩さない一馬のぼやきに、沙良は気にせず、短冊を書くことを諦めていない。

 ただ、先ほどの表情に比べ、笑みは薄れていた。

 瞬きをした間だったのか、智也には一瞬、沙良が真剣な眼差しになった気がしてしまった。

 ただの錯覚?

 

「願いか」


 智也の何気ない一言は束の間、3人の間に沈黙を運んできた。

 休み時間のざわめきが次に押し寄せ、沈黙を崩して一馬の溜め息が響いた。

 

「ラーメン食いたい。今は」

「もう、ふざけないで」


 一馬がお手上げ、と大げさに両手を振りふざけると、沙良は不貞腐れ、一馬の肩を叩いた。すぐさま一馬は肩を大げさにすぼめる。

 二人を見ていると、茶化したくなるけれど、2人から猛攻を食らいそうなのでグッと堪えた。

 バンバンッと肩を叩く音を流しながら、もう一度短冊を取り、ひらひらと揺らしてみると、ふと頭を抱えた。


「何? 智也は何か書くことある? 決まったの?」


 沙良の好奇心がどうも痛い。

 どう逃げようかな、と悩んでいると、休憩時間の終わりを告げるチャイムが校舎に鳴り響いた。

 チャイムの音が沙良の好奇心を邪魔してくれ、眉をひそめてくれた。

 これで解放される。


「ねえ、どうなのよ?」


 ただ、チャイムの圧力に負けず沙良は好奇心をぶつけてくる。より目を輝かせ、声を弾ませながら。

 どうやら逃げられないのかな……。



 願い…… か。


 心の片隅で微かに生まれた姿に無理矢理蓋をした。


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