風土病にはご用心8
突っ伏して休んでたら、顔をペロペロと舐められているんだよ。流石にかなり驚いて、顔を上げると、
「し、鹿?」
よく見ると鹿には先程まで私が掴んでいたツルが胴体に巻きついているんだよ。
「あなたも私を穴から出す為に頑張ってくれてんだね。ありがとう。シカさん。」
私は、起き上がってシカさんの顔を撫で撫でして、首元を軽くさすってあげたんだよ。犬も猫もここら辺が何故か凄く気持ちいいみたいだしね。
鹿さんも同じかなって思ってしてみたんだよ。
案の定、シカさんの可愛い尻尾がフリフリしてるし、喜んでもらえてよかったんだよ。
シカさんが私の顔に顔を擦り寄せてくる。何かなってみたら、顔を胴体の上を見て、私を見て、上に乗ってとばかりに顔をクイッイッと上下に動かしてくれたんだ。
私は、シカさんの背中にまたがった。一度、日本にいた頃、乗馬クラブのイベントで小さい馬のポニーに乗せてもらったことがあるけど、あれより一回り細いので、少しバランスを取るのが難しいんだよ。
足をかける(あぶみ)もないし、口輪もないから、掴まる紐もない。私はちょっといや、だいぶ格好悪いけど、寝そべって。シカさんの首に抱きついて手を回して、両手でロックしたんだよ。
足は振り落とされるとまずいので、両腿で、シカさんのお腹をサンドイッチしたんだよ。
「シカさんありがとう。山の麓まで降りてもらえるかな。その先はなんとかするので、そこまでお願いしてもいい?」
シカさんがコクンと首を下げる。ちなみに小人さん達は、私の背中の上に6人みんな乗っかってるんだよ。青い小人さんは、シカさんの頭の上に乗っかって陣頭指揮を取ってるんだよ。楽しそうでいいな〜。
でも、よかったよ。穴から出たはいいけど、足元の悪い中痛い足を引きずりながら降りるのはしんどそうだったしね。
私と7人の小人さん達は、シカさんの上に乗ってゆらゆらと道なき道を降りていったんだよ。
麓に着く頃には完全に陽が落ちかけていた。
「アカネー迎えに来たぞー」
「アカネお姉様〜どちらにいますか〜。聞こえていたら、返事して下さいましー」
マッシュ兄さんとキャロットちゃんの声が聞こえてくる。
なんで叫んでいるんだろう?マッシュ兄さんとキャロットちゃんには、穴の中で待ってるって言ったんだけど……
あっ、もしかしてすれ違いで既に兄さん達は、山に登っていないのを確認したのかな?どちらにしろ、早く返事しないとね。
「マッシュ兄さん。キャロットちゃん、私はここにいるよ。山の麓まで降りて来たんだよ。」
私も精一杯の声を張り上げて返事をした。
「分かった。今そっちに行くから動くなよ。」
マッシュ兄さんの声が聞こえてくる。
「シカさんありがとうね。なにかお礼が出来たらいいんだけど………。そうだ、確かあれがあったはず。」
私は、ポケットの中を漁り、あるものを取り出したり
「はい、これ食べて。私の非常時用のおやつだよ。」
シカさんの口の前にお菓子を出すと、不思議そうに鼻を寄せて匂いを嗅いでいたが、問題ないことを確認出来たのかペロっと食べてしまった。
よっぽど美味しかったのか、お菓子のあった手の上をペロペロと舐めて、それでは飽き足らずに私の顔をペロペロと舐めて来た。
「ちょっとシカさん、くすぐったいよ。もっと上げたいけど、もうないんだよ。また来たらその時にあげるね。」
シカさんは、意図が伝わったのか舐めるのをやめて、頭を一度コクンと下げる。そうだ、次来た時にこのシカさんだと分かるようにしておこう。
私は、ポケットの中からハンカチを取り出し、ぐるぐると巻いて、棒状にして、シカさんの首に巻き付けた。
「これでまた次にあっても、分かるね。バイバイシカさん。助けてくれてありがとう。」
シカさんは、ゆっくりと山へ戻って行ったんだよ。
「小人さん達もありがとうね。マッシュ兄さん達にバレるとまずいからすぐ送還するね。お菓子は持ってないから、次に召喚した時に沢山用意しとくね。またね。」
私は小人さんに手を振りながら、送還した。
それから少し経ってマッシュ兄さんの足音が聞こえて来たんだよ。