二匹の黒猫は気まぐれな郵便屋さん
第一話 ネムとキノ
野良猫だった僕たちを拾い、大切に育ててくれていたご主人様がいた。
黒猫ネム(メス)と黒猫キノ(オス)。
ご主人様は誇りを持って郵便屋さんの仕事をしている人だった。
でも、ご主人様は2週間前に亡くなってしまった。
ご主人様の思いを繋ぐ為、僕たちは郵便屋さんになった。
しかし、真面目なご主人と違ってネムとキノは気まぐれな性格だった。
同じ街に住む人たち限定で、更には気が向いた時にしか現れない。
そう、これはつまり手紙を持っている時に偶然、ネムかキノが通り過ぎなければいけない。
これはなかなかに難易度が高い。
それ故に、手紙を黒猫に預ければどんな相手にも必ず思いが届くというジンクスがある。
誰にも譲れないほど強い思いがあれば来る、本当に必要な人のところへは来る、黒猫にラブレターを届けてもらえたら恋が叶う、などなどこの街には色々な噂があった。
第二話 海を越えて
私にはマリーという友人がいる。
マリーとの出会いは2年前。短期留学でカナダに行った時のことだった。
学校で初めて話しかけてくれたのがマリー。
マリーは明るくて優しい子だ。
誰に対しても分け隔てなく接する事ができる。
彼女の魅力は性格面だけでなく、豪快な面もあるところだ。
彼女は三人前をペロリと完食するほどの大食いなのに食べ方が綺麗なので見ていて気持ちがいい。
そんな彼女を見ていると、自分の悩みがちっぽけに感じた。
〜2年前〜
カナダの語学学校。
緊張して固まっている私に最初に話しかけてくれた女の子がいた。
マリー「はじめまして!私マリーって言うのよろしくね!」
人懐っこい笑顔で彼女は名前を教えてくれた。
紗南「よ、よろしく・・・」
マリー「あなたのお名前は?」
紗南「紗南」
マリー「紗南!いい名前ね」
マリーと言う名前はマリーゴールドの花の名前から付けられたそうだ。
元気なイメージが強いオレンジ色と可愛らしい花がマリーにピッタリだと思った。
マリー「私この名前気に入ってるの!」
本人も自分の名前が気に入っているらしく、嬉しそうに名前の由来を話してくれた。
私はというと自分の紗南という名前はなんかパッとしないしあまり好きではなかった。
でも、初めて自分の名前を人に褒めてもらえた。
例えそれが社交辞令だとしてもこの名前も悪くないかもと思えた。
マリー「紗南は日本から来たの?」
紗南「うん、マリーは?」
マリー「私はイギリスよ!」
私達は勉強の話からお互いの出身地の話まで色々な話をした。
最初はひとりぼっちで寂しくて勉強も理解できないことが多くて大変だったけど、マリーの存在が私を支えてくれた。
日本に戻って来てから私達は手紙のやり取りをするようになった。
携帯でいいじゃないかと思う人もいるだろう。
私もそのうちの一人だった。
けれど、マリーが手紙を書くのが好きだと聞いてお互いに手紙を出し合おうと決めたのだ。
まさか手紙を書くことになるとは思っていなかったけど、マリーからの手紙を読んでいると確かにメールでは伝わらないものがあるように思う。
メールでは伝わらない感情や温もりが感じられるのは手紙ならではだと思う。
文字も声みたいに喜怒哀楽が現れる、そんな気がした。
だから明るい話題が書いてあっても悲しみ、辛さが伝わってくる時もある。
きっと自分が苦しんだり悲しんだりしていることを私に気付かれないように、心配させないようにと元気な自分を作っているのだろうと分かる。
彼女はいつもギリギリまで我慢する癖があった。
体調が悪くても周りの人に言わず、倒れるまで我慢してしまうような人。
私は彼女に助けてと言えるようになって欲しい。
自分の本当の感情を抑えつけないで欲しい。
確かに元気で明るいマリーには何度も励まされてきたし、慣れない海外生活のなかで彼女の存在が支えになっていたのは事実だ。
でも、いつまでもそんなことを続けていたらいつかマリーの心が壊れてしまう、体が壊れてしまう。
泣いたっていい、上手くいかないことがあったらヒステリーを起こしたっていい、辛い時は助けてって言っていい。
少しくらい我儘を言ったって誰も彼女を責めたり嫌いになったりしないのに・・・。
きっと彼女は暗い自分を見せて周りの人が離れていくことが怖いんだ。
確かにマリーが明るい雰囲気を纏っていたら周りの人は幸せになれるかもしれない。
でも、その結果マリーが苦しい思いをしていたとしたら?
私はそんなの嫌だ。
友人が苦しんでいるかもしれないのに見て見ぬふりなんてできない。
心配だけど遠い国にいるマリーにすぐに会いに行くのは難しい。
せめて私の手紙でマリーを励ませたら・・・。
彼女に何があったかだけでも聞けたら・・・いや、優しいマリーのことだから"何もないわ、私は大丈夫よ、それより紗南はどう?風邪引いたりしてない?"って言うだろうな。
私は姉さんに相談してみることにした。
姉さんは私の二つ上だ。
姉「あなたはそのマリーって子に似てるね
そういう時は素直に聞けばいいのよ
あなたが聞きたいことを回りくどい言い方なんてせずに真っ直ぐに
相手の心を開きたいならまずはあなたが開かなくちゃ」
紗南「私も心を、か・・・」
姉「ねぇ、手紙を書くなら黒猫に届けてもらうのはどうかしら?
マリーって子、猫が好きなんでしょう?」
紗南「うん、特に黒猫が好きだって言ってた」
姉「ならちょうどいいじゃない
いつも通りのやり方だと相手も今まで通りの接し方のままになっちゃうかもしれないけど
いつもと違う方法で黒猫が届けに来てくれたってなったら、相手も何か変えてみようって意地を張らずに、肩の力を抜いて手紙と向き合えるんじゃないかしら
黒猫が心を開く良いきっかけになってくれるかもしれないわよ」
そうか、彼女は私に似てるんだ。
言われてみれば私は当たり障りのないやり取りをしていた。
唯一できた友人が離れていくことが怖かったから。
でも、もしも彼女も私と同じように誰かが離れていくことが怖いと思っていたとしたら?
マリーと私は性格は全然似ていないし見た目も全然違う。
だから彼女と私は似ている部分なんてないと思っていたけど似ている部分もちゃんとあったんだ。
似るならマリーの良い部分が似れば良かったのにと私は心の中で苦笑した。
私も心を開く、真っ直ぐに言葉を・・・?
紗南「でも姉さん、確かその黒猫って気まぐれで郵便やってるんだよね?そう都合よく会えるものなのかな」
姉「あなたのところへは来ると思うわよ」
紗南「何でそんなこと分かるの?」
姉「だって私、あなたの姉だから」
姉さんはそう言うとふふふっと笑った。
それは理由になってないのでは?と思ったが、姉さんが言うならそうなのかもしれない。
姉は昔から妙に感が良い。
私はさっそくペンを手に取り、手紙を書き始めた。
"マリー、何かあった?
何か悩んでいるでしょう?
辛い時は頼って欲しい、それが友達じゃない、と"
それはマリーが私に言ってくれた言葉だった。
"紗南、何かあったら私を頼ってね!私達友達なんだから"
姉の言った通り、手紙を持って外を散歩していたら黒猫が現れた。
"あなたのところへは来ると思うわよ"
"何でそんなこと分かるの?"
"だって私、あなたの姉だから"
姉の言葉を思い出しながら私は黒猫に手紙を託した。
紗南「黒猫さん、お願いね」
ネム「にゃー」
黒猫は小さな赤いバッグを体から掛けていて、赤いバッグには白い郵便局のマークが付いていた。
黒猫はにゃーと返事をした後、歩き出した。
二週間後、黒猫は再び私の元に現れた。
黒猫が届けてくれたマリーからの手紙には悩みが書かれていた。
どうやら、今まで誰にも言えずに一人で抱え込んでいたらしい。
そしてその話の後に、"紗南にも悩みがあるでしょ?"と。
どうやらマリーには全てお見通しらしい。
私は今悩んでいること、何に苦しんで何に悲しんでいるのかを手紙に書いてマリーに送った。
今度は黒猫、ではなく普通の郵便を使った。
何となく、次は来ない気がした。
お互いの悩みを交換し合えたことで、私たちは前よりも仲が深まった気がした。
マリーからの手紙に"黒猫さんがこんな遠い場所まで届けてくれるなんて感動したわ
黒猫さんを見ていたら不思議と自分をさらけ出したい気持ちになったの"
そして最後に"心配してくれてありがとう"と書かれていた。
"ほらね?"と姉の声が聞こえた気がした。
第三話 推し様へ
例え感謝の気持ちであってもこの気持ちを伝えたいというのは私のエゴに過ぎないと思った。
だから心の中を整理する為に、紙に気持ちを書き出すだけ書いたらゴミ箱に捨てるつもりだった。
この紙切れがまさか推し様に読まれてしまう日が来るなんて・・・手紙を書いている時には思いもしなかった。
私は書いてしまった手紙を供養しようと神社に向かった。
そのまま自宅のゴミ箱に捨てても良かったが、気持ち的に供養してもらいたかった。
そうすればスッキリする気がしたから。
ここは推し活にご利益があると言われている神社だ。
しかし、その時事件は起きた。
私が神社の鳥居の前にたどり着いた瞬間、突風が吹く。
キサ「うわっ」
手紙が私の手を離れて風に舞う。
慌てて取りに行ことする。私の動きとは反対に、手紙の動きがやけにスローに見えた。
手紙が舞い降りた先には黒猫が座っていた。
キノ「にゃあ」
黒猫はその手紙を口に咥えた。
キサ「え、黒猫??」
キノ「にゃー」
キサ「え、ちょっとま・・・」
黒猫はすぐにいなくなってしまった。
ひゅーと風が吹き葉っぱが飛んでいく。
あの黒猫、郵便屋さんだよね?勘違いして持っていかれてしまった・・・でもまぁ、冷静に考えて手紙に名前は書いてあるけど住所は書いてないし届くわけないから大丈夫だよね。
あんな内容、アオさんに読まれたらと思うとぞっとするもん。
黒猫さん、戻さずにどうか燃やして下さい・・・。
アオ様。
アオさんは私の一番大切な人。推し様だ。
あなたが幸せならそれでいいなんて自分に言い聞かせているけど
本当はあなたに会いたい。あなたの声が聞きたい。あなたの笑った顔が見たい。
本当はあなたに感謝を伝えたかった。
少し前にファンの人がリクエストした文字をアオさんが書いてくれた事があった。
そしてあなたは私が送った"夢"という文字を書いてくれた。
その日が来るまでの1カ月間、私は体調が悪く、吐き気が酷かった。
精神的にもかなり落ちていた。
でもアオさんが"夢"を送ってくれたあの日から体調が良くなって、精神的にも楽になった。
大好きな人の力って本当に凄いと実感させられた。
アオさんは"奇跡はそうそう起こらないよね"とイベントで言っていたけど私にとってこれはまさに奇跡だった。
だってこの日は私の誕生日だった。
私の世界が輝いているのはあなたに恋をしているからなのか、それともあなたが太陽のように眩しいからなのか。
きっとその両方でしょうね。
大切に思うこの気持ちが恋や愛ではないとするならば
人は何と呼ぶのだろう。
いや、この感情に恋や愛と名付けてしまうのは野暮というもの。
そんな些細なことはどうだっていい。
あなたが生きてさえいてくれたら、あなたが生きていてくれるだけで力になるのだから。
あなたに出会えて良かった。
あなたを大好きになれて良かった。
感謝しても仕切れない。
ありがとうも大好きも伝えるのは私のわがままでエゴだからこの気持ちは手紙に書いて捨てることにする。
それが一番いいと私は思う。
しかし、しっかりその手紙は本人の手に渡っていた。
黒猫は仮に会社の住所が書かれていたとしても、直接本人にしか渡さないらしい。
キノ「にゃあ」
アオ「黒猫さん、僕に手紙?」
アオがしゃがんで話しかけるとキノは口に咥えた手紙をアオに渡した。
アオ「ありがとう」
キノ「にゃー」
キノはにゃーと鳴くと歩き出した。
アオ「ファンレターかな?・・・
あれ、あの時のキサさんって人がこの手紙の主?
ん?この内容を見る限りキサさん自身は僕に手紙を送る気はなかったみたいだな
何がきっかけで黒猫さんの手に渡ってここまで持って来たんだろう
でも、こんなに真っ直ぐな手紙初めて読んだな・・ふふ」
思わず笑みが溢れたアオは手紙を読むと紙とペンを取り出して返事を書き始めた。
キノ「にゃあ」
キサ「あ、黒猫さん・・・私に手紙?ありがとう」
キノ「にゃー」
キノはにゃーと返事をすると歩き出した。
キサ「黒猫さんは気まぐれでしか郵便配達しないって聞いてたけど
私に手紙って誰からだろう・・ってえぇ!?アオさんから!?」
手の震えで手紙を落としそうになるのを必死で耐える。
キサ「う、うそ・・・こんなの奇跡だよ・・ん?ってことはあの手紙読まれて・・・」
恥ずかしさで死にかけた。
キサさんへ。
お手紙ありがとう。それと誕生日おめでとう。
キサさんの気持ちちゃんと届いたよ。
黒猫さんが来た時はびっくりしたけど、手紙を読んでキサさんが僕に渡すつもりはなかったと気付いたんだ。
僕にはどうやって黒猫さんがキサさんの手紙を持ってここまでたどり着いたのかは分からない。
でもね、僕は嬉しかったよ。
僕のやったことが力になっていたと知ることができたから。
君はあの時のキサさんだったんだね。
キサさんはきっと素直で真っ直ぐな人だね。
文章を見て思ったよ。
いつも応援してくれてありがとう。
これからもキサさんに応援してもらえるように頑張るからどうか見守っていてね。
アオより。
キサ「黒猫さんありがとう、ありがとう・・・」
その後のイベントにて・・・。
アオ「ひょっとしてキサさん?」
キサ「え!?どうして・・・」
アオ「さっき手紙を大事そうに持ってるところが見えたからもしかしてって
お守り代わりに持って来たの?」
キサは顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。
アオはフッと微笑んだ。
キサ「あの、これからも応援してます!」
キサは震える声で精一杯言葉を送った。
アオ「!ありがとう」
"アオさんの笑顔尊い・・・我が人生に一片の悔いなし!私もう死んでもいいなぁ"
帰りの電車めちゃくちゃ泣いた。
第四話 最後のラブレター
僕は花屋を経営している。
この店には週に一度、必ず花を買いに来る女性がいた。
歳はたぶん近いと思う。
4年前に旦那さんが亡くなって以来、仏壇にお供えする花を買いに来る。
治(75)「いつもありがとうございます」
秋子(78)「いいえ、私の方こそいつも素敵な花をありがとうね」
最初に秋子さんがこの店に来た時は目の周りが赤く腫れていた。
旦那さんの通夜の直後で沢山泣いたのだろう。
それから少しずつ元気を取り戻せたようで、最近では笑顔を見る回数が増えて僕は内心ホッとしていた。
そう、僕は彼女に恋をしている。
僕はというと、結婚もせず花屋を続けるしがない老人だ。
平凡な日常に彼女の笑顔が見られればそれで良かった。
しかし、ここ1か月、彼女は花屋に訪れなくなった。
どうしたのだろうと心配にはなったが、住んでいる場所も連絡先さえ知らない僕にはどうすることもできなかった。
それからすぐの事。
ネム「にゃあ」
店の前に黒猫が座っていた。
治「おや?黒猫さんどうしたんだい?」
黒猫の体には小さな赤いショルダーバッグが掛かっていてバッグには白い郵便マークも入っている。
口に手紙を咥えていた。
治「ひょっとして僕宛にかな?」
治はしゃがんでそっと手を差し出し、手紙を受け取った。
差出人は秋子さんからだった。
治「黒猫さんありがとう、確かに受け取ったよ」
ネム「にゃー」
黒猫さんは僕がお礼を言うとにゃーと返事をして歩き出した。
手紙には入院することになりました、お店に行けなくてごめんなさいという内容と、病院名が書かれていた。
僕は店にあった花を持ってすぐに病院に駆け付けた。
秋子さんのいる病室の前で深呼吸をし、乱れた呼吸を一旦落ち着かせる。
そして扉を開けた。
そこには、前よりも少し痩せた秋子さんの姿があった。
病室には秋子さんの娘さんがいた。
秋子「治さん、来てくれたんだね」
娘「あなたは確か花屋さんの・・・母のお見舞いに来て下さってありがとうございます
私はこれで帰りますから後はよろしくお願いします」
治「はい」
秋子「いつもありがとうね、気をつけて帰るんだよ」
娘「お母さんったら私もう50過ぎてるんだよー?いつまでも子ども扱いなんだから」
秋子「ふふふ」
何とも微笑ましい会話だ。
治「黒猫さんから手紙受け取りましたよ、猫が郵便屋さんをやっていると噂には聞いてましたが正直かなり驚きました」
秋子「黒猫さんが郵便屋さんをやっていると聞いた時は私も驚いたわ
でも、最後に手紙を書くならぜひ黒猫さんに任せたいと思ったのよ」
"最後"という言葉が僕の胸に突き刺さる。
僕は一呼吸置いた後。
治「秋子さん、不謹慎かもしれませんが
僕はあなたが花屋に来てくれるのを毎週楽しみにしていました
あなたの笑顔を見ることで、僕の日常の中にあった虚しさが救われていたんです」
秋子「治さん、ありがとう、そんな風に思ってもらえて嬉しいわ」
治「秋子さんにあんなに大事に思ってもらえて旦那さんもきっと喜んでいると思いますよ」
秋子「そうね、でもね治さん、私が花屋に通っていたのは旦那の為だけじゃないのよ」
治「え?」
秋子「こんな言い方をしたらずるい女だと思われてしまうかもしれないけど
花屋に来ていた理由の半分は治さんに会う為だったの
あなたは旦那が亡くなって途方に暮れていた私の支えになってくれていたのよ」
初めて聞いた。秋子さんが僕の店に来てくれていた理由
。
旦那さんの為だけじゃなく僕に会う為にも来てくれていたなんて・・・。
秋子「私、あなたが好きよ」
秋子さんはこけた頬に笑みを浮かべた。
治「秋子さん、僕もあなたが好きです」
僕は意外にも素直に好きだと言えた。
今伝えなければ後悔すると分かっていたから。
僕は秋子さんの手をそっと握った。
秋子さんはホッとした表情を見せた後、そのまま目を閉じた。
伝えたかったことを伝えられて安心したのか、僕が手を握ったことで安心したのか。
秋子さんは穏やかな眠りについた。
そして彼女が目を覚ますことは二度となかった。
最終話 黒猫さんありがとう
今まで手紙を受け取った人達からネムとキノに向けて手紙が届いた。
ネムとキノは一緒に一つ一つ丁寧に読んだ。
"黒猫さんへ
黒猫さんのおかげで友人と腹を割って話すことができたよ
直接会っていたら衝突してしまっていたかもしれない、メールだったら感情を読み取れなかったかもしれない、
届けてくれたのが黒猫さんじゃなかったら心を開いてくれなかったかもしれない
手紙だからこそ黒猫さんだからこそ伝わる何かがあった
手紙だからこそ自分の気持ちを素直に表現することができたと思う
黒猫さん手紙を届けてくれて本当にありがとう
紗南より"
"黒猫さんへ
黒猫さん、ハプニングから手紙が推し様に届く形になってしまったけど
推し様からね、応援してくれてありがとうって言ってもらえました。
しかも!なんと!誕生日おめでとうって言葉までもらえたんです!
この手紙は家宝にするしかないです!
黒猫さん、ありがとうございます!黒猫さん尊しです!
これからは私の推しはアオさんと黒猫さんです
キサより"
"黒猫さんへ
黒猫さんありがとう
黒猫さんが届けてくれた手紙のおかげで彼女と最後に話ができました
ずっと片想いをしていた彼女から好きだと言ってもらえて僕からも好きだと伝えることができました
本当にありがとう
治より"
キノ「いつもは届ける側の僕らが受け取ることもあるんだねぇ」
ネム「ご主人様が言ってたのはこのことだったんだね」
ご主人"手紙を届けていたらね、ある日、私宛に手紙が届いたんだ
感謝の言葉がたくさん書かれていた
それがすっごく嬉しかったんだよ"
キノ「きっとご主人様は空からいっぱい褒めてくれてるよ」
ネム「うん、そうだね」
今日もネムとキノはこの街で手紙を届けている。